21話 洞窟にて、最初の冒険者が生まれる
その洞窟は、まるで最初から“待っていた”かのようだった。
入り口には自然に崩れた石が積まれていたが、少し掘るとすぐに奥へと続く空間が現れた。
光は届かない。
けれど、かすかに風が通っていた。
「ここに……神がいる」
青年——名をエルという——は、手に持ったたいまつを掲げ、仲間たちと洞窟の奥へと進んでいった。
ナミが撒いた“可能性の種”が、この地下空間に埋められていたことを、彼らは知るよしもない。
■
空の上。
ナミは、彼らの進行ルートを興味津々で追いかけていた。
「うわ〜〜〜、めっちゃドキドキしてる〜〜! すご〜〜い、やっぱり“知らない”って最高の刺激だよね〜〜!」
洞窟の壁には、微かに光る鉱石。
触れると手が暖かくなる石。
そして、誰かが描いたような古い絵。
「お〜〜、ちゃんと“謎解き感”出てる〜〜! いいぞ〜〜!」
ナミは手元に記録画面を浮かべ、彼らの行動を逐一記録していた。
■
エルたちは、奥の小部屋にたどり着いた。
そこには、一枚の石板があった。
意味のわからない記号が並んでいたが、彼らはそれを「神の言葉」として、火を灯し、手を合わせた。
すると、天井から砂のような粒子が降り、床に何かが現れた。
それは——
「これは……剣、か?」
刃の形をしていた。
けれど、それは“金属”ではなかった。
黒曜石のような透明感。
魔力のような熱を帯びた、不思議な刀身。
「神の、武具……」
人々は息を呑んだ。
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空。
ナミは爆笑していた。
「きゃ〜〜〜! 受け取った〜〜! ちゃんと“神の試練”って思ってる〜〜! わたし、ただ埋めただけなのに〜〜!」
でも、それが面白い。
受け取った意味を、彼ら自身が作っていく。
「これぞ“物語”って感じ〜〜〜♪」
■
その日を境に、エルは「最初の冒険者」と呼ばれるようになる。
洞窟は“神の試練”の場となり、剣は“加護の象徴”として語られ、
やがて——それがひとつの文化を生み出していくことになる。
もちろん、それすらもナミにとっては、ただの観察対象に過ぎなかった。
「次は……“報酬と危険のバランス”かな〜〜?」
彼女の気まぐれが、またひとつ、世界に物語を与えていく。
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