15話 喋らない祈りのカタチ
「ねぇ、ちょっと最近、“反応”がワンパターンじゃない〜〜?」
雲の上から見下ろす村々。
いつもの祈り。
いつもの生活。
いつもの小さな“ありがとう”。
彼女は観察を楽しんでいた。
だが、刺激は足りない。
人間たちの行動は面白いけれど、最近は“もう見たやつ”ばかりが繰り返されている。
「うーん……じゃあさ、“ちょっとだけ”刺激いれてみる?」
ナミは手を掲げ、空気をゆがめた。
星のきらめきを少しだけ引き寄せ、小さな光の粒に変えて、そっと地上へ落とす。
それは、ある少年の枕元に届いた。
■
次の日、少年はこう語った。
「夢の中で“空から声が聞こえた”。『炎に言葉をかけよ』って」
その日、彼は火のそばで呟いた言葉によって、炎の色を変えた。
村はざわめいた。
「魔法だ」
「神のしるしだ」
「祝福を受けた子だ」
ナミは、雲の上で大笑いしていた。
「え〜〜〜!? たったそれだけで!? すぐ“神”とか“魔法”とか言い出すの!? チョロすぎ〜〜〜〜!」
でも、面白かった。
人間たちは“わからないこと”を信じる。
そしてそれを形にする。
「じゃあ、もっとあげる〜〜!」
ナミは次に、奇妙な種をいくつか落とした。
夜のあいだに育ち、朝には“手で握ると硬くなる”不思議な果実になっていた。
それはやがて、“武器の芯材”として使われるようになる。
別の村には、毒を中和する水の石を。
さらに別の場所には、“音に反応して光る苔”を。
ナミは、まるで実験装置を動かすように、少しずつ、確実に、人間たちの世界へ干渉を始めていた。
■
「喋らない祈り」も、今や構造が変わってきている。
ただ静かに手を合わせるだけだった行為が、何かを“起こすための術式”に変化しつつある。
「ね、ね、これ超おもしろい! “祈り”が“魔法”に進化してるじゃん!!」
ナミは宙を泳ぎながら笑った。
世界は、少しずつ彼女の刺激によって歪んでいく。
けれどそれは、誰にとっても悪いことではなかった。
信仰が生まれ、希望が芽生え、奇跡が連鎖する。
「やっぱり、“刺激”ってだいじ〜〜♪」
ナミは今日も、誰にも見えない手で、そっと世界に触れる。
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