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 他の同窓生達がガヤガヤと騒ぐ中、菊田はビールに口をつけながら、カクテルを煽る律子と話をしていた。

「何年ぶりかしらね、菊田君と会うのって。ちょうど、二十年ぶりくらい?」

「それくらいになるんじゃないかな。卒業以来だし」

「そっか、もう二十年かあ。そりゃあ私も、おばさんになるわけよね」

「……うん」

「やだあ。ここはお世辞でいいから、全然おばさんなんかじゃないよって言うところでしょ? ま、そういう正直なところ、菊田君らしいけどね」

「あ、ええと。ごめん」

「謝らなくてもいいわよ。うふふ」

 律子はニコリと笑ってから、酒を口に流し込む。そして今度は、現在の身の上について尋ね始めた。

「ねえ。菊田君は何の仕事をしてるの? 私は今、商社に勤めているんだけど」

「今? 今は、職探し中」

「嘘! もしかして、まずいこと聞いちゃった?」

「いや、単に定職に就いてないってだけで。金がなくなったらバイトとかして、ある程度溜まったら一旦やめてるというか」

「どうして? 菊田君なら真面目だし、雇ってくれる会社なんていくらでもありそうなのに」

「……」

「そっか。話したくないなら、無理しなくてもいいよ。私にも、詮索されたくないことだってあるし」

 律子はそう言うと、ちらりと自身の左手に目をやった。その薬指には何もつけられていなかったが、心なしか根元が少しくびれているようにも見えた。

「生きていれば色々あるよね。楽しいことも、つらいことも。あ、何か暗い話になっちゃったね。久し振りに会ったのに」

「いや、大丈夫。愚痴とかも、全然。俺でよければ聞くから」

「優しいね、菊田君は。そういうとこ、変わってないね」

「…………」

 変わっていないのは、律子の方だ。……優しいのだって。

 菊田は心の内を覆い隠しながら、軽く表情をほころばせた。

 もしあの日のことを話したとしても、彼女はきっと覚えていないだろう。いや、例え覚えていなくたっていい。彼女の一言で幾分か救われたのは、紛れもない事実なのだから。

 菊田はビールをグイッと飲み干し、少しとろんとしながら天井を仰ぐ。そしてゆっくり目をつぶると、律子との思い出を胸に反芻させた。

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