新緑の頃 ⑨
本書はフィクションです。実在の人物・団体・省庁とは一切関係ありません。また、執筆にあたり複数の公務員の取材や架空のエピソードを組み合わせて構成しています。
ご覧いただきありがとうございます。
本作は、実話をもとに再構成した「叩き上げ公務員」の半生を描くサクセスストーリーです。
学歴もコネもなく、定時制高校からスタートした主人公。
決して順風満帆ではなかった彼が、どのような葛藤や壁を乗り越え、霞ヶ関の本省、そして幹部へと駆け上がっていったのか。
実際の官僚機構や他省庁でのリアルな泥臭さ、そして人生後半での新たな挑戦までを丁寧に描いていきます。
働くすべての人、そして逆境から這い上がりたい人に届く作品になれば幸いです。
ぜひ最後までお付き合いください!
芝田、桐通、瓜生の3人に会ったのは数ヶ月ぶりのことだったが、どこか懐かしくも、これまで過ごしてきた日々の延長線上にあるような心地よい時間だった。
親友たちからもらった温かいエールを胸に、浩一は今朝もアルバイト先のガソリンスタンドへと元気に足を運んでいた。
勤務を始めてから数ヶ月が経ち、日々の主な担当は自動車への給油、窓拭き、洗車時のフロアマット洗い、そして洗車後の仕上げの拭き上げ作業などだった。
それらの仕事を愚直なまでに丁寧におこなってきた姿勢が認められたのだろう。
今日、浩一はついに「オイル交換」の作業を教えてもらえることになった。
今日は、実際に一人で作業をするわけではなく、先輩整備士の横にぴったりついて集中して手順を学ぶ日だ。これまでも手が空いた時には自発的にピットへ足を運び、先輩たちの作業を遠目から眺めていた。
だが、これまでは、来客があれば、すぐにお客出迎えや給油に向かわねばならず、じっくりと腰を据えて見ることはできなかった。
しかし今日は、オイル交換を学ぶことが最優先の業務として認められたのだ。
「いいかい、川野君。まずはリフトアップからだ——」
担当の整備士・西岡さんから、車を持ち上げるリフトの操作、オイルドレンボルトの脱着、オイルエレメントの交換方法などを順を追って教わった。浩一は西岡さんの一挙手一投足を食い入るように見つめ、 pocketから出したメモ帳に素早くペンを走らせた。
2台目の車が入ってきた際も、同様に説明を聞きながらメモと実際の手順を照らし合わせ、漏れていた注意点を書き足していった。
そして、3台目のオイル交換に入ろうとしたときだった。西岡さんが作業の手を止め、笑顔で浩一を振り返った。
「川野君、本当に熱心だね。よし、次の車は僕が横で見ているから、実際に自分でやってごらん」
「えっ、いいんですか!?」
「前々から、ちょくちょくピットに来て作業を見てただろう? 今日もメモまで取って真剣に学んでいたし、川野君なら大丈夫だよ」
「ありがとうございます!」
胸が高鳴るのを感じながら、浩一は緊張した手つきで作業に取りかかった。車体をリフトアップし、工具を手にドレンボルトに手をかける。西岡さんの視線を感じながら一つひとつの手順を慎重に確認し、最後は油量をチェックして作業を終えた。
西岡さんからいくつかの改善点を指摘されたものの、最終的に「よし、合格!」と笑顔で太鼓判を押してもらうことができた。
「これからは当面の間、僕が横につくから、どんどんオイル交換に挑戦していこう」
「はい! ありがとうございます。よろしくお願いします!」
オイルの匂いが染みついた作業着の袖をギュッと握りしめながら、浩一はまたひとつ、新しい仕事を任されようとしていることに大きな喜びと誇りを感じていた。
ご覧いただきありがとうございました!
給油や洗車といった基本作業から、いよいよリフトアップやドレンボルトの脱着といった本格的な整備作業へ。
油の匂いや工具の感触がリアルに伝わってくる、ガソリンスタンドの現場の熱気と成長の喜びに満ちた一話となりました。
単に「言われたことをやる」のではなく、メモを取り、自発的に技術を吸収しようとする16歳の浩一少年。その真面目さと努力は、大人の社会でもしっかりと伝わり、確かな信頼となって返ってきています。




