24話 神託とスキルツリーと私の実験ノート
村の祈りは、日に日に細かくなっていった。
「ナミさま、どうか今日もこの手に火起こしの祝福を」
「ナミさま、水を運ぶときだけでいいので、腰に優しき風を」
「ナミさま、できれば、昨日の続きの剣さばきを……」
空の上。
ナミは雲を枕に、ごろごろと転がっていた。
「……うふふ〜〜、ねぇこれ、ちょっと“要求”が増えてきてない? 人間って欲張り〜〜!」
でも、それが嬉しかった。
誰かが何かを望み、それに向かって祈る。
祈ることで“意味”が生まれ、意味はやがて“仕組み”になる。
「そろそろ……仕組みとして整理しないと、わたしの観察記録がごちゃごちゃするよ〜〜!」
ナミは両手をぱちんと叩く。
宙に光の線がいくつも伸び、まるで樹の枝のような構造体が空中に浮かび上がる。
「名付けて、“スキルツリー”!」
火を操る者はその枝を伸ばし、やがて“燃焼の制御”へ。
水に親しむ者は“浄化”や“浮力操作”へ。
剣を振る者は“動体視力強化”や“軌道予測”へ。
「ね〜〜〜、こういうの、超ロマンあるよね〜〜!」
ナミはそのツリー構造を眺めながら、ちょこんと枝先に座った。
「でも、どうやって人間に伝える〜〜? さすがにこの構造そのまま見せたら、混乱するよね〜〜」
彼女はしばらく考え込んだ末、指を一本立てた。
「よし、“神託”っぽく小出しにしよ!」
■
その夜、焚き火の前で瞑想していた若者の夢に、光の階段が現れた。
「……炎を制する者、熱を奪い、形を変える」
意味不明な言葉の羅列。
でもそれを聞いた若者は、翌朝から火を“つかむ”練習を始めた。
そして数日後、本当に“熱を逃がす”技を身につけてしまった。
「神託だ……!」
「ナミさまが“導いて”いる……」
■
空の上。
ナミは記録ノートを広げて、観察記録を書き込んでいた。
《ケースNo.031:神託型誘導/夢経由/反応:高/学習:良好/感情指数:満足》
「ふふふふ、観察も、干渉も、どっちも楽しすぎる〜〜!」
ナミのノートには、びっしりと“人間観察”の記録が並んでいる。
名前、反応、祈りの内容、環境、感情の起伏、行動結果。
「……うーん、でも、まだ“揺さぶり”が足りないかな〜〜」
ナミは一つのスキルツリーを指で弾いた。
「次は、“戦い”に進化させる枝、試してみよっか?」
無邪気な笑顔とともに、新たな種が生み出された。
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