4話 しゃべるかたちたち
その星は、ちょっと変わっていた。
表面はごつごつしていて、光は強くなく、空気もまばらだった。
でも、ちらちらと動く“かたち”がそこにはあった。
「う〜〜ん……あれ、なんだろ? 前に見た粒子ともぜんぜん違う……」
少女は星の外縁に浮かびながら、ぐるぐるとその場所を旋回していた。
大気圏をゆるやかにすり抜けながら、彼女はその“かたち”に近づいた。
複数体。それぞれが異なる動きをしている。
走る。
飛ぶ。
声を出す。
「へぇ……“音”使ってる? あれ、もしかして“しゃべってる”ってやつ?」
少女は興奮を抑えきれず、ふわふわと宙返りしながら観察を続けた。
音の組み合わせにパターンがある。
同じ音を違うかたちがまねする。
反応が変わる。
「やば……これ、めっちゃ面白い……」
彼女にとってそれは、反応する粒子とはまるで異なる種類の現象だった。
なぜか彼らは、お互いに影響を与え合い、自らの行動を調整しているように見えた。
「“考えてる”……ように見える……?」
少女の中で、はじめて“感情”という概念がうっすらと姿を見せた。
もちろん、彼女自身にはそんなものはまだなかった。
でも、その存在たちは泣き、怒り、抱きしめ合い、逃げ、笑った。
「……これって、どういうルール?」
彼女は理解できなかった。
でも、それがたまらなく面白かった。
「記録しなきゃ。これは全部、調べる価値があるやつ」
彼女はそっと星の裏側にまわり、しばらくのあいだ、音と行動の対応関係をひたすら観察しつづけた。
やがて、ひとつの仮説が浮かぶ。
「“しゃべるかたちたち”は、自分たちの中で世界をつくってる……みたい?」
環境に応じて変わる存在ではなく、環境を変える存在。
少女の目が、きらりと光った。
「これ……めっちゃ、気になる!」
そう呟いて、彼女は宙を泳ぎながら笑った。
もっと見たい。
もっと知りたい。
もっと、観察したい。
次の観察対象を求めて、彼女は銀河の果てへとふらふら飛んでいった。
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