第3話 開花と実験 ~積み重ね~ [3/5]
三十秒が限界だと分かったあとも、きおの胸の熱は冷めなかった。
——三十秒より先には戻れない。
でも、三十秒“分だけ”戻ることはできる。
きおは時計を見つめながら考えた。
「……戻るときって、枝を振ってるけど……」
きおは自分の手を見た。
枝を握っているわけでもない。
ただ、昨日からずっと「戻れ」と思った瞬間に、自然と枝を振っていただけだ。
「もしかして……枝じゃなくて、“戻りたい”って思ったから戻ってたのかな……?」
胸の奥がじんわりと熱くなる。
——試してみよう。
きおは枝を地面に置いた。
両手を空にしたまま、時計の前に立つ。
「……戻れ」
心の中で強く思った。
ヒュッ。
世界が揺れた。
戻った瞬間、時計は三秒前に戻っていた。
「……やっぱり……!」
きおは思わず声を上げた。
「枝じゃなかったんだ……!」
胸の奥が熱くなる。
きおはもう一度、今度は五秒を意識してみた。
「五秒……戻れ!」
ヒュッ。
戻った瞬間、時計は五秒前に戻っていた。
「できる……!」
きおは次に十秒を試した。
「十秒……戻れ!」
ヒュッ。
世界が揺れ、時計は十秒前に戻った。
きおは息を呑んだ。
「……じゃあ……三十秒も……?」
きおは深呼吸をして、時計を見つめた。
「三十秒……戻れ!」
ヒュッ。
世界が大きく揺れた。
戻った瞬間、時計は三十秒前に戻っていた。
きおは拳を握りしめた。
「やっぱり……! 枝はいらないんだ……!」
胸の奥が熱くなり、身体が震える。
——これなら、どんな姿勢でも戻れる。
——どんな状況でも戻れる。
応用が一気に広がった。
きおは空を見上げた。
木々の隙間から光がこぼれ、風が葉を揺らしている。
「……じゃあ……三十秒を何回も使えば……?」
胸の奥が、また熱くなった。
——三十秒を積み重ねれば、もっと戻れる。
その発想が浮かんだ瞬間、きおは時計の前に立ち直った。
「よし……まずは三十秒」
きおは意識を集中させた。
「戻れ!」
ヒュッ。
世界が揺れ、時計は三十秒前に戻った。
戻った瞬間、きおはすぐに次の操作をした。
「戻れ!」
ヒュッ。
また三十秒戻る。
時計は一分前に戻っていた。
「……できた……!」
きおは思わず声を上げた。
「三十秒を二回で、一分戻った……!」
胸の奥が熱くなり、身体が震える。
——積み重ねれば、もっと戻れる。
その確信が、きおの中で静かに膨らんでいく。
「じゃあ……五分は?」
五分は三百秒。
三十秒を十回。
きおは意識を集中させた。
「戻れ!」
ヒュッ。
戻る。
戻った瞬間に、また思う。
「戻れ!」
ヒュッ。
二回目。
三回目。
四回目。
世界は何度戻っても安定していた。
風の流れも、光の粒も、鳥の声も、全部同じように戻る。
五回目。
六回目。
七回目。
きおは途中で笑い出した。
「なんか……ゲームみたいだ……!」
八回目。
九回目。
そして——十回目。
「戻れ!」
ヒュッ。
世界が揺れた。
戻った瞬間、時計は五分前に戻っていた。
「……ほんとに……できた……!」
きおは胸の奥がじんわりと熱くなるのを感じた。
「じゃあ……十分は?」
十分は六百秒。
三十秒を二十回。
「二十回……ちょっと大変だけど……やってみたい……!」
きおは意識を集中させ、戻る操作を繰り返した。
ヒュッ。
ヒュッ。
ヒュッ。
戻るたびに、身体は元に戻る。
でも、きおの意識だけは進んでいく。
——疲れない。
——でも、経験だけは積み重なっていく。
十回目。
十一回目。
十二回目。
世界はまだ安定している。
何度戻っても、同じ風が吹き、同じ光が揺れる。
十五回目。
十六回目。
十七回目。
きおは笑っていた。
楽しくて仕方がない。
十九回目。
そして——二十回目。
「戻れ!」
ヒュッ。
世界が揺れた。
戻った瞬間、時計は十分前に戻っていた。
「……できた……!」
きおはその場に座り込んだ。
「三十秒を……二十回……」
胸の奥が熱くなり、手が震える。
——ぼく、すごいことができてる。
その実感が、きおの胸に静かに広がっていく。
きおは空を見上げた。
木々の隙間から光がこぼれ、風が葉を揺らしている。
「……じゃあ……もっと大きく戻ったらどうなるんだろう」
胸の奥が、また熱くなった。
——“境界”を確かめたくて仕方がなかった。




