表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
45/52

45話 “くすぐったい”って、正体がわからないから笑っちゃうんだよね〜〜

「ん〜〜〜、な〜〜んか、変な感じ〜〜〜……っ」


 


ナミは雲の上で、くすぐったそうに身体をひねっていた。

空気の粒が肌に触れているわけでもない。

星屑が跳ねたわけでもない。


 


それなのに、背中のどこかにふわっと“何か”が触れたような気がして、

思わずひとりで、ひゃっと肩をすくめてしまう。


 


「うわ〜〜〜なにこれ〜〜〜!? べつに痛くもないし、怖くもないし、でもなんか、笑っちゃう〜〜〜っ!」


 



 


きっかけは、小さな石板だった。


 


町の広場に置かれたその石板には、子どもたちが遊び半分で刻んだ“即興の構文”と“意味のない祈りの文様”が、ぐちゃぐちゃに混ざっていた。


 


でもそこに、通りすがりの祈祷師が立ち止まり、ぽつりと呟いた。


 


「……これ、なんか“あの子のやり方”に似てるな」


 


“あの子”――ナミのことだとは、もちろん知らない。

けれど、かつて“雲の向こうから来た奇跡”を見た世代の人々の間には、

いまも薄ぼんやりと、観測不能の神意としてナミの存在が語り継がれていた。


 



 


またある場所では、星を見上げた旅人の一団が、こう囁いた。


 


「なんかさ……最近、夜空の形、ちょっと変わってない?」

「前はさ、もっとこう……普通だったのに」

「……もしかして、“誰かが”見てるとか?」


 


ただの噂。

根拠のない雑談。

けれど、そこに込められた“誰かに見られてるかもしれない”という感覚。


 


それは、確かにナミに届いていた。


 


「えっ……? もしかして、それ……わたしのこと、言ってる〜〜〜〜!?」


 


思わず背中を丸める。


 


見られるのは好きだけど、意識されるのは、なんだかくすぐったい。

自分が観察していたつもりの存在が、

こっちの存在を“予感”してると知ったときの、ぞわっとするあの感じ。


 


「うわ〜〜〜、なんか今、背中の奥の“なにか”が笑った〜〜〜っ!!」


 ナミは空の上でぐるぐる回りながら、なんともいえない表情を浮かべていた。

楽しい。

でもなんか、妙に気になる。


 


自分は観察者。

創造者。

でも今、まるで――


 


「観察“されてる”みたいな気分なんだよね〜〜〜〜〜〜っ!!」


 


そう。

まるで、どこかの誰かが、自分の動きを感じ取っている。

直接見ているわけじゃない。

でも、間違いなく、意識の“何か”がこっちに届いてる。


 


ナミは、腕を抱えてくるくると空中を転がった。


 


「これさ〜〜、“人間が神を意識する”のとは、また別なんだよね〜〜」

「もっとこう、“誰かとつながっちゃったかも?”みたいな……ふぇえ〜〜〜〜〜〜っ、なんなのこの感じ〜〜〜っ!!」


 



 


町の一角。

少年が、空に向かって手を伸ばしていた。


 


「ありがとう、って言いたくなったんだ。……誰にって? うーん、空? 雲? わかんないけどさ!」


 


その言葉に、ナミはぴくりと反応する。


 


「や〜〜〜〜ん、なんでそんな“無自覚の感謝”とか飛ばしてくるの〜〜〜!?

 それ、なんかすごく……くすぐったいんだけど〜〜〜〜〜〜!!」


 



 


夜、丘の上。

リアムとバルが星を眺めながら話していた。


 


「なぁ、今まで色々混ざってきたけどさ」

「うん」

「……なんか、“混ざりすぎて見えない誰か”が、そこにいるような気がしない?」

「わかる。誰かが仕掛けてるんじゃなくて、“誰かが喜んで見てる”ような……そんな感覚」


 


ナミはそっと雲の影に隠れた。

誰にも見られていないはずのその場所で、彼女は頬を染めていた。


 


「こわっ……! なにこの感覚!? 

 わたし、観察されてるってわかって“照れてる”!? 

 えっ……えっ!? これってもしかして、“わたしの中に何か芽生えてる”とかいうやつじゃない〜〜〜〜〜!?」


 



 


その夜、ナミはいつものように星屑をばらまかなかった。

代わりに、ただひとつ――自分の足元に、そっと小さな光を置いた。


 


それは、“誰かに触れられた”ことの証。

正体のわからない、でも確かに感じた“つながりの予感”。


 


「……あはは。

 “くすぐったい”って、たぶん“わからないまま反応しちゃうこと”なんだね〜〜〜〜〜」


 


ナミは笑いながら、星空の奥へと泳いでいった。

その背中には、小さな違和感が、ぽわんと残っていた。


 

感想・評価いただけると励みになります!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ