7話 もしかして、これが一番おもしろい?
あの青い星は、今日も回っている。
大気がざわめき、雲がうごめき、海が月の影に踊る。
地表では、少女が「しゃべるかたちたち」と呼んだ存在たちが、それぞれに意味不明な行動を繰り返していた。
「うーん……朝なのに動かないやつがいる。夜なのに走ってるやつもいる。寝ないの? 寝る意味って何? なんで日によって動きが違うのー?」
少女はふわふわと高度を上下させながら、人間たちを観察していた。
観察対象──それが彼女にとっての人間の立ち位置だった。
怖いから逃げる。
腹が減るから食べる。
それらと同じ原理で動いているのだと最初は思った。
けれど、実際の人間はそうではなかった。
同じ状況でも、泣く者もいれば、笑う者もいる。
近づく者、離れる者、黙る者、叫ぶ者。
「条件が一致してても、反応が揃わない……バグ? エラー? わざと?」
少女は仰向けに浮かびながら、指先で空気に数式をなぞるように反応のパターンを描いてみる。
しかし、そこに規則性はなかった。
「わたしの理解外! つまり超おもしろい〜!」
彼女はそう言って、意味もなく宙返りした。
■
少女の目には、人間という存在は常に“例外のかたまり”として映っていた。
ある村では、年老いた者に若者たちが頭を下げていた。
別の村では、若者が老いた者を突き飛ばしていた。
「ルール、あってないようなもの? それとも、いっぱいありすぎて分類不能なの?」
おなじ言葉を使っているように見えるのに、国が変わると意味も変わる。
昨日まで笑っていた者が、今日は泣いていた。
「“感情”って、安定しないんだねぇ……」
少女は感心しきりだった。
理解はできない。
でも、観察するには申し分ない。
■
あるとき、一人の子どもが丘の上で星を見上げていた。
何かを待つように、何かを願うように、手を合わせて。
「……いま、だれに向かってたの?」
少女は思わず、近づいてしまった。
子どもには気づかれない。
でも、その行動には明らかに“意図”があった。
「わたしを見てた……のかな? いや、ちがう。でも……『見られてる』って思ってた、かも?」
その発想自体が、少女には新鮮だった。
彼女はただの観察者。
感謝される理由もなければ、愛される存在でもない。
でも。
「“誰かが見てくれている”って思いながら生きるって、なんか、変で……ちょっと、いいね?」
そう呟いて、少女は小さく笑った。
それは優しさではない。
共感でもない。
ただ、“好奇心”がくすぐられたというだけ。
「やっぱりこの星、最高に意味不明でおもしろい!」
この瞬間、少女は決めた。
しばらく、いや、永遠にでも——
この奇妙な存在「人間」を観察してみようと。
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