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10話 ほんとうの「贈りもの」ってなんだろう?

「“ありがとう”はわかったけど、じゃあ“贈る”ってなに?」


少女──ナミは、宇宙の静けさのなかでくるくると回りながらつぶやいた。


人間たちは、光を受け取って感謝した。

それを“贈りもの”だと呼んでいた。


「わたしがしたのは、ただの反応試験なんだけどね〜〜?」


石を落とす。

光をばらまく。

熱を加える。

反応を見る。


ただそれだけ。

意味も意図もない。

でも人間たちは、それを“与えられた”と解釈した。


「うーん……もし“贈りもの”ってのが、あっちの思い込みで成り立ってるなら、観察的には超おもしろいね!」


ナミは手のひらに小さな光を浮かべる。


「これを落としたら、また“ありがとう”されるかな? それとも、ちがう反応くる? えへへ、実験〜〜〜」


彼女は雲を抜けて、地表の村に向かって降下した。



その夜、小さな子どもがひとり、家の裏で泣いていた。

誰にも気づかれず、しゃがみ込んで声を押し殺している。


ナミはその様子をじっと見ていた。


「これは……“悲しい”ってやつかな? 水が出るのはいつもセットっぽい」


しばらく観察を続けていたが、何も変化がない。

子どもはただ、泣いていた。


「じゃあ、これを落としてみたら……?」


ナミは静かに、ほんのり温かい光の粒を子どもの頭上に落とした。

それは風に乗って、ふわりと降り、まるで光る羽のように子どもの膝元に落ちた。


「……?」


子どもは顔を上げた。

涙の跡が残るまま、ゆっくりと手を伸ばす。

指が光に触れた瞬間、光は小さな音をたてて消えた。


子どもは、ぽつりと呟いた。


「……ありがとう」


ナミは空で目をぱちくりさせた。


「また出た。ありがとう。今度は“なにも求めずに”?」


今回は、贈ったつもりはない。

どちらかといえば“試した”だけだった。

でも人間は、そこに“気持ち”を見出して感謝した。


「……贈りものって、わたしが“あげる”って思ってるかどうか関係ないんだ」


彼女は空中で一回転する。


「“受け取った”と感じたら、それが贈りもの……? え、なにそれ、定義ガバガバ〜〜! でも……おもしろ〜い!」


贈与という概念。

ナミの中では、まだぼんやりとしていたが、構造だけはうっすらと輪郭を持ちはじめていた。


“意図のない好意”が、誰かの感情を動かす。

“ただの現象”が、誰かに意味づけされる。


「贈りものって、もしかして、わたしがどうこうじゃなくて、あっちの中で勝手に生まれてるやつなのかも〜?」


それは、あまりにも観察しがいのある概念だった。


「もっと試したい。もっと観たい。人間って、ほんと不思議!」


そう言ってナミは、またひとつ、光を作り出して空に浮かべた。

今日もまた、“観察”の時間がはじまる。

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