enter5>>終憶
長いゾンビルートから脱出できそうな予感。
……予感よ、的中してくれ。
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「…あーぁ…」
嫌な夢を見た。
忘れたくも忘れられない特殊な夢。今すぐ記憶から引っぺがしたい。
溜め息をついて、汗を拭った。
中途半端に閉められたカーテンの隙間から、橙色の朝日が見えている。朝がまた来てしまった。
陰欝な気持ちを引きずって伸びをする。固まった全身の節々が伸びて、ばきばきと音がなった。
一連の事が夢であれば、と願う間もなく感じる現実。目の前には、死体。
あの日から丸二日経った。知りたくはなかったが…やはり、この島の生存者は僕等と琉知亜しかいないらしい。食料品店や住宅街など、何度も通っているが人らしい人は全く見かけなかった。
琉知亜はニ日前以降、遭遇していない。
あいつなら、一人でも生活できるだろう。心配はいらない。
出会ったのは謎のグロい奴等だ(とりあえずゾンビで)。見かけるたび、醜い肢体を崩しながらゆっくりと追いかけてくる。とにかく、物音や僕らを見つけるとそちらに反応するようだ。行動はよく分からない。
まぁ、グロさにはもう慣れ始めたから良いか。(良くない)
二日間、少女と僕は民家を渡り歩いて過ごした。
過ごしたと言っても、ゾンビの行動を上手く避けていく少女がら近くの家に堂々と侵入し冷蔵庫の物を盗ってきたり、食べたり、寝たりしていただけだが。
外の空気は霞みがかり硫黄臭がし、そこらかしこにめちゃくちゃな死体がある…
狂った現実についていけない心。朝が来ると、自分は実は既に死んでいて、ここは地獄なんじゃないのかと感じる。
しかし、今迄生きてきて平然と感じていた感覚に自分の命がまだ存ると分かる。そして、…死にたくなる。
…………しかし!
そんな僕には、救いがあった。僕の脳は思春期まっしぐらだ。
共に寝食を共にし、生活する相手は仮にも美少女だ。
ここ、大事だからメモしておくように!テスト出るぞー!
さぁさぁさぁ!!本題に入るとしよう(鼻息荒)
隣に座る少女が無防備にも、休息をとっている。そう、天然記念物・美少女だ!
睫毛長ぇ!肌触り良さそう!見て見て!脚細ぉい!超小顔なんですけどぉ!(裏声)
……さ、さあっ、どうだろう!
「………ご、ごほん…」
10点!実にわざとらしい咳だ!
「………」
よく見ていると本当に寝ているのか、機械のように動かない。…機械。その言葉が頭を支配する。(いや、あんましてないわ…)
顔が熱くなってきたー……
唇……ぷるぷる…ダァーッ…っ…(某いかつめ猪木風)
「…ああくっそ……」
頬っぺただけ!頬っぺた…だけ、お触りさせてくださいませ………!!!頬っぺた、だけぇぇぇ…っ!
がしっ
触れようとした僕の右手は彼女の左手によって、ぎりぎりと締め付けられていた。爪が刺さっている。地味に痛い。
「…むやみに…触れないで……」
起きていたかのように、目をぱっちりと開いて言った。
「…お、起きてたんだ…?」
僕の声は、か細く喉から出た。
「人には……休息が必要不可欠………」
つまりは、睡眠取っていたってことだな。そういう少女の声はいつも通りなのに、目はまるでゴミを見るような目だ。
「すいませんでした…」
僕が丁重に土下座をすると、少女はいつも通りの無表情に直った。
「…べつに気にしてはない…」
…ちょっと、ほっ。変なことしなくて良かった…
「…おはよう……」
微かに口の端が緩んでいる。
「お、おはよう!」
こちらもつられて笑顔。
…可愛いなぁ…目の保養だ。可愛い。めっちゃ可愛い。
「ぁぇえ、…あー、おぉ腹がーす、空いた…なぁ…」
僕が照れ隠しに…じゃぁなくてっ!……はぁ!?別に照れてねーし!え、何照れ隠し?何ソレ美味なの!?…重い空気を破る為に!故意に!呟いた一言に、少女がさっと立ち上がり、
「…食料調達…してくる…」
「え、あっ…えーと僕も、ついていくよ…」
僕も、ついに犯罪行動に出る事にした。
「…盗むってのが僕の良心が傷付くんだけど……まあ、しゃーなし…」
僕はぶつぶつと文句を言いながら、少女について住居に侵入する。僕の顔は赤いままだろう。
居間まで土足で上がりこむ。やっぱりここにも死体がある。肌に張り付くような冷えた風がふいている気がした。鳥肌がたつ。
広い家だった。1階にはリビングや風呂場などがあり、キッチンはなかった。やたら客間が広い。
……知り合いのうちだったっけ?何故か、どこにどんな部屋があるかがわかっていた。
和室の柱に、身長を測ったかのような線が沢山あった。子供がいるのだろうか?
「…この家……」
少女が呟いた。
「どうした?知り合いん家?」
僕が尋ねると、はっとしたように
「……何でも…ない…」
少し切なげに呟き、少女は階段を上り始めた。少女の表情に違和感を感じながら、後を追って階段を登る。
…そういえば、この家は嫌に荒れていない。腐敗した死体も見えない。臭いだけが、流れている。隙間風だろうか。
硫黄臭に鼻を抑え、吐き気を我慢する。キッチンらしきものが奥にあった。カウンターから冷蔵庫が見える。おお、やっぱり冷蔵庫もでかいな。
「………下がって」
少女は僕を護るように、両手を広げた。
「え、何?…どうし……」
少女がキッチンの冷蔵庫から離れるよう、後退りする。「…人」
ただそれだけ、後は何も言わない。だけど僕も、絶句した。
「……まだ人が…いたのか……」
少女の背中越しに見ると、本当に人がいた。少し、嬉しさを噛み締める。
その人はまだ若く20代後半くらいの男で、黒髪でTシャツにジーパン姿で、あぐらをかき冷蔵庫の中の物を貪り食っていた。
「…ん?ははっ…随分、若いのんがおるやんけぇ」
男は口に食べ物を詰めながら、言った。
「…貴方…何者…?」
少女がきいた。
少女の表情は、背中からは見えない。
「俺か?俺はな…一般peopleですわってな、ははっ」
そういって、林檎を茎ごと口に放り込みリスの如く食べ始めた。そして、ふと手を止め、
「あんたらと……同族や」
男はそれだけ言うと、ニヤリと口を歪ませて、再び冷蔵庫を漁り始めた。
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僕等は暫く男を見つめていた。少女は警戒しているのか、動かない。
不自然な程に大量の食料を食っている。何故か、その姿は普通の人間とは思えない。少し、異臭もする。…あ、よく考えたら存在しているのが普通じゃないわ。(僕もな!)
「…っ………うぐ、あ゛ぁッ…!」
突然、目線の先にいた男があのグロい"物体"の如く唸り出した。低く、喉から溢れ出るその唸り声はとても人間のものとは思えない。
背筋が凍りつくような感覚。寒気だ。
「…危険…離れて……!」
少女は僕を振り向かずそう言うと、近くの食器棚に無造作に置いてあったナイフを手にして走り出した。
「あ」
少女はナイフを振り上げ、チーターのように跳び上がった。
「ぶな」
途端、僕は男(田中さん仮と名付けた!)を助けるでもなく ただ恐怖に瞼をつぶった。
ぐ、っ
嗚呼、嫌な音が聞
くちゃっ
……こえてしまった…!
「り……理解、しえない…自体がおきた…!」
少女のらしくない驚いた声が聞こえて、咄嗟に顔を上げた。
しまった。顔を上げてしまった。…見るしかない、頭からナイフが生えているという…グロテスクな…
「………あ、…れっ?」
本当に理解しえない自体だ。いや普通は理解出来るんだが…この超人的な少女の動きが、
「…止められた…」
僕は呟き、田中さん仮を見つめた。
田中さん仮は[後ろ向きのまま]、背後から来た少女の攻撃を[片手で]防いでいた。
「…ちょ、ちょっとタンマ!タンマ!…ぐはっ…げほっ…噎せて、んねんよっ…ちょ、ちょっと……待ち…いなて…げほげほ…」
田中さん仮がそういって、攻撃を防ぐ為掴んでいた少女の腕を手放し、つ…と突いた。
「……え…ぇぇぇ、ぇ?」
少女の身体が、頭から足先までにかけて、びくびくっと[振動]した。
ボ、ギン。…バ、キっ…ぎシ、キッ…。
鈍い音が響く。
少女は変な体勢で固まった。
「……き、ゅッ…」
不思議そうな顔の少女の動きが、
すごく、ゆっくりに
見えた。
…ドサっ………
「ぎ……っ」
少女の顔が驚愕に歪む。
「…ぎぁぁあ゛あ゛ああああぁああいいぃあぁあああぁぁあ゛ああああ!!!」
地面に少女が倒れ込んだ。
発狂したように叫ぶ、少女が。
少女の身体が痙攣して床を揺らす音と、少女の唸り声が、部屋中に不協和音を起こした。…急にどうしたんだ……否、違う、違うだろ!
声は掠れて、全く出ない。身体が動かない。大量の汗が額を伝って流れ落ちる。全身が、小刻みに…震える。砂嵐が、ぶわっと眼前に拡がっていく。
「嫌ぁあ゛ああぃあぁああぁあ゛あああああぁあああぃい゛い゛いいぃぃぁぁあああああ!」
少女が、あの子が、すごく痛がっている。吐血し、苦しそうに歪む表情すら、うねり始める。…体全身が、おかしな方向に屈折、して…それは、つまり…?
違う!違う違う違う!頭ではわかってる。わかっているはずだ!ただ理解が、できない…
だから…何が起きたか……考えないと……!
田中さん仮は愉しそうに、痙攣している少女を見つめながら胡瓜に食いついた。
「…なン…で?」
不快な掠れ声が裏返った。喉がパサつく。呼吸がしにくい。ああ、僕は……本当は怖いのか…
「い゛ぁぁあぁぁあぁぁぁあぁぁぁぁ!!!!!」
いや…落ち着け、落ち着け!!考えろ、僕…!怖がってる時間はない。焦るな、落ち着け!!!痙攣をしている、痛そうだ。薬か何かか!
いやでも、嫌な音が鳴ったのを聞いた直後、田中さん仮が腕を突いたその瞬間に…!なんだ?なんだなんだなんだなんなんだ!考えろ、考えろ!!
考えるんだ、僕!!!!!!!!
「…ははっ。考えたらあかんで、若人くん。…は、はははっ…もう嫌やわぁ!仲良うしようや!なぁ!ははははははっ!」
田中さん仮は楽しそうな顔で、冷蔵庫からまた新たな胡瓜を手にする。
「ははっ………なぁ?」
立ち上がった。伸びをして、胡瓜を美味しそうに食べながら、首をごきごき言わせゆっくりと近寄ってくる。
逃げないと!!逃げないと!!
頭でわかっていても、体が機能しない。
恐怖心に、腰が抜けているのか。
そして、ゆっくりと
「……root cause boyさんよぉ…?」
……ッ──────………………
耳元で、声と風を切る音が聞こえた。
「…ふへっ…?」
間抜けな声が、嫌に頭の中をこだまする。
そして目の前には、
誰もいなくなった。
は、……え……?
誰もいない?嘘だろ……?え?
ありえない。
全てがありえないことだらけだ。
もしかして田中さん仮……
「…………消えた…?」
enter>>現在の状況把握
場所:首都圏、娘栫島
日付:連日
状況:God childの大量発生。娘栫島の住民はほぼ全滅。God childの回収に異脳者を向かわせた。至急、応援を要求する。
以上Ⅰ