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15話 喋らない祈りのカタチ

「ねぇ、ちょっと最近、“反応”がワンパターンじゃない〜〜?」


雲の上から見下ろす村々。

いつもの祈り。

いつもの生活。

いつもの小さな“ありがとう”。


彼女は観察を楽しんでいた。

だが、刺激は足りない。

人間たちの行動は面白いけれど、最近は“もう見たやつ”ばかりが繰り返されている。


「うーん……じゃあさ、“ちょっとだけ”刺激いれてみる?」


ナミは手を掲げ、空気をゆがめた。

星のきらめきを少しだけ引き寄せ、小さな光の粒に変えて、そっと地上へ落とす。


それは、ある少年の枕元に届いた。



次の日、少年はこう語った。

「夢の中で“空から声が聞こえた”。『炎に言葉をかけよ』って」


その日、彼は火のそばで呟いた言葉によって、炎の色を変えた。


村はざわめいた。


「魔法だ」

「神のしるしだ」

「祝福を受けた子だ」


ナミは、雲の上で大笑いしていた。


「え〜〜〜!? たったそれだけで!? すぐ“神”とか“魔法”とか言い出すの!? チョロすぎ〜〜〜〜!」


でも、面白かった。

人間たちは“わからないこと”を信じる。

そしてそれを形にする。


「じゃあ、もっとあげる〜〜!」


ナミは次に、奇妙な種をいくつか落とした。

夜のあいだに育ち、朝には“手で握ると硬くなる”不思議な果実になっていた。


それはやがて、“武器の芯材”として使われるようになる。


別の村には、毒を中和する水の石を。

さらに別の場所には、“音に反応して光る苔”を。


ナミは、まるで実験装置を動かすように、少しずつ、確実に、人間たちの世界へ干渉を始めていた。



「喋らない祈り」も、今や構造が変わってきている。

ただ静かに手を合わせるだけだった行為が、何かを“起こすための術式”に変化しつつある。


「ね、ね、これ超おもしろい! “祈り”が“魔法”に進化してるじゃん!!」


ナミは宙を泳ぎながら笑った。

世界は、少しずつ彼女の刺激によって歪んでいく。

けれどそれは、誰にとっても悪いことではなかった。


信仰が生まれ、希望が芽生え、奇跡が連鎖する。


「やっぱり、“刺激”ってだいじ〜〜♪」


ナミは今日も、誰にも見えない手で、そっと世界に触れる。

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