enter2>>殺愛
※加筆修正を加えました
error2>>
一体、僕はいつから外に出たいと思わなくなったんだろうか。あまりに久し振りの外気、久し振りの景色に心臓がドキリとする。
あれ?ここ、こんな場所だったっけ?
飛び出した外は、[真っ黒]だった。
じわじわと全身に冷や汗をかきはじめ、自分だけが不安定に浮いている様な感覚に襲われる。
…………違う。
僕の脳が目の前の光景を理解するのを拒否しているんだ。やがて、脳が覚醒していく。すべてを理解するには、僕はまだ幼すぎたと感じた。
「…ぅおえ゛ッ…………」
胃物が逆流してきた。今迄にない程気持ちが悪い。
「……嘘だ…こん、な………」
うまく呼吸が出来ない。眼球がいやに痙攣している。口の周りに張り付いた吐瀉物が不快で、再び嘔吐しそうになった。
「……ぁ、う、ぁあ……あ…」
久しぶりの街の景色は…
一面が赤で染まっていた。
見たこともない、世界。
風景はそのままであるはずなのに、場所が全く違うかのように見える。多すぎる、血糊。
僕は、リアル過ぎるRPGにでも迷い混んだのではないかという錯覚すら覚える。
全く理解出来ない頭で、アパートの老朽化した階段を降りる。踏み出すたび、ギシギシと全体が揺れ、ついには完璧に壊れた。踏み外し、壊れた階段の錆びた鉄が跳ねる。
跳ねた鉄を見ながら、目の当たりにした風景が現実から余りにもかけ離れていると思った。アパートの下には何人も人が倒れている。
みんな、死んでいた。
「こ、んなん……あり得ねぇっ、て……」
頭が痛い。肺呼吸がしにくい。…脳内が、麻痺し始めているようだ。砂嵐のような物が見え始める。
アパートから少し歩いた所に商店街と交番がある。
何人もの死体や、琉知愛についてを話さなくては…
あからさまに不自然で、グロテスクな周囲の状況に笑いすら漏れる。商店街の人々は、絶対こんなことにはなっていないはずなんだ。
僅かな、ほんの僅かな希望を抱き、逆流する吐瀉物を吐き出しながら少しずつ進む。
どこもかしこも、血糊だらけなのだ。
商店街まではどうか…。知らせなくては、知らせなくてはいけないのだ。
「あ、れ………?」
希望を抱き、ここまで歩いたのに何故。
故郷の顔見知りの人間は色々な形で
………潰れていた。
明らかに潰れていた、という表現が的確なのだ。
秋になると冬眠のために動き始め、車に轢かれた蛙をみたことがある。その奇妙で怪奇めいた死に様が、あまりに滑稽で…よく覚えている。
それに、よく、とてもよく、似ていた。
僕は夢を見ているんじゃないのだろうか───…
現実がこんなに壊れ、おぞましいなんて理解出来ない。こんなこと、[普通なら]理解出来ない。
「…ぅぐ、ぁ…ぐ………ぎゅッ…」
うめき声だ。[人]が、いる。[人がまだいる]!!!
突然膨れ上がった期待感に、うめき声の方向を確認する。
……あ、あれ?どっから聞こえる?この、声は。
「ぅ、ぎゅ、ぐぃ……」
「……っ、なん………だこれ…」
一瞬のうちに理解せねば、理解せねば…!!!
「ぐち、……ギギ、うぐぇ」
近くに倒れていた形を留めていない[何か]が、むくりと起き上がった。
そして、僕に、
手、を 伸ばした。
「うわぁあぁあぁぁぁッ!!?」
鉄分の塊と生臭いきつい匂いが鼻を刺激してくる。胸糞悪い。
咄嗟に真横にあった、腐りかけの大根をぶん投げ奇跡的にヒットした。
「……ひっ!!!」
顔であろう部分を目の端で覗き見ると、大根は謎の腐臭を放ちながらどろどろと液体になっていく。人の形を成した[何か]は暫くもぞもぞと蠢いていたが、大根が完全にその形を崩すと動かなくなった。
なん、なんだよこれ……腰が抜けそうでヤバい。
へっぺり腰ながら、その場から逃げ出した。
呼吸が乱れる。肺が痙攣している。
こめかみが、すっげえ痛い。
「……はぁ、っ」
ああ駄目だ…意識が朦朧としてきた…
「……ッ……あっ?」
滑った。しまった滑った。
倒れ込んだ先に、あの、物体達がいた。
僕が倒れた部分からどろどろした黄色の液状のものが溢れ出す。
僕の灰色のパーカーはいとも簡単に、茶に染まる。
「う、ひぁあぁぁ」
考えた事もない壮絶な気持ち悪さが僕を襲った。
「…あら、久しぶりじゃない」
突然、背後からした気がする抱擁感のある優しい声が一瞬にして安堵へと導いた。この声は、コロッケの店のおばちゃん。
そう、間違いないんだ。
……普通はね。
「おばっ……」
「っ………なん、で…」
目の前の光景は本当に現実で、この絶望感を
本当に理解しないとダメなのだろうか────……
「い゛ぁぁぁあぁぁあぁぁぁぁぁぁ」
気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い…助けてくれよ………誰か………
「ぁあぁぁぁ……っ」
コロッケの店のおばちゃん、
優しいおばちゃん、
優しかった、おばちゃん、
優しかっ、
優しか
優シ
死─────………
…………───久し振りに外気に触れたというのに、気持ち良さなんて全くなかった。
久しぶりの外で僕が何故、こんなことに巻き込まれなきゃいけないんだよ…!!!
本能的に逃走心が身体を駆り立て、
僕は血に塗れた道を一心に走り出した。
error3>>
誰も、もう周りにいないことに気が付いて確認すると走ってたどり着いた場所は、誰もいない路地裏だった。
「………はあ゛はあ゛……はあ」
息が出来ない。心臓に悪いどころの話じゃない。
何で…こんなの、おかしいすぎる。
戦争でもない限りあんなに人は死なないし、少なくともこんな平和な街で無惨な酷い死に方はしないだろうし…。
何故。毒でも撒かれたのか。はたまた、細胞を瞬時に分解する核兵器か…だめだ、馬鹿げてる。
「馬鹿げてるよ、ほんと…」
脳内回路の混乱が不覚にも治まりつつあった。
たったの数分で、僕の頭は真面目に正常にいつも通りの賢いイケメン優等生くんらしく機能し始めている。
嗚呼、素晴らしき引きこもり……ごほん。基、自宅警備員エース。
「……冗談じゃない……DreamだDream…ドリームカムトゥルーぅ…なんちゃって……はぁ…」
ため息が異常に響いて聞こえる。脳が異常事態に、敏感になりすぎているのだろうか。いや明らかに、異常なのは街なのだ。
「……なんでこんな…[また]か、…」
……またって?再び、…?
自分で言ったことに納得出来ない。こんな事、[前にもあった]っけ。いや、ない。(反語)
「……ここにいた……」
その時だ、布がはためく音が頭上から聞こえた。
不安感に襲われつつ、違和感を持って、無意識に上を向く。誰かが屋上から僕を見下ろしている。
太陽に目が眩み、視界に砂嵐のような物が再び現れた。
そして、次の瞬間。
今迄見た事もないくらいの美少女が
「飛び降りてきたあッ!!?」
慌てふためく僕。結構な高さがある、ビル。
いや、待ておかしい。完全なる自殺行為じゃねーか!!!
僕の本能は全力で逃げるべし!と言った。が、身体がいうことを聞かない。脳がおかしい。まじ頭おかしい。
僕は、少女を受け止める体勢に入った。
ちょちょちょちょ、何してるの僕うぅぅぅ!?
テンパる僕に、欲望が語りかけた。
『僕よ。これは、不可抗力と弁解できるパンチラが見られる機会だぞ。見とけ見とけ。』
瞬間、僕は瞑っていた目を微かに開いた。
あ、やべ。見えた。…どんなの穿いてた?あれ?穿いてた?
というおかしな心配(そーんな、まさか穿いてない訳なーいじゃーん…よね?)を他所に、美少女は綺麗に着地した。微塵も危なっかしさを感じさせない、運動選手顔向けの着地。
「……予想外の変態…」
出会ったばかりの僕に対し、変態だと罵る彼女は近くで見ても美少女だった。
美少女に罵られると、悪い気もしない。……実は僕はMの気があるのやもしらん。
目の前の美少女は、まるでお伽話に出てくるような美少女だった。
白い肌に、黒い髪。整った顔に、頬についた、刺青のような歪な形の黒い痣。
服装も極めて平凡で、Tシャツ、パーカー、スカート、スパッツ(なんだ残念…)、スニーカーという軽装備だ。
服装はエロカッコいい戦闘服とかだったら、身ぐるみはいでなめ回すのに。
あ、でもタイツが……ごほん。これ以上言ったら通報されそうだから自粛します。ふははは。
「……動かないで…」
「き、君は一体…?」
なんとなく、懐かしい感情が胸に響き渡る。
とりあえず、沈黙が息苦しかった。なんせ、ガン見されているんだもの。照れちゃうわー!(エセ関西弁)
懐かしい思い(邪な気持ちなんてないぞ)にかられていると、美少女が腐った大根を見ているような目をしている事に気が付いた。
はたと、気づく。僕はMでした。
「…やっぱり…」
そう呟くと、彼女は僕の全身を見渡される。余りにもタイミングが良すぎた為、心中を読まれたかと思ったがそうではないらしい。
…てか、やっぱりってなんだ。失礼な。君のエロスのせいだぞ。
それから、そっと首筋を触られた。生唾をのみこむ。下半身辺りがちょっと反応した。
ちゅーでもされるのかと半ば期待しながら彼女を見ていると、「よかった…」と一言呟かれた。
「表情筋正常…血圧平常値…瞳孔不開口…精神状態安定…、それから……」
確認するように、美少女は呟き続ける。
病院の先生でも、触診(?)だけで状態が分かるわけない。自分の心臓の奥底が、ドキリと震えたのが分かった。
「…やっと、見つけた…」
ふわりとした風に、視界が眩み目を閉じる。少女の声が、頭に響く。
「私が捜していたのは、貴方…間違いない」
街の住民であれば、恐らく僕は顔を覚えている。この街の大きさや、人の集まる場所を知り得ている者ならきっと誰もが顔見知りだ。
だが、この子を[僕の脳は知らない]。
まずこんな可愛い子、忘れるはずないもん。だってめっちゃ美少女だぜ??
そうだ、きっと人違いだろう。
「あの、──…」
「………───────××君。」
あれ?上手く聞き取れなかった。
何と言おうとしたのか、もう一度聞こうとすると再びあの砂嵐のような物が見えた。加えてわんわんと耳鳴りがする。
「……り……と」
「え………??何て言…」
「生きててくれて、有難う」
そう言うと、彼女は僕をそっと抱きしめた。
enter>>個人date
名前:xxxx
年齢:xx歳
性別:男性
考察:dateが少な過ぎるため、暫し解析が必要。上層部には報告しないこと。以上 ┃
※初回掲載時2014/3/14