42話 “ぐっちゃぐちゃ”って、整理するより見てる方が楽しいよね〜〜
「うわ〜〜〜、見て見て見て〜〜〜っ! もうめっちゃ“ぐっちゃぐちゃ”になってる〜〜〜〜!」
ナミは雲の隙間から身を乗り出しながら、両手で顔を覆った。
その目の奥には、かつてスキルや構文に秩序があった西方の町と、祈りと感応で彩られていた東の村が――
まるでミキサーでかき混ぜたみたいに、混ざり合った“新しい町”の姿が広がっていた。
そこでは、魔法陣の中に護符が貼られ、構文の横に祈りの言葉が添えられ、スキルの発動に“感応の沈黙”が必要とされていた。
「“気配で見る”って言葉、もう“スキル”として登録されてる〜〜〜!?
“集中の儀式”とか、“構文に魂を乗せる”とか、なにそれなにそれっ、最高すぎ〜〜〜〜っ!」
◆
リアムとバルが最初に交差してから、およそひと月。
両者の拠点のあいだには、いまや“共学の迷宮学校”が建っていた。
教壇に立つのは、かつての冒険者であり、今は“感応構文講師”となったカレン。
生徒は、祈祷師の卵と、元ギルド訓練生。
「“気配を読む”ことは、構文にも反映される。たとえば――」
「はい、あの、“火の構文”と“光の祈り”を混ぜた場合って、“揺らぎ”はどっちが優先ですか?」
「え、ちょっと待って、なにその質問!? めちゃくちゃ専門用語生まれてるじゃん〜〜〜!!」
ナミは空中で小躍りした。
「“混ざって”、さらに“自己発展”して、誰にも止められない段階に突入してる〜〜〜っ!!」
◆
町の外れでは、石板の市が開かれていた。
構文・護符・祈りの記録が、すべて一緒に彫られた“混成石板”が並ぶ。
「この板は、第一層用。感応で敵の数を感じたあと、構文で足止め、祈りで回避率アップ。全部載せてます」
「こっちは、“共鳴式の静音型”。動くと発動するやつ。ちょっと不安定だけど、使い方次第!」
誰もが、“正しい形”を忘れはじめていた。
かつてあった“決まり”や“理屈”より、“便利”と“効率”と、“直感の納得感”が優先されていた。
ナミは雲の上でぐるぐる回りながら笑い転げた。
「ねぇねぇねぇ、これ、誰が“整理”するの〜〜!? “何が何だか分からないけど便利”って、いちばん人間らしくて好き〜〜〜〜っ!!」
混乱は、良い意味でも悪い意味でも、創造を呼んだ。
“光の祈り構文”を使って迷宮の壁に光の文字を刻んだ子どもがいた。
それが後に“導きの碑文”と呼ばれ、正式な探索道標としてギルドに登録されることになる。
“静音の沈黙術式”という、もはや誰にも完全に理解できない構文を作った男もいた。
誰がどう使っても発動しないのに、たまに迷宮の奥で勝手に起動して“道が開いた”と報告された。
「ね〜〜〜え!? その構文、“神様の気まぐれ”って呼ばれてるらしいよ〜〜!?
もしかしてわたしのせい〜〜〜!? や〜〜だ、もう〜〜〜〜〜っ!」
ナミは雲の上で、星屑の枕に突っ伏しながら笑い転げた。
◆
でも、当然“ぐっちゃぐちゃ”には、ついていけない人もいた。
「なんかもう、構文に祈り重ねられても意味わかんないよ……」
「昔の方が良かったな。“スキル”って名前で統一されてた時代の方が、わかりやすかった」
「どっちが正しいか決めてくれ。混ざりすぎて、逆に不安だ」
混乱は、自由を生み、そして同時に“不安”も生んだ。
ナミはその声にも耳を傾けながら、そっとつぶやいた。
「うんうん、わかるわかる。“正しさ”がどっかいくと、こわくなるよねぇ〜〜」
でも、それでも、ナミは空を漂いながら笑っていた。
「わたしね、“ぐっちゃぐちゃ”って、たぶん、“進化”の一歩手前なんじゃないかな〜〜って思うの」
それは、いったん壊れかけた積み木が、
まったく新しい形に組み直される前の、一番ぐちゃぐちゃな状態。
いちばん混乱して、
いちばん不安定で、
いちばん面白い、あの瞬間。
◆
その夜、バルとリアムは、迷宮の前でふたりきりで話していた。
「……おれ、正直に言うと、最近、なにが正しいのかわかんない」
「俺も。けど……わかんなくても、前より“楽しい”って気持ちは、消えてないんだよな」
「そうだね。なんか、迷ってるままでも、進める気がするよ」
ナミは、彼らの声を聞いて、静かに笑った。
「うん、それそれ〜〜。
ぐっちゃぐちゃの中でも、“進んじゃう”のが、人間なんだよね〜〜〜〜」
そして彼女は、次の刺激のために、
そっと手を広げて、また星屑を拾い上げた。
「じゃあ次は〜〜、“形になる前のカタチ”ってやつ、観察してみよっかな〜〜〜♪」
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