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51話 “見てるつもり”って、たいてい“見られてる”よね〜

「ねぇ〜〜、なんかさ〜〜……わたし、“見られてる”気がするんだよね〜〜〜〜〜?」


 


ナミは村はずれの斜面に寝転びながら、空にぽつんと呟いた。

本来なら、見てる側なのに。

観察してる側なのに。


 


なのに、最近――

なにかが、自分の背中に視線を残していく気がしてならない。


 



 


村では、ナミのことがちょっとした噂になっていた。


 


「旅の子だって言ってたけど、あの子……妙に“馴染んでる”気がするよな」

「うん。まるで、前から知ってたみたいに、いろんなことを“楽しんでる”よね」

「でもさ、ちょっとズレてるっていうか……うまく言えないけど、なんか“不思議”なんだ」


 


ナミはその会話を、隣の屋根の上から聞いていた。


 


「うわ〜〜〜っ、やっぱり“わたしのこと”、見られてた〜〜!? いや〜〜〜ん、なんかくすぐった〜〜〜い!」


 


それは、まさに“観察されている”感覚。

でも、嫌じゃなかった。


 


むしろ――


 


「これが“注目される”ってやつなんだ〜〜! な〜〜んか、楽しいかも〜〜っ♪」


 



 


その日の夕方、広場で火を囲んでいた村人たちの輪に、ナミも座っていた。


 


だれかが昔話を語り、だれかが木の笛を吹いて、

だれかがそっと、ナミの横に手作りのお菓子を置いてくれる。


 


ナミはふと、隣の青年に声をかけた。


 


「ねえねえ、どうしてわたしのこと、そんなに見てくるの〜〜?」


 


青年は少し戸惑ってから、笑った。


 


「君のことを“気にしてる”んじゃなくて、君が“気になっちゃう”んだと思うよ」

「え、なにそれ〜〜〜! ちょっと詩的じゃない〜〜!?」


 


「だって、君、全部が“新鮮”なんだもん。何しても楽しそうで、目が離せないんだ」


 


その言葉に、ナミは目を丸くした。




 


(わたし、“見られてる理由”が、“面白いから”って……めっちゃ光栄なんだけど〜〜!?)



ナミはその晩、村の外れにぽつんと座っていた。


月明かりの下で、村の光を見下ろしながら、にまにまと口元を緩める。


 


「なんかさ〜〜……“人間”ってさ〜〜……ほんとに、いい観察対象だよねぇ〜〜〜〜♪」


 


そう言いながら、ナミは手のひらで夜空をかきまわす。

それだけで、星がわずかに瞬きを変えた。


 


“世界”に干渉する力。

自覚はしていないが、ナミが“見た”ものは、少しずつ変化していく。

彼女の“視線”こそが、世界の原動力になりつつある。


 


──だけど。


 


「“わたしを見てくる”って、ほんとに、おもしろい〜〜〜!」


 


ナミにとって、観察されるという体験は、これまでにない刺激だった。


なにしろ、彼女はずっと“見る側”だったのだ。


天の高みから、ただ一方的に見下ろしていた存在が、

今は地べたを歩き、火に当たり、村人にお菓子をもらいながら、

彼らの輪のなかに“混ざっている”。


 


「……混ざるって、思ってたよりも、ぜんぜん退屈じゃなかった〜〜〜」


 


空の上からでは気づけなかった匂い。

食べ物の温度。

人の手の硬さ。

まばたきのタイミング。


 


そういった“細かい観察”は、地上に降りなければ得られなかった。


 


「しかも、こっちが“観察してる”って思ってたのに、向こうも“観察してた”っていうね〜〜〜!」


 


ナミはくすくすと笑い転げる。


 


「“見てるつもり”って、たいてい“見られてる”んだねぇ〜〜〜〜〜」


 



 


その翌日。


ナミは、村の広場に出ると、いきなり宣言した。


 


「ねえねえ、みんな〜〜! “交換日記”ってやつ、やってみない〜〜〜〜!?」


 


「えっ、なにそれ?」


 


村人たちの反応は、きょとん、としたものだった。


 


ナミは、地面に枝でざかざかと説明図を描く。


 


「えっとね、これは、“わたしが見たこと”と“あなたが見たこと”を、交代で書く遊びだよ〜〜〜〜!」


 


──つまり、“観察の共有”。


 


最初はぽかんとしていた村人たちも、

ナミがその場で真剣な顔をして絵を描きはじめると、

少しずつ興味を持ち始めた。


 


「なんか……楽しそうだな」

「じゃあ、俺も描いてみるよ。昨日見た“赤い光る虫”のこと」


 


そうして、火のまわりにひとつのノートができあがった。


木の皮に墨で描いたそれは、

やがて“村の記録帳”になっていく。


 


「ね〜〜〜っ、これってさ〜〜、“見ること”が“遊び”になるってことだよねぇ〜〜〜〜!」


 


ナミの提案がきっかけとなって、

この村には“観察文化”が根づきはじめた。


そして、ナミ自身もまた、“観察されること”に喜びを覚えていく。


 


(見ることも、見られることも、どっちも楽しいなら、きっと“世界”ってすごくいいもんなんだねぇ〜〜〜〜♪)


 


星空の下、村のあちこちから灯る焚き火を見ながら、ナミは空に浮かんだ。


人間という存在の、想像もつかない方向への進化と創造。


それをこれからも、もっともっと近くで、見ていたい。


 


それが、ナミの“今の気分”だった。

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