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ゼロから始める武道生活  作者: 十月新番
黒龍会の誘拐編
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第98章 招待

深川の件を片付けた後、周天明は日常生活に戻った。


深川が死んで三日目、南条家に匿名の荷物が届いた。中には五十万円の現金と一枚のメモが入っていた。「深川の補償金」と。


これは龍崎真一が周天明の指示通りに送ったものだ。


周天明が以前南条家に渡した援助と合わせて、彼女たちの借金問題は一時的に緩和された。


家の立ち退き問題はまだ完全には解決していないが、少なくとも目の前の危機は去った。


南条の母親の医療費にも目処がつき、春菜も食事の心配をしなくて済むようになった。


翌日の午前三時限目は数学の授業だった。周天明は教室の隅の席に座り、黒板の公式を眺めながら、ようやく少し気が楽になった。


「どうした、周? 今日は機嫌が良さそうだな」


隣に座っている秋川が小声で言った。


秋川は普通の男子生徒で、成績も中の上、容姿も中の上、存在感も中の上。入学以来ずっと近くの席で、関係は悪くない。


「ああ、最近の面倒事が片付いた」と周天明は言った。


「南条さんのこと?」秋川が興味深そうに訊いた。「最近だいぶ楽になったみたいだな。顔色も良くなってる」


周天明は答えず、ただ頷いた。


「お前って本当にいい奴だな」秋川が小声で言った。「友達のためにそこまでできるなんて」


「当然のことをしただけだ」と周天明は言った。


実は心の中では別のことを考えていた。


南条家の危機は一時的に解決したが、周天明自身の修行にも資金が必要だ。


鉄砂掌の薬酒、修行用の器材、そして日常的な栄養補給。これらすべてに金がかかる。


しかも、もう極道とは関わりたくない。


前回の龍崎真一との協力は目的を達成したが、あの世界の残酷さも見えてしまった。


「(安定した収入源を見つけないと...)」


「(できれば合法的で、修行を続けられるものが...)」


そう考えていると、先生が突然周天明の名前を呼んだ。


「周天明君、この問題に答えてください」


顔を上げると、黒板には三角関数の問題が書かれていた。


今日はちゃんと授業を聞いていた。


「sinθは五分の三です」と周天明は答えた。


先生は頷いた。「正解。座ってください。周君は最近進歩していますね。この調子で頑張ってください」


周天明は席に座った。


秋川が小声で言った。


「周、今日は調子いいな」


「気分がいいときは、頭も冴える」と周天明は言った。


チャイムが鳴った。


先生は荷物をまとめて教室を出て行った。


生徒たちがざわざわと話し始め、教室が賑やかになった。


周天明は立ち上がり、廊下で一息つこうとした。


その時、教室の前の方から爽やかな声が聞こえてきた。


「周くん、ちょっと時間いいかな?」


振り返った。


声の主は早川翔太だった。


彼はクラスメイトで、教室の前列の窓際に座っている。典型的な「爽やか系」の生徒だ――身長は百八十センチくらい、整った顔立ちで、笑うと真っ白な歯が見える。髪は綺麗に整えられ、制服もきちんと着こなしている。


成績も良く、運動も得意で、誰に対しても友好的。クラスで最も人気のある男子の一人だ。


彼の周りにはいつも何人かの友達がいて、小さなグループを形成している。クラスでは密かに「早川組」と呼ばれている。


周天明と早川はそれほど親しくない。普段はほとんど接点がない。


「何の用だ?」と周天明は訊いた。


早川が近づいてきた。後ろには二人の男子生徒がついてきた。早川のグループのメンバーらしい。一人は眼鏡をかけて真面目そうな顔つき、もう一人はがっしりした体格で運動部っぽい。


「実はね」早川はあの爽やかな笑顔を保ったまま言った。「先月、体力測定があっただろ?」


「ああ」


「周天明、体育委員会のメンバーで、測定データの整理を手伝ったんだ」早川が言った。「それで、お前の握力と背筋力の数値に気づいたんだよ」


「ん?」


「握力68キロ、背筋力195キロ」早川の目が輝いた。「この数値は一年生の中でもトップクラスだ」


秋川が横から小声で言った。


「そんなに高いのか? 周天明なんて握力42、背筋力110だぞ...」


早川が頷いた。


「一般的な高校一年生男子の平均握力は45キロくらい、背筋力は120キロくらいだ。周くんの数値は平均を大きく上回ってる。体育特待生にも匹敵するレベルだよ」


「それで?」と周天明は訊いた。


「だから、お前を誘いたいんだ」早川が言った。「周天明たちのトレーニンググループに参加してほしい」


「トレーニンググループ?」


「そう」早川が言った。「学校の近くにある『鉄人ジム』ってジムで、周天明たちトレーニングチームを作ってるんだ。学校の中で体力がある生徒たちが集まって、一緒にトレーニングしたり、お互いに切磋琢磨したり。みんなで頑張れば、上達も早いんだ」


周天明は早川を見た。


彼の笑顔は相変わらず爽やかだが、目には熱意が宿っていた。


「ジムには興味ない」と周天明は言った。


「断るのは早い」早川が言った。「最後まで聞いてくれよ。鉄人ジムは普通のジムじゃないんだ。完璧なウェイトトレーニング設備があるだけじゃなく、専門の格闘技トレーニングエリアもある。元プロボクサーがコーチをしてるんだ」


彼は少し間を置いて続けた。


「それに、ジムでは毎月アマチュア格闘技大会を開催してる。優勝者には賞金が出るんだ」


「賞金?」周天明の耳がピクッと動いた。


「そう!」早川は周天明が興味を示したのを見て、すぐに言った。「アマチュア部門の一等賞は三十万円、二等賞は十五万、三等賞は五万。入賞しなくても、ベスト8に入れば参加賞金がもらえる。一回三万円だ」


「三十万...」


周天明の頭が高速回転し始めた。


南条家の問題は一時的に解決したが、周天明自身も金が必要だ。


鉄砂掌の修行に使う薬材は安くない。毎月最低でも十万円はかかる。


もし試合で稼げるなら、実戦能力も鍛えられるし、収入も得られる。一石二鳥だ。


早川は周天明が考えているのを見て、続けた。


「それに月例試合だけじゃない。四半期ごとに招待試合もあって、他の地域の強者も参加する。賞金はもっと高いんだ。前回のクオーター大会の優勝者は八十万円もらってたぞ!」


「八十万...」


「そうだよ」早川が言った。「周くんの体力なら、ちゃんと訓練すれば賞金を取るのは難しくないはずだ。周天明たちのチームにも毎月賞金を獲得してる奴がいて、大体十数万から二十万は稼いでるよ」


周天明は早川を見た。


彼の笑顔は相変わらず爽やかだ。


しかし、彼の言葉の中に何か引っかかるものを感じた。


「なぜ周天明を誘うんだ?」と周天明は訊いた。「お前と周天明、それほど親しくないだろ」


早川は一瞬固まったが、すぐに笑った。


「強い奴に興味があるからさ」と彼は言った。「周くんみたいに体力が優れている人は、学校でも珍しい。それに...」


彼は声を落とした。


「お前が前に不良グループとトラブルになって、しかも勝ったって聞いたんだ」


周天明は眉をひそめた。


「(この情報、どうやって漏れたんだ...神代咲か南条が口を滑らせたか...)」


早川は周天明の表情を見て言った。


「緊張するなよ。小さな範囲での噂だけだ。でも、それで周天明は確信したんだ。周くん、お前には大きな潜在能力がある。だから、わざわざ誘いに来たんだよ」


周天明は黙っていた。


早川が言った。


「周くん、周天明たちのグループがちょっと...何て言うか、部活動みたいだって思ってるかもしれないけど」


彼は自嘲気味に笑った。


「でも実際は、鍛錬と格闘技が好きな奴らが集まってるだけなんだ。参加してくれれば、変なルールは一切ないって保証する。みんな平等で、一緒にトレーニングして、お互いに助け合うだけだ」


彼は少し間を置いた。


「それに正直に言うと、ジム側も新しい血が欲しいと思ってる。お前が良い成績を残せば、みんなにとってもメリットがあるんだ」


「みんなにとってもメリット?」


「ああ」早川が言った。「ジムはチームメンバー全体のパフォーマンスに応じて、チームに追加のトレーニングリソースを提供してくれるんだ。無料のパーソナルトレーニングとか、特殊なトレーニング機器の優先使用とか。だから、周天明たちは実力のある新メンバーを見つけたいんだよ」


周天明は考えた。


もし本当に試合で賞金を稼げるなら...


周天明の修行に大きく役立つだろう。


しかも、これは合法的な収入だ。もう極道と関わる必要はない。


「考えさせてもらえるか?」と周天明は言った。


「もちろん」早川が言った。「ただ、来月の十五日に試合があるんだ。参加したいなら、早めに決めてほしい。申込締切は今週の土曜日だ」


彼はポケットから名刺を取り出し、周天明に渡した。


「これが周天明の連絡先と、ジムの住所だ。決めたら、いつでも連絡してくれ。見学に連れて行くよ。無料で一回トレーニングを体験できるから」


周天明は名刺を受け取った。


名刺には以下のように書かれていた。


早川翔太

鉄人ジム 会員

電話:090-XXXX-XXXX

ジム住所:新宿区XX町X-X-X


「わかった」と周天明は言った。「考えてみる」


「よかった!」早川はあのトレードマークの爽やかな笑顔を浮かべた。「いい返事を期待してるよ! そうだ、見学に来るなら、週末がいい。その時は周天明たちチームのメンバーがみんないるからさ」


彼は身を翻して去って行き、二人の仲間も後に続いた。


秋川がすぐに近づいてきて、声を落として言った。


「周、本当に行くのか?」


「どうした?」と周天明は訊いた。


「あのジムのこと...」秋川が少し躊躇した。「聞いたことがあるんだ」


「何を聞いた?」


「えっと」秋川が言った。「クラスで**ボクシング**をやってる山田から聞いたんだけど、あそこの試合はアマチュアレベルって言っても、実際はかなり激しいらしい。怪我することもあるって」


彼は少し間を置いた。


「それに、早川のグループは表面上は和やかだけど、実際は内部で実力主義が徹底してるらしい。実力が足りないと、疎外されるって」


「そうか」と周天明は言った。


周天明は手の中の名刺を見下ろした。


鉄人ジム。

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