enter7>>離解
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「……痛…っ」
目覚めは最悪だった。頭痛が激しい。視界が眩む。全身が鉛の様に重い。気持ち悪い、吐き気がする。
この展開はあれだ。タイムスリッパ……じゃねぇや、タイムスリップしたとかそーゆーSF的展開なんだ。きっと。うん。きっと。
重い上半身をあげると、真っ白な部屋にいた。
窓も扉もない、真っ白な部屋。壁も天井も床も、磨いたように純白でつやつやと輝いている。
蛍光灯があるわけでもないのに、部屋はとても明るい。
……何故だろう、何も考えられない。
砂嵐は微かに目の前に現れ、消える気配もない。そのせいでか、思考が働かない。このまま、ぼーっとしていたい衝動に駆られる。
「……駄目だ、僕のかわいい脳みそちゃんがお疲れだよ……」
危険性がある無意味な呟き。だが、呟いたおかげなのか思考回路に電気が通り始めた。
…何故だか腕に不快な重みがある。全身が重苦しいというのもあるが、腕は物理的な意味で重かった。
「え、…ははは、………」
両手首に嵌められた枷。所謂、手錠が装着され、両手が自由に動けない。黒い、金属性の手錠は理不尽に僕の腕に絡み、軽い音を立てた。
とてつもなく笑いが込み上げる。爆笑。
「はははは…は……」
そして丁重に、極めて丁重に息を吸い込み、
「す…っいませんでしたあぁ!僕は!極めて善良なる市民であり善良過ぎましてですね!天皇陛下より直々なる賛辞の言葉を………いや、嘘ですすみません何でも言います話しますだから解放してくだちゃいぃい!!」
…ここまで息継ぎ無しで必死だった。んで、もち噛んだ。
噛み噛みでそこまで言い切ると、清々しい程に静かになった。相変わらず、部屋はキラキラと輝いている。
溜息を大量生産しながら右の壁にもたれ込む。
ぐ……、ぽち。
…アニメなどでキャラクターがスイッチをおしたような、変な音が聞こえた。ドラ◯もんが、ボタン押したよ、みたいな。助けてドラ◯も~ん、みたいな。……百々のつまり、危機感を感じ恐る恐る上半身をあげると、…明らかに押し込まれたスイッチ発見。
…何、これ。
…何、このスイッチ。
「…………爆破装置?」
はっはっはっ、まっさかー!
もー、僕たらぁー
かわいい発想しちゃうなぁんもう!
……、
………………。
そして。
「う゛ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!?!?」
死に物狂いで壁一面を叩きまくった。これは駄目だ!しゃれにならないですね!!てか主人公に死亡フラグは立たないんじゃなかったっけ!?
手の平がじんじんと痛む。
暫くしても爆破はしないことに気付き、急いで座り直す。
手の平には、小さいが傷ができていた。あうち。
「何だ………ふっ、急展開過ぎてキャラ崩壊してたぜ…」
優雅に乱れた髪を払い、アフタヌーンティーを飲みながら(嘘です)壁にあるモノを見詰める。
赤い丸い、直径10cm程のスイッチ的な何かが床から生えてる。
何かの、ののっ!?いてててっ
まさかの突然の揺れ。地震かっ!?
揺れのせいで舌を噛んでしまった。激しい揺るれれっ…めっちゃ舌噛むな。
手錠がかかっているせいで、体が不自由だ。
座りながら前傾姿勢で、両手で頭を抱え込んでいると前のめりになり這うような体勢になった。肘打って、びりびりきた。めっちゃ痛い。でででっ
そして、暫くして揺れは止まった。舌がひりひりする。
何事もなかったかのように、静まり返る部屋。すると、正面の壁の一部が横にスライドし始めた。僕は酷く狼狽した。
数分後スライドが止まると、横3m、縦2mの窓が出現していた。部屋の大体の広さが今ようやく分かるというね、遅いね。
「……まど…?」
ゆっくりとその窓に近き、ガラス窓にそっと触れた。凄く冷たい。あまりの冷たさに慌てて指を離した。
そして視線を、ゆっくり、ゆっくりと下に下げ、窓の外を覗いた。
何故か覗かなければならない、そんな気がした。
「……工場…?」
窓の外には文字通り、そんな世界が大きく広がっていた。
よくわからない機械の数々。その間を通り抜ける、ベルトコンベア。ベルトコンベアの上には、組み立て中(?)の機械。
「…え、機械……かアレ…?」
目を凝らすと、最終工程的なところを通った機械は機械には、……見えなかった。
「あれ、[人]だ…」
永遠と、[人間]が作り上げられている。
明らかに、生々しい肉体が今にも聞こえてきそうな粘着質な音を練りたてながら制作されていく。
僕、ヤバいとこにいるのかもしれない。ようやく気がついて、一歩下がる。手錠がかしゃりと、音をたてる。
呆然と見つめていると、涙が頬を伝った。
……あれ、何故泣く?
涙を急いで拭く。そうしたらようやく、機械の姿がはっきりと見えるようになってきた。
しかし、拭いても流れ出す涙の理由を知ることになってしまう。
……いや、僕は嘘をついている。
気付いていたのだ…
失ったはずの大切なものである、と。
「……っ…」
冷たさなんてお構いなしに、窓に手をついた。
蛙が潰れたような音が喉から鳴る。手に力を込めた。ガラス張りの窓がきしめく。だって…あれは、紛れも無い…
「…琉知亜じゃないか……」
大量に造られた機械の顔は氷籐琉知亜、そのものだった。
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「…琉知亜の、機械……」
こんなに沢山……。
琉知亜、なのか本当に?いや……どう見ても、琉知亜だ…
もしかして……
今まで過ごしたのは、[この琉知亜]?
じゃあ…
何でもかんでも世話を焼いていた記憶は?
母親のように鬱陶しい程付き纏ってきた記憶は?
小さい頃遊んだ記憶は?
他愛ない会話で笑いあった記憶は?…ついこの前、いつものように一緒に朝餉を食べた…記憶は?
何もかも……
この機械との記憶…?僕は独り言を機械に呟く、危ない奴だったというのか…
涙は、出なかった。
何故か[またか]、と思っただけだった。
僕は[また]、妄想や想像を現実と入れ替えていたのか。
笑うしかなかった。笑うことしか、できなかった。
………もう、どうにでもなれ。
「……選択肢は、本当にそれだけか」
後ろから、声が聴こえた。
幻聴か、無視しよ。もうどうでもいい。
「…本当に、そう思うのか?」
また、背後から同じ声がした。意識がそちらを注目し始める。
頭の中で、繰り返し声が聞こえているように聴こえた。…知り合いと再会したような感覚がする。
……僕は、頭がおかしいんだ
そうだ。
僕は、狂っている。普通じゃない。
「…ならば、仕方がない。気が済むまで、泣け。」
再び、声。
泣いて…
…泣いて…ない、泣いて……る…だと…?
う、ううううううぅぅぅぅ煩い五月蝿いうるさい!!
思い切り振り向き、大声でそう言ったつもりだった。だが、音が出ていない。
「衝撃的なものを目にすれば、脳に反応が起きて声帯が活動を一時的にやめることもある。滅多なことではないがな。」
振り向いた先には、絵に描いたような短髪マッチョな二枚目がいた。推定年齢、40代。
…誰?
「…ふむ、面白い。私は[No.01]。異脳達を仕切り、裁く者だ。」
…ナンバーゼロイチ?
いのしし?砂漠?
何を言っているか、皆目検討もつかない。
日本語喋って下さい。お願いします。
馬鹿だから全部かみ砕いて喋って下さい。
Please can you speak japanese!?
…あれ、なんか違う?ああ、そうですよそうですよ。僕には英語の能力は0ですよ!頭ん中、思春期真っ只中だからな!はははは!!!
「…少年は実に面白いな。私は日本語を喋っているよ。まあ、最初は皆混乱するものだからな。」
あ、そうなんスか。へー…そうなんスね…へー…
………………あれ…………ん?あれ?
え、え、何何?え、何?
あ、え、……あれ!?
僕はさっきから、全く[喋っていない]!
頭では言葉を話すが、声が出ないはずだ…!
何故、この短髪マッチョ二枚目推定(以下略)は…
[僕の言葉を理解している]?!
「私は、[そういう異脳]を持ち合わせているものでな。」
ヤンキー座りで、突っ伏す僕を見下ろしている。
いのう…。異能力?特殊能力のことか…?
なんだ…気味が悪い。
おかしい。おかしすぎるだろ…
何の夢だコレ。…あ、厨二病?
「……少年は、[そういうもん]なんだろう。無理にでも理解をしろ」
言われた途端、心臓が波打つのがわかった。
enter>>異脳者date
名前:異脳者No.01
年齢:53歳
性別:男性
発覚:34歳
入隊:36歳
追記:特になし
備考:指導兵
以上