20話 やっぱりこの世界、刺激が足りない
「ねぇ、やっぱりさ〜〜……ちょっとマンネリ気味じゃない?」
ナミは雲の切れ間から村々を覗き込みながら、ぷかりと浮かんでいた。 空には星が淡く瞬き、地上には焚き火の光がちらちらと灯っている。
数日前に撒いた癒しの石は、もう“神の贈り物”として定着し、 泉の周囲は“聖域”となり、人々は定期的に祈りを捧げていた。
「反応としては合格なんだけどさ〜〜。なんかこう……もう一段階、ほしいよね〜〜」
ナミの指先に、光の粒が集まっていく。 それは言葉にならないエネルギーの波。
彼女は最近、それを“可能性の種”と呼んでいる。
「この“種”を植えると、なんか起こるかもしれない〜〜ってやつ。わたし的にはかなりお気に入り〜♪」
ナミはくるくると宙で回転しながら、その種を遠くの山岳地帯へ投げた。
「今日は“境界”を揺らしてみようかな〜〜。あっち、まだ未開のままだし〜〜」
■
山のふもと。
その日、ひとりの若者が夢を見た。 夢の中で、石の扉が開き、輝く階段が地下へと続いていた。
目覚めた彼は、なぜか確信していた。
「山の奥に、神が眠る扉がある……」
翌日、彼は仲間たちとともに山へ向かった。
道なき斜面を進み、岩をどかし、草を焼いて、ついに古びた洞窟の入り口を見つけた。
その洞窟の壁には、過去に使われた形跡のある道具や、何かの絵が刻まれていた。
「神の居場所だ……」
誰かがそう囁いた。
こうして、世界に“最初のダンジョン”が生まれた。
■
空からその様子を観察していたナミは、口元を緩めた。
「やっぱりね〜〜、ちょっと揺らすだけで、世界ってすぐ面白くなる〜〜!」
彼女は満足げに浮かびながら、記録にこう刻んだ。
《第一異常反応:神域の定義変化、および信仰的探索行動の発生》
「よしよし、いい流れ〜〜。これで“冒険”って概念も育つかな〜〜?」
ナミは両腕を大きく伸ばして宙を滑り、空に向かって足を蹴り出すようにひと回転した。
「ねえねえ、次はさ、“報酬”を仕込んでみよっかな〜〜?」
洞窟の奥に何を置くか。 それは、観察者のさじ加減。
“奇跡”か、“危機”か、“謎”か。
どんなものでも、彼女の好奇心を満たす材料になる。
「やっぱりこの世界、刺激が足りないって思ってたけど、まだまだ遊べそう〜〜♪」
ナミは笑った。
彼女の視線の先で、ひとつの文明が、またひとつ息を吹き返すように動き始めていた。
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