enter3>>腐幸
※加筆修正を加えました
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「……え…」
体温が一気に上昇していくのが自分でよくわかった。
脳内会議が足早に始められる。
『おいおい!!チャンスじゃねーの!?』
『何言ってるのよ!!!破廉恥な♂は嫌われるわよ!!!(裏声)』
………僕の脳内にオカマいるんだけど。
ふわふわとした黒髪が頬を擽る。ドキリと心臓が震え、手持ちぶさたに拳を握った。
そして背中に回された腕と腹筋辺りに感じる柔らかい何かを感じとるため、ひたすらに腹筋に力を入れた。下半身が反応し始めた。やーん。
「………っ…」
泣いているのか…?? 息を飲むような、嗚咽のような音が微かに聞こえる。
理由はわからないが、とりあえず僕はされるがままで抱きしめられることにした。
まぁ、見知らぬとは言え、美少女に抱きしめられるのに嫌な気はしないからな。
……だって、男の子だもん(裏声)。
ギギギギ…
一気に寒気がした。全身、鳥肌が立つ。体温が急激に下がる。心臓が、波打つ。
自分のギャグに、でなければ…
ああ………
「にゃンちゃンカら離レろぁ!!!こノビッチィィィひひひひァぁぁハはは!!!!」
琉知愛、か。
単純に納得して、声が響いた方向を見上げた。おや、正解だったか。気に入って着ていたはずの制服は乱れまくって見るも無惨な只の布だ。
動きやすいからか、スカートがすっげえ短い。あ、やべ見ちゃった。琉知愛つん、あんなの穿いてたの。ときめきも何もあったもんじゃない。
琉知愛がいるのは、何メートルも離れた約10階建てのマンション。屋上のぼろぼろのフェンスを軽く超えて翔んだ。蹴られたフェンスがパラパラと地面に破片を降り注いでいく。
「あ…、違ぇな。」
漢字、間違えた。文明のばか野郎。漢字を間違えた。
翔んでない。[飛んだ]んだ。細長い棒(…どこ見てんのよ)を両手で振り上げて、軽く飛び降りてくる。つまり自殺行為!!!まさかの自殺行為!!!!あいつ、死ぬ気かよ!?
「うわ!?いかんいかんいかんいかん!!!」
「………ちっ…」
少女は舌打ちして、僕の服の襟首を引っ付かみ、華奢な腕で信じられないくらいの力で後退した。喉が押さえ付けられて、首が締まる。びりっ。え、何今の音。破れた??破れた??安いんだから、このパーカー。
がきぃぃぃいぃぃいいぃッ
鉄とコンクリートがぶつかり合い、脳みそが嫌な意味で揺さ振られる。琉知亜が叫んだ。……というか鳴いた。仲間を呼び寄せる蟲のごとく。人間の身体的に考えて、あの精神力と発声はおかしい。つか、アレだ。全く笑えねぇ。
「……ニャんちゃン、だぁーイ好キひひ」
囁くように、琉知愛が言った。寒気がした。
なあ、琉知愛…
お前僕の知ってる琉知愛なんだよな…??
「琉知愛…」
「黙って…喋りかけちゃダメ…!!」
少女が僕を脇に抱え直し、叫んだ。
でも、これは家族の問題。君には知ったこっちゃないだろう??琉知愛は僕の、僕の…
「ギギギギ、にゃん、ニゃーんギギひひひ」
「…なぁ、…なぁ琉知愛!!!そんなに高い所から飛び降りたら危ないだろ!!!それにその、な、鉈はなんだ!!お前が持つと深夜のホラーアニメに出てきそうな風貌だぞ!!お前、深夜アニメ嫌いだったのに良いのか!?なあ!!!…おま、お前は!!!」
脇に抱えられているため、全く琉知愛の顔は見えない。揺られ動く、青い空の移り変わりしか分からない。でも、きっと、
「琉知愛なんだよな!!!!???」
「………………」
琉知愛には伝わってるんだ、そうなんだ。絶対。琉知愛は、僕の………僕の家族なんだよ…
「なぁ、頼むから………頼むからさ…」
僕の知ってる琉知愛に戻ってくれよ──────……
「…にゃんちゃん!!ソイツはね!!!殺そうとしてるんだ、よ??大好キな大好きナ愛シクて仕方なイにゃンちゃんヲ!ギギギギ………大好キデ大好きで仕方ナイにゃんちゃあぁあアアぁぁ!」
本当、どこから持ってきたのか鉈をぶん回しながら飛び跳ねて走ってくる。いつか鉈の刃が外れて飛んでくるんじゃないのか。これでもかというほどに、空中をかっ切る琉知愛。
馬鹿にハサミどころか爆弾持たせたの、まじ誰。出てこい。
「危険…これ以上、…目を合わせないで」
そういって、丁寧に肩に担がれた。女の子にされるなんて一生の恥。
「情をかけてはダメ…目を合わせないで」
何度も何度も繰り返し同じことを言う少女。身体がふわふわとなびく。脳が痙攣してきた。初めての浮遊感に酔ったのか。再びあの砂嵐。
少女は鉈を振り回しながら近寄ってくる琉知愛の攻撃を、慣れたように避ける。…僕を担いだまま。
一方琉知愛は鉈を振り回しながら、人間とは思えないスピードで走り寄ってくる。でも、何故だろう。なんだか、琉知愛が琉知愛じゃないように見え始めた。なんだか、気分が悪い。
「にゃんちゃんにゃんちゃんにゃんちゃんにゃんちゃん!!クッくっくっくっくっ…くくくあぁぁぁあぁぁあぁあはははははは!!!!」
狂ったように叫ぶ、琉知亜。
気付くと、僕らは人(死体)が余りいないような山道に入り始めたようだ。空しか見えなかった周りが、高い高い竹藪の群衆に変わる。昔、琉知愛と来ては嗅いでいた森林の薫りが、今は血のような臭いで掻き消されている。
僕のイケメン優等生脳ミソちゃんは、やっぱり薄情なのか。死体があっても、物にしか見えなくなってきた。
少女がふわりと足を止め、担いでいた僕を草むらに降ろし一言。
「逃げて……xx君……」
残した一言が脳ミソに届く前に、琉知愛の方へ走っていく。走りながらパーカーのフードを被り、体勢を整えている。…ああ、まただ。名前、聞こえなかった。
「……って、は??」
逃げろだと??に、逃げろ、だと!!?僕だって、立派な男だ。少し腹が立った。
彼女は僕を馬鹿にしているのか。変態だとか童貞だとか初対面で言われたし。……後者はいわれてないか。
いや、童貞は貶し言葉ではない。何故なら30歳まで童貞を貫くと妖精さんになれちゃうんだぞ☆……あ、殴らないで殴らないで。話を戻そう。
もし、琉知愛の風貌、あの少女の戦士らしい動き、並外れた戦闘(?)の光景。と、くれば僕も主人公らしく向かう覚悟がなければ、男の名が廃るというものだ。
そして、僕は
ちょっとちびった。
「あああ…あ、足が、生まれたての子やぎ…」
ガクガクふるえて話にならんとですた。ここは、戦闘経験のありそうな彼女に一任しよう!
「ま、考えれば幼なじみvs謎の美少女に奪い合われるのも夢に観ていなかったわけないのよ!!」
草むらにて、ちょっと濡れたパンツを脱ぎながら語る男一人。これ、捕まるか捕まらないかの垣根にいるからスリル満点…はは、ジョークジョーク。ジャパニーズジョーク。
「あっ………この格好…あの子に見られたら、またへんな目で見られて、罵られるんじゃ…(トゥンク)」
……あ、おい。誰だ。トゥンクとか書いたの。
とりあえず、パンツは穿いた。
少し草むらから顔を出すと、琉知愛と少女が対峙していた。風に靡く、髪。二人ともある意味のポーカーフェイスを決め込んで動かない。琉知愛に至っては、停止したパソコンのようだ。
「……あ!!ニャんちゃンだ~」
あ、琉知愛が先に動いたっ!!動いたら負けとはよく言ったものだ。てか、この距離で気付くか普通…!!完全に肉眼で見られる距離じゃない。とたとたと、明らかに僕の方へ向かって走ってくる。
「逃げてと言ったはず…!!」
少女が琉知愛がふらふらと動き始めたのを合図に、戦闘体勢に入りながら叫んだ。
「ニ、ゲ、テ、ト…逃ゲろォォォ?」
琉知愛が首をぐきぐき言わせ始めた。ようやく、顔が見える距離になったが、…あっ、琉知愛ちゃん青筋たってる…。
「…に…仲マ面、シテンじゃ、ねエ、よォギギ」
殺意が露になり、鉈を器用に回転させ始めた。首が傾いていて…あれ、本当に琉知愛だよな。
「……ギギギっ…殺シテやルゥゥゥウ」
琉知愛が動いた瞬間、少女も動いた。少女は腰にさしていた短刀を抜きとり、琉知愛の鉈と対等に戦っている。目にも止まらぬ速さで二人は殺しあっているのだ。
一度、ホラーゲームをたしなんでいたとき、美少女二人が僕(主人公)を取り合い殺し合うという局面に出会したことがある。こんなこと、現実では御免だ…
僕は、見るに堪えなくなり顔を背けた。
「……こいつは…氷藤琉知愛じゃない…!」
少女は、琉知愛と対等に戦いながら叫んだ。
「……っでも!!」
僕が叫んだ拍子に、少女は琉知愛の腹部を蹴り飛ばし、同時に琉知愛の腕を切りつけた。
その衝撃でか琉知愛は吹き飛び、ガードレールにぶつかりよろけた。足を折ったのか、上手く立てないらしいが、顔は笑っている。
チャンスとばかりに、少女は僕のとこまで走ってきて目にも止まらぬ速さで僕を担ぎ上げた。そして、先程よりもはやく、走った。琉知愛から、離れるように。少しでも安全な場所へ…。表情のない少女の焦りを感じた。
「まだ…追ってきてる…」
「……そ、っか」
少女は、車道を駆け、車の通りが少ないトンネルのなかに入った。昔、ここら辺りで琉知愛と鬼ごっこをしてたっけか。随分昔に取り壊されたのか、ガタガタと道路は崩れ、トンネルとしてはもう使われていないようだった。
「…ぁー……眠い………」
突然、睡魔が襲う。とてつもなく眠い。僕は今迄に、こんなに疲れた事はあっただろうか。
琉知愛と、もう一度、遊べばよかったなぁ───……
何故か、もうそんな事しか思わなかった。
そして、いつの間にか、死んだように気を失っていた。
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「……ねぇ…起きて…」
目を開くと、あの超絶美少女が目の真ん前にいた。
「…え、あー、えーと」
「…何…?」
「………ちょっと近いっす…」
美少女は、無言で座り直した。かさり、と服が擦れる。てか、無言はやめて欲しかった…。怒ったの??怒ったの??
「…ど、どこ此処…君の、家?」
起き上がると、知らない場所に座っていた。高そうなカーペットが敷いてある所から見て、恐らく室内。僕の上には真っ白な毛布がかけてある。
「………民家…」
「…民家…??って、君の家ってことだよね??」
少女は僕の上に掛かっていた毛布を剥ぎ取り、綺麗に畳んで横に置いた。まるで、慣れた手つき。
「…違う」
間を置いて、そう答える少女。
「…え、不法侵入、な、訳ないよね」
まさかとは思って質問。少女は、かぶりをふる。
「…ふ、不法侵入しちゃっ…た…?」
「…き……危機的な状況に合っている場合…や、やむを得ない…」
安全を第一に考えてくれたようだ。しかし、何故にどもった。
「あ、民間防犯活動の防犯の家みたいなやつ…ってことか」
「…………と思ってくれていい…………はず……」
「はず!!?あーもお、はずって言っちゃったよ……やっぱただの不法侵入かよ…」
「ご…、ごめんなさい…」
ちなみに、怒った顔をしている体の僕だが内心、祭りが起きていた。不法侵入なんて普通じゃできない(が、犯罪です)。しかも美少女と二人きりで…何て萌え要素なかなか々無いだろう!!な!!
「……あっ……」
様子を見ようと、周りを見渡すが瞬時に気が付いた。ドキドキワクワクキャッキャうふふは出来やしないということに。これじゃあ出来るはずもない。
「……この家もか…」
そんな生易しい状況じゃないのはさすがの僕でもわかる。この中でさえ、血生臭く、腐臭が漂う。その上顔が、失くなっている人が倒れている。その姿は、言葉では言い表す事ができない程…
「……う、ぷ…っ…」
我慢出来なくなった胃液が口から大量生産され、絨毯に世界地図を描く。やっぱり目慣れはしていなかった。少女は、僕の背中を優しく撫でる。
「…あの、さ…」
「……何…?」
喉を詰まらせて、うっかり泣きそうになってる僕。少女は僕の顔を見ながら擦ってくれている為、泣くことはやはり許されない。一つ、礼を言って手を離してもらった。
そして泣きそうな表情を隠す様に、僕は紅い塊が付着した壁に関係なくもたれ、下を向く。
「……なにが、起きてるんだろ…この場所で……」
「……いつか…」
少女は視線を、人として生きていたはずの血肉の塊に移し、言った。
「……知らなければならない………でも今は…」
少女が吐き出す言葉の間がとても長く感じる。
「………知る必要性を感じない…」
少女が呟く、掠れたように小さな声。何か、知っているようだ。
「そ…それなら僕は、一体……」
戸惑い、不安感。溜息を吐くように、俯く。
「…何も知らなくても…構わない…」
「…は…ぁあ…??」
僕は暗中模索でもしておけと??何もわからない状況で、正直生きられる気はしない。僕以外が死んで、琉知愛も…
「……何…?」
少女の視線がこちらを向いたのが横目で見えた。
「なん……っで…だよ…」
「……え…?」
頭からぶちぶちと、何かが切れる音がする。声がでない。
「ま、って……!!」
少女の声が遠くに聞こえ始めた。声がでない。砂嵐のような物が、また、見える。耳鳴りも、増して聞こえる。
…………………………!!!!!!
唸る。頭の内の誰かが叫ぶ。
「なんなんだよ!!!!!!」
猛獣が暴れ狂うかの如く、僕の内の誰かが叫ぶ。叫ぶ。声がでない。息が苦しい。前が、見えずらい。
「琉知亜も、おかしくなって!!みんな、みんなが死んだ!!」
「………」
少女は視線を外さない。目には困惑の色が見えた。
[誰か]は、本当に僕なんだろうか…
「こんな!!こんなに……」
…[お前]は…馬鹿だ…自分勝手なんだよ……
この娘はただ、[僕]を救おうとしてくれただけなのに…
[お前]は、また……同じ過ちを繰り返すのか────…
『誰か』が、[俺]に、
そう いった。
「……何とか、言えよ………」
この気持ちは、
[不完全な僕]だ──────────……
「………私、は…」
彼女の微かな声が、ふわりと脳内に響く。
「……貴方が…生きていてくれて、……嬉しかった…」
ざわめいていた砂嵐と耳鳴りが、一気に晴れた。ふわりふわりと懐かしい思いが甦る。
「……私……私…」
少女が思い詰めたような顔で立ち上がり、そして
「…私……本当は…」
ガッシャァァン
突如、家の外から大きな音がした。
はっとして、少女は跳ぶように外に出る。呆然としていた僕も、慌ててその後を追った。
enter>>個人date
名前:氷藤 琉知亜
年齢:15歳
性別:女性
父娘関係:父親・氷藤 匠→死亡
考察:特になし
以上Ⅰ
※初回掲載時2014/3/14