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49話 “人間になってみる”って、遊び心には勝てないよね〜〜

「よしっ……今日から、わたしは“ただの旅人の少女”ってことで〜〜〜す!」


 


ナミは朝の空気のなか、村の入口の小道で背筋をぴんと伸ばした。

真っ白な髪、無邪気な笑顔、そして“正体不明な浮遊感”。

傍目から見れば、少し風変わりな、けれど愛想のよい子どもにしか見えない。


 


「この村のひとたちって、朝になると“いっせいに働きだす”んだね〜〜〜! おもしろいっ!」


 


ナミは村人たちの行動を観察しながら、石垣の上にちょこんと座っていた。


 


「みんな、“何かに向かって動いてる”って感じ……でも、“何をしてるか”はよく分かんない〜〜〜」


 


それでも、その“分からなさ”が彼女にとっては極上の娯楽だった。


 



 


「……お嬢ちゃん、こんなとこでなにしてるんだ?」


 


ふと、農具をかついだ老人が声をかけてきた。

ナミはぱっと顔を上げ、ぱあっと笑顔を浮かべる。


 


「こんにちは〜〜っ! このへん、いろいろ“初めて”で、すっごく楽しいです〜〜!」


 


「……旅の子かい?」


 


「たぶん、そんな感じで〜〜す!」


 


老人は一瞬ぽかんとしたが、すぐに苦笑して、畑の方へ去っていった。


 


ナミはその背中を見送りながら、こっそり呟いた。


 


「……いまの、“会話”だったんだよね〜〜?」


 


不思議な感覚だった。


 


空から見ていたとき、会話は“情報のやり取り”にしか見えなかった。

でも、いまは――


 


「“言葉の間”って、こんなに体温あるんだ〜〜〜〜っ」


 


伝えようとしてないことが、伝わっちゃったり。

何も言ってないのに、何かが共有されていたり。


 


「やっぱり、来てみて正解〜〜〜〜〜っ!」


 


ナミは足をぶらぶらさせながら、空を見上げた。

雲の向こう、昔の自分がいたあたりを見ながら、小さく手を振った。


 


「じゃあ、今日も“観察”、楽しむぞ〜〜〜〜っ!」




村の中心にある井戸の前で、ナミは腰に手を当てて立っていた。


 


「う〜〜〜ん、この“水をくむ儀式”、リズムが面白い〜〜!」


 


縄をたぐる、桶を引く、水を分け合う。

その一連の流れが、まるで“舞踏”のように見えた。


 


ナミはちょこちょこと歩きながら、あちこちを観察して回る。

花を売る少女、木材を運ぶ兄弟、道の端で昼寝する犬。


 


全部が、“人間らしい”ということそのものだった。


 



 


昼過ぎ、広場の片隅で座っていたナミのもとに、ひとりの少年がやってきた。


 


「ねえ、君、どこから来たの?」


 


ナミはにっこり笑って言った。


 


「わかんない〜〜っ!」


 


「えっ……?」


 


「でも、“来てみたら楽しかった”って感じ〜〜!」


 


少年は困ったように眉をひそめたが、すぐに笑った。


 


「君、変な子だね」


 


「うん、よく言われる〜〜!」


 


ナミは何でもないように笑うが、内心では驚いていた。


 


(わたし、“対話”してる……。

 しかも、これ、“ただの言葉のやり取り”じゃなくて――“反応”だ!)


 



 


会話のあと、ナミは広場の端に移動して、ひとりごとのように呟いた。


 


「これ、想像してたのより……ずっと、面白いかも〜〜〜」


 


目の前にいる人間たちは、

構文も祈りも使わずに、感情を伝えてくる。


 


ちょっとした間。

声の調子。

目線の向き。


 


全部が“観察対象”としての情報でありながら、

“自分に向けられたもの”として、ナミの中に入り込んでくる。


 


「これってもしかして、“観察”じゃなくて――“関係”ってやつ……?」


 


そう思った瞬間、ナミの胸がきゅっとなった。


 



 


その夜、ナミは村はずれの小道で空を見上げていた。

今日だけでも、たくさんの“情報”があった。

でも、それ以上に――


 


「“遊び心”って、やっぱり最強なんだね〜〜〜〜」


 


最初は観察だった。

でも、いまはすでに、“その場にいる”という感覚に心が震えている。


 


「よしっ、しばらくこの姿で遊んでみよ〜〜〜っ!」


 


ナミはにっこり笑い、手をぐるぐる振った。


 


人間になってみたナミは、

今日もどこかで“わかりそうでわからない感情”を探しにいく。


 

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