第67章 気血値
検査室内。
登録、列に並ぶ、測定、流れは簡単そうだが、天明の今の心境は複雑極まりない。
列の真ん中に立ち、前には七、八人の同級生がいて、検査を終えた一人一人が喜びや憂いの表情を浮かべている。
秋川章太郎の番になると、機器は108ポイントを表示し、彼が以前自分で測った結果と一致した。秋川は少し失望したようにため息をついたが、予想通りではあった。
山本健太は115ポイントで、得意げに眼鏡を押し上げ、周囲の同級生を一瞥した。
早川翔は123ポイントで、周囲の白衣の職員たちに賛賞の眼差しを向けられた。
「いいですね、東京武道学校は確実ですよ」
記録担当の職員が笑顔で言った。
天明は列に並びながら、無意識のうちに廊下の向かい側にある2年A組の検査室に目を向けた。
開け放たれたドアから、あの見覚えのある姿が見えた。
金色の長い髪が滝のように垂れ下がり、すらりとした体つき、精緻な顔立ち。
南条秋奈。
今、彼女は手を感応板の上に置き、機器が軽い唸り声を上げている。
数秒後——
「南条秋奈さん、気血値......78ポイント」
向こうから記録係の声が聞こえてきた。
天明は一瞬固まった。
78ポイント?
低い。
あまりにも低い。
女子の平均値が85ポイント前後だと聞いている。78ポイントは平均以下だ。
しかも——
天明はあの夜のことを思い出した。
南条が見せた、あの力。
あれが78ポイントの人間に出せるものか?
絶対にありえない。
検査担当の医師が眉をひそめた。「南条さん、気血値が少し低いですね。最近体調が悪いんですか?」
南条は困ったように微笑んだ。
「えっと......最近、夜更かしが多くて......期末試験の勉強で......」
彼女の声は弱々しく、まるで本当に体調が悪そうだった。
「そうですか」医師は頷いた。「若い人の夜更かしは気血レベルに影響しますからね。よく休んで、栄養を取ってください」
「はい、気をつけます......ありがとうございます」
南条は丁寧にお辞儀をして、検査エリアを出た。
その足取りは少しふらついていた。
まるで本当に貧血気味のように。
天明は目を細めた。
(演技か......?)
(いや、演技だとしても上手すぎる)
(78ポイント......どうやって数値を誤魔化したんだ?)
彼女の本当の実力は、間違いなく100ポイントを超えている。
いや、もしかしたら——
天明は考えを中断した。
今は自分の心配をするべきだ。
☆
「次、周天明くん!」
天明は深呼吸して前に進んだ。
検査室内、大型気血測定器が中央に置かれている。銀白色の金属外装に、様々な表示灯とディスプレイが並んでいた。
「手を感応板の上に置いてください。リラックスして」
検査担当の森田教授が言った。
天明は言われた通りに、冷たい感応板に手のひらを当てた。
機器が作動し始め、様々な表示灯が点滅する。
微弱な電流が手のひらを這い回る感覚。
くすぐったい。
そして不気味だ。
(俺の13200の精神力は、何ポイントに換算されるんだ?)
(1対100だとしたら132ポイント......いや、そんな都合よく——)
十数秒後——
「ん?」
森田教授が眉をひそめた。
天明の心臓が跳ねた。
「データの波動が大きいですね......もう一度」
二回目の検査。
機器の唸り声が大きくなる。
電流の感覚が強まり、手のひらから腕まで伝わってきた。
周囲の職員たちが集まってきた。
「どうしました?」
「数値に問題が?」
三回目の検査は二分近く続いた。
天明の額に汗が滲み始めた。
(やばい......絶対にやばい数値が出る......!)
ついに、機器が停止した。
森田教授は画面をしばらく見つめてから、顔を上げた。
「数値記録は......132ポイント」
一瞬の沈黙。
そして——
「132?!」
「早川より高い?!」
「嘘だろ?!」
廊下全体が爆発した。
B組の同級生だけでなく、向かいのA組の生徒たちも顔を出して見ている。
森田教授は続けた。「ただし波動範囲が大きい。最高ピーク値138ポイント、最低谷値126ポイント。コントロール力は......評価C」
彼は天明を見た。「周くん、最近何か特別なことがありましたか?この波動幅は、通常体質が覚醒したばかりの人に現れます」
天明は慌てて首を横に振った。「いや、何も......最近よく眠れてるくらいで」
「よく眠れてる?」森田教授は考え込んだ。「君の気血値は高いですが、コントロール力が不足しています。瞑想訓練を多めに行って、気血の波動を安定させてください」
彼は名刺を渡した。
「君のような才能は、無駄にすべきではありません。何か問題があれば、いつでも連絡を」
天明は名刺を受け取り、急いで検査室を出た。
廊下では、同級生たちが怪物を見るような目で彼を見つめていた。
「132ポイント......」秋川がつぶやいた。「周、お前隠してたな」
山本健太は無言で眼鏡を押し上げた。顔色が悪い。
早川は天明の肩を叩いた。「すごいな!お前がこんなに強いとは思わなかった」
その時——
「周くーーーん!!」
廊下の向こうから、元気な声が響いた。
バタバタバタバタ——
全力疾走の足音。
天明が振り返ると——
黒髪の少女が廊下を突っ走ってきた。
ショートカットの髪が乱れ、制服のリボンが解けかけている。
神代咲だ。
「待って待って待ってーー!」
彼女は天明の前で急ブレーキをかけた。
しかし勢いが止まらず——
ドンッ!
天明にぶつかった。
「うわっ!」
天明は後ろによろめいた。
神代咲は天明の制服を掴んでバランスを取り、息を切らしながら顔を上げた。
「はぁ、はぁ......間に合った......!」
「間に合ったって何が......」
「周くんの結果!」
神代咲の目がキラキラ輝いていた。
「何ポイントだった?!ねえねえ、何ポイント?!」
「え、あ......132ポイント......」
「ひゃくさんじゅうに?!」
神代咲の目が見開かれた。
そして——
「すっっっごーーーい!!」
彼女は両手を上げて飛び跳ねた。
周囲の生徒たちが振り返る。
「私より12ポイントも高い!周くんすごい!天才!」
「いや、そんな大げさな......」
「大げさじゃないよ!」
神代咲は興奮して天明の両手を掴んだ。
「ねえねえ、どうやって鍛えたの?!何食べたの?!秘訣教えて!」
「いや、別に何も......」
「嘘!絶対何かあるでしょ!」
神代咲は頬を膨らませた。
「私なんて毎日素振り千回してるのに120ポイントなのに!周くんずるい!」
「ずるいって言われても......」
「あ!」
神代咲が突然何かを思いついた顔をした。
「もしかして周くん、毎日お肉いっぱい食べてる?!」
「は?」
「お肉!タンパク質!筋肉の素!」
彼女は真剣な顔で言った。
「私、お肉大好きなんだけど、お小遣いが足りなくて毎日は食べられないの。もしかしてそれが原因?!」
天明は言葉を失った。
気血値とタンパク質に何の関係が......。
「神代先輩、それは多分関係ないと思いますよ......」
後ろから秋川が苦笑いしながら言った。
「えー、そうなの?」
神代咲は心底残念そうな顔をした。
「じゃあ何が違うんだろ......あ、分かった!」
彼女はまた目を輝かせた。
「睡眠時間だ!周くん、毎日何時間寝てる?!」
「えっと......六時間くらい?」
「六時間?!」
神代咲は愕然とした。
「私、毎日八時間寝てるのに!」
「いや、それは多い方がいいんじゃ......」
「違う!きっと寝すぎなんだ!」
神代咲は拳を握りしめた。
「よし、今日から睡眠時間を減らす!」
「いやいやいや、それは絶対違う」
天明は慌てて止めた。
「成長期に睡眠削ったら体に悪いぞ」
「でも周くんは六時間で132ポイントなんでしょ?」
「それとこれとは——」
「決めた!」
神代咲は聞いていなかった。
「今日から毎日五時間睡眠!」
「だから違うって!」
周囲の生徒たちが笑い始めた。
「神代先輩、面白すぎる」
「天然だなぁ」
「でも可愛い」
神代咲は周りの声が聞こえていないようで、まだ何か考え込んでいた。
「あと何が違うんだろ......あ!」
また何か思いついたらしい。
天明は嫌な予感がした。
「周くん、もしかして——」
「待て、何を言おうとしてる」
「毎日牛乳飲んでる?!」
「......牛乳?」
「牛乳!カルシウム!骨の素!」
神代咲は力説した。
「骨が強いと気血値も上がるんじゃない?!」
「いや、それも多分関係ない......」
「えー、じゃあ何なの!」
神代咲は本気で悔しそうだった。
「周くん、ちゃんと教えてよ!私も強くなりたいの!」
その必死な様子に、天明は少し心が痛んだ。
彼女は本気で強くなりたいと思っている。
剣道部を全国大会に連れて行くために。
「......神代」
「なに?」
「コントロール力Aなんだろ?」
「うん!」
神代咲は胸を張った。
「それ、すごいことだぞ」
「え?」
「俺は132ポイントあってもコントロール力Cだ。数値が高くても制御できなきゃ意味がない」
天明は真剣に言った。
「お前は120ポイントでコントロール力A。それは才能だ。自分の気血を完全に制御できるってことだからな」
神代咲は目を丸くした。
「そ、そうなの......?」
「ああ。だからお前は自信持っていい」
「......」
神代咲の顔が少し赤くなった。
「べ、別に周くんに褒められたくて言ったんじゃないし......」
「分かってる」
「本当に分かってる?」
「分かってるって」
神代咲はしばらく天明を見つめていたが、やがてぷいっと顔を背けた。
「ふん、まあいいけど」
しかしその耳は真っ赤だった。
周囲の生徒たちが「にやにや」と笑っている。
天明はため息をついた。
この女、本当に分かりやすい。
その時——
ふと、視線を感じた。
天明は廊下の向こうを見た。
南条秋奈が壁に寄りかかって立っていた。
顔色が青白い。
足元が少しふらついている。
まるで本当に体調が悪そうだ。
彼女の琥珀色の瞳が、こちらを見ていた。
その目には——
何か複雑な感情が浮かんでいた。
天明は眉をひそめた。
78ポイント。
あの南条秋奈が、78ポイント。
絶対にありえない。
彼女は何かを隠している。
そしてその「何か」は——
天明が思っている以上に、深刻なものかもしれない。
南条は天明の視線に気づくと、ふっと微笑んだ。
いつもの穏やかな笑顔だ。
しかしその笑顔の奥に、何かが隠れている気がした。
天明は心の中でメモした。
南条秋奈。
要注意人物。
そして——
彼女の本当の気血値は、一体何ポイントなのか。
《現在の状態:功徳750 / 精神13,200 / 財産730,000円(現金) / 借金1,900,000円+医療費300,000円》
【梵天塔】
【現在の階層:第1層】
【新たな危機:異常な気血値の説明方法】
【要注意人物:南条秋奈(実力隠蔽の疑い)】
【世界情勢:九州世界との境界が薄くなっている、覚醒者の数が急増中】




