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48話 “降りてみる”って、思ったよりドキドキするよね〜〜

「じゃ〜〜ん! できました〜〜! “人間の姿セット”、仮完成〜〜〜っ!」


 


ナミは満面の笑みを浮かべ、雲の上でくるくると自分を回転させた。

肩までのふわふわ白髪、よく笑う口元、ちょっと子どもっぽいけどバランスのとれた体格。

元々、姿形に制限はなかったが、“人間のふり”をする以上、それっぽく整える必要があった。


 


「よしよし、見た目はこれでOK〜〜! 次は……動きの練習っ!」


 


ナミは膝を抱え、ゆっくり着地のポーズを試してみる。


 


「“普通に歩く”って、むずかし〜〜! みんなよくこんな、足と腕を交互に振るリズム、間違えないな〜〜?」


 


数回転びながらも、ナミは笑顔で立ち上がる。

失敗すら面白くて仕方がない。


 


「あとあと〜、“喋り方”も人間ぽくしなきゃだよね〜〜。

 ……って思ったけど、わたし、いつも通りで十分っぽい気もする〜〜〜!」


 


確かに、ナミの普段の喋り方は、妙に“無邪気でフレンドリー”で、人間の子どもに近い。

だから逆に、まったく違和感がないかもしれない。


 


「じゃあさっそく、準備完了ってことで――降りちゃおっか〜〜〜〜〜っ!」


 


ナミは両手を空に伸ばし、ぴょんと跳ねるようにして宙に舞った。

そのまま、重力という概念すら忘れて、地上に向かってすーっと滑空していく。


 



 


最初に足をつけたのは、木々に囲まれた小さな村のはずれ。

人の気配はあるが、視線は届かない。


 


ナミは、そっと土を踏んだ。


 


「……うわ〜〜〜、地面って、“重い”んだね〜〜!?」


 


空の上で浮いていたときには感じなかった、“重み”と“湿気”。

靴の裏に草がまとわりつく感覚が、妙にリアルで笑いが込み上げた。


 


「や〜〜ん、なんかくすぐったい〜〜っ!」


 


それは、これまで見てきたどんな“観察”よりも、生々しい感覚だった。

ナミは目を閉じて、草のにおいを吸い込む。


 


「これが、“地上”かぁ〜〜。

 ……わたし、ついに“こっち側”に来ちゃったんだね〜〜〜〜っ!」


 


その胸に浮かぶ、言葉にできないワクワクと、

ほんのすこしの、名前のない不安。


ナミは、足元の石をひとつ拾い上げた。


 


「これも、“人間たちが踏んでる地面の一部”だよね〜〜」


 


その重さ、ひんやりした温度、指に感じるザラつき。

何気ない小石が、いまは宝物みたいに思えた。


 


「空から見てたときは、“ただの景色”だったのに……

 いまは、全部が“わたしと同じ場所にある”って感じ〜〜〜!」


 



 


そのとき、村の方から誰かの声が聞こえた。


 


「……そっちは森の方だ。気をつけろよ!」

「はーい!」


 


ナミはびくっと肩をすくめて、慌てて木陰に隠れた。


 


「わわっ、そっかそっか、わたし今、“見られる立場”なんだった〜〜〜〜っ!?」


 


これまで見ていた側が、いまや“見られる”可能性のある側になった。

それだけで、胸がドキドキして仕方がない。


 


「はじめて“人間の目線”と“わたしの目線”が同じ高さになるって、

 ……こんなにも、世界が違って見えるんだね〜〜〜〜〜〜」


 



 


やがて、茂みの向こうから一人の少女が現れた。

手に木の枝を持ち、何かを探している様子。


 


ナミは見つからないように、そっと木の後ろにまわる。


 


(どうする? 話しかける? それとも、観察を続ける?)


 


思考がくるくる回る。


 


でも、なぜだか不思議と――怖くはなかった。


 


“ただ見ているだけ”では、味わえなかったこの緊張感。

“観察対象”だった人たちと、同じ空気を吸っているこの感じ。


 


ナミは、自然と笑みをこぼしていた。


 


「ねぇ、“ふれあう”って、やっぱりちょっと……ドキドキするんだね〜〜〜〜っ」


 


結局、その少女に声をかけることはなかった。

でも、それでも――ナミにとっては、大きな一歩だった。


 


“観察者”が、“接触者”になるための一歩。


 



 


その夜、ナミは村はずれの丘で寝転がりながら空を見上げた。

こんなに近くに空があるのに、それが今までいた場所とはまるで違うと、

今さらながらに実感する。


 


「……ねぇ、わたし、どうして地上に降りたんだっけ?」


 


理由なんて、なかったはずだ。

ただ、“楽しそう”だったから。

ただ、“触れたかった”から。


 


でも、いまはちょっとだけ、違う気もする。


 


「……うまく言えないけど、“言葉にならない何か”が、わたしをここに連れてきた気がするの」


 


そう呟いたあと、ナミは笑った。


 


「うわ〜〜〜っ、今のセリフ、自分で言っててくすぐった〜〜〜〜いっ!」


 


そして彼女は、初めての“地上の眠り”に身を預ける。


 


観察者としてでも、創造者としてでもない。

ただ“ここにいる誰か”として――


 

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