10話 ほんとうの「贈りもの」ってなんだろう?
「“ありがとう”はわかったけど、じゃあ“贈る”ってなに?」
少女──ナミは、宇宙の静けさのなかでくるくると回りながらつぶやいた。
人間たちは、光を受け取って感謝した。
それを“贈りもの”だと呼んでいた。
「わたしがしたのは、ただの反応試験なんだけどね〜〜?」
石を落とす。
光をばらまく。
熱を加える。
反応を見る。
ただそれだけ。
意味も意図もない。
でも人間たちは、それを“与えられた”と解釈した。
「うーん……もし“贈りもの”ってのが、あっちの思い込みで成り立ってるなら、観察的には超おもしろいね!」
ナミは手のひらに小さな光を浮かべる。
「これを落としたら、また“ありがとう”されるかな? それとも、ちがう反応くる? えへへ、実験〜〜〜」
彼女は雲を抜けて、地表の村に向かって降下した。
■
その夜、小さな子どもがひとり、家の裏で泣いていた。
誰にも気づかれず、しゃがみ込んで声を押し殺している。
ナミはその様子をじっと見ていた。
「これは……“悲しい”ってやつかな? 水が出るのはいつもセットっぽい」
しばらく観察を続けていたが、何も変化がない。
子どもはただ、泣いていた。
「じゃあ、これを落としてみたら……?」
ナミは静かに、ほんのり温かい光の粒を子どもの頭上に落とした。
それは風に乗って、ふわりと降り、まるで光る羽のように子どもの膝元に落ちた。
「……?」
子どもは顔を上げた。
涙の跡が残るまま、ゆっくりと手を伸ばす。
指が光に触れた瞬間、光は小さな音をたてて消えた。
子どもは、ぽつりと呟いた。
「……ありがとう」
ナミは空で目をぱちくりさせた。
「また出た。ありがとう。今度は“なにも求めずに”?」
今回は、贈ったつもりはない。
どちらかといえば“試した”だけだった。
でも人間は、そこに“気持ち”を見出して感謝した。
「……贈りものって、わたしが“あげる”って思ってるかどうか関係ないんだ」
彼女は空中で一回転する。
「“受け取った”と感じたら、それが贈りもの……? え、なにそれ、定義ガバガバ〜〜! でも……おもしろ〜い!」
贈与という概念。
ナミの中では、まだぼんやりとしていたが、構造だけはうっすらと輪郭を持ちはじめていた。
“意図のない好意”が、誰かの感情を動かす。
“ただの現象”が、誰かに意味づけされる。
「贈りものって、もしかして、わたしがどうこうじゃなくて、あっちの中で勝手に生まれてるやつなのかも〜?」
それは、あまりにも観察しがいのある概念だった。
「もっと試したい。もっと観たい。人間って、ほんと不思議!」
そう言ってナミは、またひとつ、光を作り出して空に浮かべた。
今日もまた、“観察”の時間がはじまる。
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