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世界を救った英雄は処刑された ~役目を終えた俺は、世界のシナリオを止めてやり直す~  作者: 天城ハルト


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第18話 英雄は、自分の役割を消す

 夜が、静かに降りていた。


 丘の上には、もう女神の気配はない。

 世界は、何事もなかったかのように回り続けている。


 それが、何よりの異常だった。


「……始めるの?」


 案内役の少女が、英雄を見た。

 軽口ではない。

 確認だ。


「ああ」


 英雄は、短く答えた。


 聖女候補の少女が、一歩前に出る。


「……本当に、いなくなるんですか」


 英雄は、首を横に振る。


「存在は消えない」


 だが、と付け加える。


「“意味”が消える」


 二人には、分かりにくい言い方だった。


 英雄は、自分自身を見つめる。


 視界に浮かぶ“線”。


 ――英雄。

 ――異物。

 ――停止因子。

 ――観測者。

 ――物語外存在。


 ここまで積み重なった役割は、もはや一つの束だった。

 世界は、彼を基準にして歪んでいる。


(……だから)


 彼が立っている限り、選択は完全には自由にならない。


「俺がやることは、簡単だ」


 英雄は、静かに言う。


「自分に付けられた“名前”を、全部返す」


 案内役の少女が、息を呑む。


「それって……」


「世界から見た俺を、空白にする」


 彼は、自分の胸に手を当てた。


 そこには、かつて“黎明の欠片”があった。

 英雄であった証。

 処刑台に立った理由。


 今は、何もない。


「……どうやって?」


 聖女候補の少女の問いに、英雄は答えなかった。


 答えは、方法じゃない。


 選択だ。


 英雄は、一歩前に踏み出す。


 自分自身の“線”に、触れた。


 壊さない。

 否定しない。


 ただ、外す。


 ――英雄。

 外れる。


 胸の奥で、何かが軽くなった。


 ――異物。

 外れる。


 空気が、少しだけ揺れた。


 ――停止因子。

 外れる。


 世界の“重さ”が、僅かに戻る。


 案内役の少女が、思わず叫ぶ。


「……待って!」


 英雄は、振り返らない。


 ――観測者。

 外れる。


 視界が、ぼやける。

 世界の輪郭が、曖昧になる。


 ――物語外存在。


 最後の一つ。


 英雄は、そこで手を止めた。


(……これを外せば)


 世界は、完全に彼を忘れる。

 誰も、基準にしなくなる。


 だが。


 同時に。


 彼自身も、自分が“何者だったか”を失う。


 案内役の少女の声が、震える。


「……それ、外したら」


「分かってる」


 英雄は、静かに言った。


「俺は、ただの人間になる」


 勇者でもない。

 英雄でもない。

 異物でもない。


 名前のない、選択するだけの存在。


「……それで、後悔しない?」


 聖女候補の少女が、涙をこらえながら問う。


 英雄は、少しだけ考えた。


 そして、答えた。


「後悔すると思う」


 二人の目が、見開かれる。


「でも」


 一拍。


「それを選ぶのが、人生だ」


 英雄は、最後の線を外した。


 世界が、音もなく“正位置”に戻る。


 光も、爆発もない。

 奇跡的な演出は、何一つ起きない。


 ただ。


 風が吹き、草が揺れ、夜が深まる。


 英雄は、膝をついた。


 胸の奥に、ぽっかりと穴が空いたような感覚。


 だが、不思議と恐怖はなかった。


「……終わった?」


 案内役の少女が、かすれた声で言う。


「ああ」


 英雄は、ゆっくりと息を吐く。


「物語は、な」


 聖女候補の少女が、英雄のそばに駆け寄る。


「……覚えてます。私は」


 英雄は、微かに笑った。


「それで十分だ」


 夜空には、星が瞬いている。

 だが、それはもう、運命を示す光ではない。


 ただの星だ。


 世界は、壊れていない。

 女神も、消えていない。


 ただ一つ。


 “正しい物語”だけが、終わった。


 そして。


 英雄は、名もなき人間として、

 次の朝を迎えることになる。


本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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