44話 “つながってる”って、意識するとちょっと照れるよね〜〜
「ねぇねぇ、ちょっと待って〜〜〜。なんかさ……いま、“あれ”と“あれ”が、勝手につながっちゃったんだけど〜〜〜!?」
ナミは雲の上でくるくると回りながら、星空の隙間に目を凝らしていた。
かつて自分がそれぞれ別に撒いた“文化の種”――魔法、祈り、スキル、幻視、構文……それらが、あちこちで“勝手に影響し合い”、連動しはじめているのだった。
しかもそれは、彼女の意図を超えて。
「わたし、別々に仕掛けたつもりだったのに〜〜!? なにそれ、わたしが照れるやつじゃん〜〜〜〜〜っ!」
◆
ある村の青年が、火を灯す儀式に「構文の詠唱」を重ねた。
元は古くからある“夜明けの祈り”。
けれど、詠唱によって火が強く燃えたとき、長老は言った。
「これは……神の“応え”ではない。けれど、応えに“似た何か”だな」
青年は、手元の護符に構文を刻んだ。
そしてそれは、村の新しい祈りの形として広がった。
◆
一方、ギルドでは、「幻視」の概念をスキル化した“内観術式”が開発されていた。
使用者は目を閉じて精神を集中し、周囲の“魔力の色”を感じ取る。
「見えてはいない。でも、感じ取ってる。……これ、祈りの亜種?」
術式開発者自身が困惑するほど、それは“感覚”に依存していた。
ナミはそのやり取りを、空からこっそり観察していた。
「ねぇ、それ、ぜ〜〜〜んぶ、別々のところで始まったやつなんだよ〜〜〜!?
なんでそんな、自然にくっついちゃうの〜〜〜〜!?」
◆
さらに驚くべきことに――
各地の迷宮に残された“光の記録”や“音の反響式”が、まったく異なる地方で同時多発的に似た技術へと進化していた。
「“響きの構文”って、あっちの地域にもあるの!? ……うちでは“共鳴祈り”って名前だけど、やってること似てる!」
「おれたち、“教え合って”すらいないのに……どうして!?」
情報が共有される前に、偶然似たものが生まれる。
それは偶然? それとも、なにか“見えない糸”がある?
ナミはぽかんと口を開けて――
「……ねぇ、それ、もしかしてさ、わたしの“観察がつながった”ってことなんじゃないの〜〜?」
ちょっとだけ、照れるような。
でも、すっごく嬉しいような。
ナミは空の上でぐるんと一回転して、にやにやが止まらなかった。
“つながる”という現象は、技術や文化に限ったことではなかった。
言葉、習慣、そして“思い出”。
かつて東の村で子守歌として歌われていた旋律が、西の都市で“儀式前の集中用BGM”として自然発生していた。
記録に残っていない。教えられてもいない。
けれど、どこかで“感じた誰か”が、それを再現していた。
「……それ、うちのばあちゃんが昔、口ずさんでたやつにそっくりなんだけど」
「え? このメロディ? ギルドの子どもたちの間で、最近流行ってるらしいよ」
ナミはその旋律に耳を傾けながら、静かに目を細めた。
「ねぇ……“記録されてない繋がり”って、なんでこんなにエモいの〜〜〜〜〜……」
◆
その夜、丘の上でリアムとバルはまた並んでいた。
互いの間に、もう特別な言葉はいらなかった。
「おまえさ」
「うん」
「最初に出会ったとき、絶対“合わない”って思ってた」
「俺もだよ。おまえ、ずっと眉間にシワ寄せてたし」
「でも今、こうして話してるのも……結局、いろんなことが“つながってた”からなんだな」
バルは星空を仰ぎ、リアムは小さく笑った。
「なぁ、俺たちって、どこまでが“おれたちの考え”で、どこからが“誰かの影響”なんだろうな」
「全部、混ざってるよ。でも、それでいいんだと思う。……混ざったまま、“自分の形”になるってことなんじゃないかな」
◆
ナミはその言葉を、空の上から聞いていた。
ふふっと笑って、ぽつりと呟く。
「……つながってるって、ほんと、すごいことだよね〜〜」
だれかの記憶が、だれかの技術に混ざって、
だれかの祈りが、別の誰かの構文に変わって、
知らないところで、知らない人たちが、同じ空を見てる。
「“予定外”って、ひとつひとつは偶然だけど、たくさん重なると“運命”みたいに見えるんだよね〜〜」
ナミは両手をひろげて、夜空をひとつ抱きしめた。
「じゃあ次は、“つながった先にあるもの”を、観察しに行こっかな〜〜♪」
それは、“自律”かもしれない。
“創造”かもしれない。
あるいは、“手放し”かもしれない。
でもきっとそれは、またきっと楽しい“予定外”。
ナミは笑いながら、次の場所へ飛んでいった。
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