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7話 もしかして、これが一番おもしろい?

あの青い星は、今日も回っている。


大気がざわめき、雲がうごめき、海が月の影に踊る。

地表では、少女が「しゃべるかたちたち」と呼んだ存在たちが、それぞれに意味不明な行動を繰り返していた。



「うーん……朝なのに動かないやつがいる。夜なのに走ってるやつもいる。寝ないの? 寝る意味って何? なんで日によって動きが違うのー?」



少女はふわふわと高度を上下させながら、人間たちを観察していた。


観察対象──それが彼女にとっての人間の立ち位置だった。


怖いから逃げる。

腹が減るから食べる。

それらと同じ原理で動いているのだと最初は思った。


けれど、実際の人間はそうではなかった。


同じ状況でも、泣く者もいれば、笑う者もいる。

近づく者、離れる者、黙る者、叫ぶ者。



「条件が一致してても、反応が揃わない……バグ? エラー? わざと?」



少女は仰向けに浮かびながら、指先で空気に数式をなぞるように反応のパターンを描いてみる。

しかし、そこに規則性はなかった。



「わたしの理解外! つまり超おもしろい〜!」



彼女はそう言って、意味もなく宙返りした。



少女の目には、人間という存在は常に“例外のかたまり”として映っていた。


ある村では、年老いた者に若者たちが頭を下げていた。

別の村では、若者が老いた者を突き飛ばしていた。



「ルール、あってないようなもの? それとも、いっぱいありすぎて分類不能なの?」


おなじ言葉を使っているように見えるのに、国が変わると意味も変わる。

昨日まで笑っていた者が、今日は泣いていた。



「“感情”って、安定しないんだねぇ……」



少女は感心しきりだった。

理解はできない。

でも、観察するには申し分ない。



あるとき、一人の子どもが丘の上で星を見上げていた。

何かを待つように、何かを願うように、手を合わせて。



「……いま、だれに向かってたの?」



少女は思わず、近づいてしまった。

子どもには気づかれない。

でも、その行動には明らかに“意図”があった。



「わたしを見てた……のかな? いや、ちがう。でも……『見られてる』って思ってた、かも?」



その発想自体が、少女には新鮮だった。

彼女はただの観察者。

感謝される理由もなければ、愛される存在でもない。


でも。



「“誰かが見てくれている”って思いながら生きるって、なんか、変で……ちょっと、いいね?」



そう呟いて、少女は小さく笑った。


それは優しさではない。

共感でもない。


ただ、“好奇心”がくすぐられたというだけ。



「やっぱりこの星、最高に意味不明でおもしろい!」



この瞬間、少女は決めた。

しばらく、いや、永遠にでも——


この奇妙な存在「人間」を観察してみようと。

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