3話 宇宙は実験室
どこまで行っても終わらない空間。
それが、少女にとっての“宇宙”だった。
「うわ〜〜〜〜……ここ、広いね〜……ずっとこっち行っても、まだある……!」
無限のような空白に、星のようなもの、雲のようなもの、渦巻くもや。
形のあるような、ないようなものたちが、ゆっくり、あるいは激しく変化し続けていた。
少女は、それらを見ているだけで飽きなかった。
というより、飽きるという感覚すらなかった。
「これ、こっちにぶつけたらどうなるの?」
雲の塊に、熱を帯びた光の粒をそっと滑らせる。
ばちっ。
閃光が走り、雲は一瞬で割れ、周囲のもやを吸い込んで新しい渦を生み出した。
「うわ〜、おもしろい〜〜〜〜〜〜!」
爆発音も音楽に聞こえる。
粒子の飛散はまるで舞踏。
「これって……なんか、“反応”してる?」
少女は無重力のなかを泳ぎながら、ひとつひとつ確認するように光をばらまく。
冷たいもの、熱いもの、やわらかいもの、重たいもの。
そのすべてが、自分の行動によって“変わる”ことに、彼女は強い興味を覚えていた。
「ここって……ぜーんぶ、“実験”できる場所なのかも〜?」
彼女の目がきらりと光る。
好奇心の火花が、無限の空間に飛び散っていく。
■
それは、あまりにも巨大な遊び場だった。
でも、誰もいない。
話す声もない。
音楽も、意味も、心もない。
あるのは反応だけ。
刺激に対する変化。それが楽しかった。
けれど——
「……なんか、ぜーんぶ“同じ”に見えてきたかも?」
発光。
熱。
拡散。
重力のねじれ。
なんせ少女が誕生してから宇宙を彷徨って既に数十億年は経過している。普通の人間ならとうの昔に狂って死を選ぶ時間だ。何十億、何百億と観察した“変化”は、ある種のパターンとして少女の記憶に蓄積されていた。
それは彼女の知識になり、飽きにはならなかったが——
「ちょっとだけ、“ちがうもの”が見たいな〜〜」
彼女は宙返りしながら、星屑の帯のなかを滑り落ちた。
「しゃべるやつ、いないかな? 考えるやつ、感じるやつ、たとえば“あれをこれにしたい”って思って動くやつ〜〜!」
それはつまり、意識。
まだ彼女はその単語を知らない。
でも彼女の中で、「ただの反応」では満足できないという欲が芽生え始めていた。
■
そのとき。
遠く、空間のひとしずくが、奇妙に震えた。
そこには、何かがいた。
“変化する”のではなく、“選び取る”動き。
少女はくるりと向きを変えた。
「……お? なんか、ちょっと面白そうなやつ、みっけ♪」
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