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世界を救った英雄は処刑された ~役目を終えた俺は、世界のシナリオを止めてやり直す~  作者: 天城ハルト


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第13話 壊さず、否定せず、奪い返す

 礼拝堂の中は、静まり返っていた。


 淡い光はまだ消えていない。

 聖女候補の少女の胸元に浮かぶ紋章は、完成しかけのまま、呼吸するように明滅している。


 ――聖女。

 ――代理導線。

 ――暫定修正点。


 英雄の視界に浮かぶ“線”は、どれも不安定だった。

 確定しきれていない。

 だが、放置すれば“正しい形”に固定される。


 それが、女神の狙いだった。


「……英雄さん」


 少女が、恐る恐る顔を上げる。


「私、間違って……ましたか?」


 その問いは、刃のように鋭かった。

 否定すれば、彼女の選択を奪う。

 肯定すれば、世界に回収される。


 案内役の少女が、息を殺して見守っている。

 ここでの一言が、すべてを決める。


 英雄は、ゆっくりと首を振った。


「間違ってはいない」


 少女の目が、揺れる。


「……でも」


「正しくもない」


 その言葉に、光が一瞬、脈打った。


 英雄は、一歩前に出る。

 だが、彼女には触れない。

 紋章にも、線にも、干渉しない。


 ただ、言葉を投げる。


「君は、“意味を与えられた”だけだ」


 少女の呼吸が、浅くなる。


「選んだつもりになっただけで、選ばされてはいない」


 案内役の少女が、思わず息を呑む。


 それは、否定ではない。

 だが、逃げ道もない。


「……じゃあ」


 少女の声が、震える。


「私は、どうすれば……」


 英雄は、少しだけ目を伏せた。


 ここで答えを出してしまえば、また同じだ。

 誰かが決める。

 誰かが正解を用意する。


 だから。


「決めなくていい」


 静かな声。


 礼拝堂の空気が、ぴたりと止まった。


「……え?」


「今は、決めなくていい」


 英雄は、繰り返す。


「祈る必要もない。役に立つ必要もない。勇者を導く必要もない」


 少女の目から、涙がこぼれ落ちる。


「でも……何もしなかったら……」


「世界が壊れるかもしれない」


 英雄は、はっきりと言った。


「それでもだ」


 紋章が、強く揺れ始める。

 役割が、確定しようとする。


 案内役の少女が、思わず叫ぶ。


「……来る!」


 空間が、きしむ。

 女神の“視線”が、確かに降りてきていた。


『未確定要素を確認』

『安定化を優先』


 声は、以前よりも近い。


 英雄は、初めて“線”ではなく、“間”を見た。


 役割と役割の隙間。

 選択と選択の間に生じる、空白。


(……ここだ)


 彼は、紋章を壊さない。

 否定もしない。


 ただ、その“間”に立つ。


「この選択は、保留だ」


 宣言。


 命令ではない。

 願いでもない。


 “未確定”という、事実の提示。


『……』


 女神の声が、止まる。


 紋章の光が、弱まった。

 消えはしない。

 だが、固定もされない。


 聖女候補の少女が、呆然と英雄を見る。


「……それで、いいんですか」


「いい」


 英雄は、初めて、はっきりと笑った。


「選ばない、という選択もある」


 少女の胸元から、紋章がゆっくりと消えていく。

 完全にではない。

 だが、彼女からは離れた。


 役割は、宙に浮いたまま、行き場を失う。


 空間の歪みが、引いていく。

 女神の視線が、遠ざかる。


 礼拝堂に、静けさが戻った。


 聖女候補の少女は、その場に座り込んだ。


「……何も、なくなった感じがします」


「それでいい」


 英雄は、隣に腰を下ろす。


「何者でもない時間は、怖い。でも」


 一拍置いて。


「そこからしか、本当の選択は始まらない」


 案内役の少女が、ゆっくりと息を吐いた。


「……ほんと、無茶苦茶だね」


「そうか?」


「世界にとっては、最悪」


 彼女は、苦笑する。


「でも……人にとっては、たぶん」


 言葉を切り、続けた。


「一番、優しい」


 英雄は、答えなかった。


 ただ、礼拝堂の天井を見上げる。


 世界は、また一つ、想定外を抱え込んだ。

 修正できない空白。

 壊せない未確定。


 女神は、理解しただろう。


 この異物は。

 役割を壊すだけの存在ではない。


 ――“物語を、止める”存在だと。


 それは、剣よりも。

 奇跡よりも。


 ずっと、厄介な力だった。


本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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