5話 食べる、にげる、ふえる
「なるほどなるほど〜……“行動”っていっても、いろいろあるんだね〜〜」
少女は、ある星の衛星軌道に腰を下ろし、下界を見下ろしていた。
そこには多様なかたちをした生命体がいた。毛むくじゃらのやつ、ぷるぷるのやつ、地面に潜ってるやつ。
どいつもこいつも、実に反応がいい。
でも、それだけじゃない。
「なんか、“理由”があって動いてるっぽい……」
たとえば——
一体の生き物が、別の生き物を追いかけて、捕まえて、噛んで、のみこんだ。
それを見ていた別の生き物が、急いで逃げた。
逃げたやつが草をかじって、そこからしばらくして、同じ姿の小さなものが増えた。
「えっ? あれ、増えた? コピった? マジで?」
少女はくるくると回りながら笑った。
「“食べる”とか“にげる”とか“ふえる”とか……それぞれ、やり方が違ってて面白いね〜〜!」
けれど、それらは“しゃべるかたちたち”ほど複雑ではなかった。
あるルールのもとで動き、条件がそろえば繰り返し同じ行動を取る。
まるで、再生可能な構造体。
「ふむふむ。これはこれで観察しがいがあるけど……うーん、予測しやすいかも」
少女は頬をふくらませた。
いくつかの群れを観察した。
種類の違う“ふえるやつら”は、それぞれ異なる戦略と形状を持っていたが、根本的なところは似ていた。
反応が単純。
意志のように見えるけれど、たぶん違う。
そこには、“しゃべるかたちたち”のような「曖昧さ」や「混乱」がなかった。
「ねぇ〜……“考えてるっぽさ”が見たいんだよなぁ〜」
少女は空中で大の字になって、ぼやいた。
彼女の興味は、どんどん繊細な現象へと向かっていた。
「やっぱ、わたし、もっと“おかしなやつ”が見たい」
その“おかしさ”とは、説明不能な行動。
理解できない反応。
予測できない感情。
少女はそういう“観察しがい”のある相手を、心のどこかで探していた。
■
そして彼女は、星図の中で、ひときわ青く光る球体に目をとめた。
それは、これまでに観たどの星とも違っていた。
水、空、大気、雲、そして——文明の匂い。
「……これ、ちょっと、面白そうじゃない?」
少女はゆっくりとその星へ向かって降下していく。
そのときの彼女は、まだ知らなかった。
そこにいる存在が、後に彼女の知的好奇心を“独占”することになるとは。
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