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世界を救った英雄は処刑された ~役目を終えた俺は、世界のシナリオを止めてやり直す~  作者: 天城ハルト


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第17話 女神は、それでも問う

 世界が、静かすぎた。


 風は吹いている。

 人は歩いている。

 町も、森も、何も変わっていない。


 それでも、英雄には分かっていた。


(……見られている)


 案内役の少女も、同じ感覚を覚えているのだろう。珍しく軽口を叩かず、黙って英雄の隣を歩いている。


 聖女候補の少女は、少し後ろを歩いていた。

 祈ってはいない。

 だが、何もしていない自分に、まだ慣れていない。


「……来るね」


 案内役の少女が、小さく言った。


「ああ」


 英雄は、立ち止まった。


 場所は、町外れの丘。

 勇者が剣を置いた翌日、人の足が自然と遠のいた場所だ。


 空が、わずかに歪む。


 裂けるわけでも、光が溢れるわけでもない。

 ただ、“ここにあるはずの景色”が、少しだけズレた。


『……英雄』


 女神の声が、直接響いた。


 威圧はない。

 怒りもない。


 だが、それがかえって異様だった。


『あなたは、世界を壊していない』


「壊す気はない」


 英雄は、即答した。


『人も、減っていない』

『魔王も、復活していない』

『均衡は、まだ保たれている』


 女神は、事実を並べる。


『それでも』


 声が、僅かに低くなる。


『世界は、不安定になっている』


 英雄は、黙って頷いた。


「そうだな」


『なぜだと思いますか』


「選択肢が、増えたからだ」


 女神の沈黙が、数拍続いた。


『……選択肢は、迷いを生む』

『迷いは、争いを生む』

『争いは、滅びを生む』


 英雄は、空を見上げた。


「それでも」


 一拍。


「選ばせない世界よりは、マシだ」


 案内役の少女が、思わず息を呑む。


 聖女候補の少女は、拳を握りしめていた。


『……あなたは、責任を取らないのですか』


 女神の問いは、まっすぐだった。


『もし、この先』

『人が迷い、争い、滅びへ向かったら』


『その原因は、あなたです』


 英雄は、逃げなかった。


「そうだ」


 はっきりと認める。


「俺が、選択肢を開いた」


 女神の声が、微かに揺れる。


『……ならば』


『なぜ、それでも続ける』


 英雄は、しばらく考えた。


 正義でも、理想でもない。

 誰かを救う言葉でもない。


 ただ、事実を口にする。


「……俺は」


「世界を救ったあと、処刑された」


『……』


「正しかったはずなのに、不要になった」


 英雄は、静かに続ける。


「選ばれる側でいる限り、人生は他人のものだ」


 一歩、前に出る。


「だから俺は、選ばせる」


「結果がどうなろうと、それを選んだのは人間だ」


 女神の沈黙は、長かった。


 世界全体が、呼吸を止めたかのように。


『……それは』


 女神の声に、初めて“迷い”が混じる。


『管理を、放棄するということです』


「そうだ」


 英雄は、頷いた。


『神が、それを許せば』


『神である意味が、なくなる』


 案内役の少女が、思わず口を開く。


「それでもいいって、言ってるんじゃない?」


 女神は、答えない。


 代わりに、英雄へ問いを投げた。


『……最後に、一つだけ』


『あなたが、世界を止めている限り』


『人々は、あなたを基準にしてしまう』


『それでも、あなたはそこに立ち続けますか』


 それは、最後の罠だった。


 英雄が“異物”である限り。

 “停止因子”である限り。


 世界は、彼を中心に回ってしまう。


 英雄は、理解した。


(……ああ)


(だから、次は)


 自分が、邪魔なのだ。


 英雄は、目を閉じた。


「……いいや」


 静かな否定。


「俺は、立ち続けない」


 案内役の少女が、目を見開く。


「……え?」


 英雄は、彼女たちを振り返る。


「ここから先は」


「俺がいなくても、選べる世界にする」


 聖女候補の少女の目に、涙が浮かぶ。


「それって……」


「役割を、全部返す」


 英雄は、女神へ視線を戻した。


「俺自身の役割も含めて」


 女神は、沈黙した。


 それは、否定ではなかった。

 肯定でもなかった。


 ただ、答えを出せない沈黙。


『……理解しました』


 ようやく、女神が言った。


『あなたは、最後まで』


『“物語の外”に、いようとする』


「そうだ」


 英雄は、短く答えた。


 空間の歪みが、ゆっくりと引いていく。


 女神の声が、遠ざかる。


『……その選択が』

『世界に、何をもたらすか』


『私は、もう予測できません』


 それは、敗北宣言ではない。


 だが。


 管理者としての、限界だった。


 英雄は、深く息を吐いた。


 案内役の少女が、ぽつりと言う。


「……本当に、やるんだ」


「ああ」


「怖くない?」


「怖いさ」


 英雄は、苦笑する。


「でも、これだけは誰にも選ばせない」


 夕暮れの丘で、三人は立っていた。


 世界は、まだ続いている。

 だが、物語は――


 終わる準備を、始めていた。


ここまでご覧いただきありがとうございます。


あと数話で完結となる予定です。


ブックマークをして、続きを楽しみにお待ちいただけると嬉しいです。

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