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ゼロから始める武道生活  作者: 十月新番
黒龍会の誘拐編
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第66章 健康診断



三人は校舎の入り口で足を止めた。


「じゃあ、私はこっちだから」


神代咲が言った。


彼女のクラスは二年A組で、天明の二年B組とは別の廊下だ。


「ああ」


天明は頷いた。


神代咲は何か言いたそうに口を開きかけたが、結局何も言わずに踵を返した。


しかし数歩歩いたところで、また振り返った。


「周くん」


「ん?」


「……昨日は、ありがとう」


それだけ言って、神代咲は足早に去っていった。


その耳が赤くなっているのを、天明は見逃さなかった。


「神代さん、素直じゃないね」


南条がくすくす笑った。


「そうか?」


「うん。でも気持ちは分かるな」


南条は天明を見上げた。


「命を救われたら、どうお礼を言っていいか分からないもの」


「大げさだな。俺は別に――」


「大げさじゃないよ」


南条の表情が真剣になった。


「周くん、あなたは自分が思ってるより、ずっとすごいことをしたの」


「……そうか」


天明は曖昧に答えた。


南条はまた微笑んだ。


「じゃあ、お昼に屋上でね。忘れないで」


「ああ」


「絶対だよ?」


「分かった分かった」


南条は満足そうに頷いて、自分のクラスへ向かった。


天明はその後ろ姿を見送った。


金髪が廊下の光を受けて輝いている。


スカートが歩くたびに揺れ、すらりとした脚が見え隠れする。


そして何より――


歩くたびに揺れる、豊かな胸。


さっきの柔らかい感触が、まだ手に残っている気がした。


「…………」


天明は頭を振って、自分の教室へ向かった。


煩悩を払え。俺は元少林寺の僧侶だぞ。



二年B組の教室に入ると、すでに何人かのクラスメートが集まって話していた。


「聞いたか?隣のクラスの奴が異能に目覚めたらしいぞ」


「マジで?どんな能力?」


「火を出せるとか」


「すげえ!俺も目覚めたいなぁ」


「お前が目覚めても、どうせしょぼい能力だろ」


「うるせえ!」


クラスメートたちが笑い合っている。


天明は静かに自分の席に向かった。


「幼稚だな」


冷たい声が聞こえた。


前の席の山本健太が振り返り、眼鏡を押し上げた。


「異能覚醒なんて、全部幻想に過ぎない。ちゃんと勉強するのが王道だ」


山本は学年一位の秀才だ。


成績は確かにいいが、性格は最悪だった。


「お前ら、毎日非現実的な夢ばかり見て、卒業したら現実がどれだけ厳しいか分かるぞ」


教室が一瞬静まり返った。


「山本、朝から説教かよ」


窓際の席から声がした。


早川翔だ。


整った顔立ちに、爽やかな笑顔。


クラスの人気者で、女子からの人気も高い。


「みんなただ雑談してるだけだろ。そう目くじら立てるなよ」


「ふん、勝手にしろ」


山本は鼻を鳴らした。


「どうせ後悔するのは俺じゃない」


天明は自分の席に座った。


隣には秋川章太郎がいた。


眼鏡をかけた真面目そうな生徒で、いつも静かに本を読んでいる。


「おはよう、周」


秋川が小声で言った。


「ああ、おはよう」


「昨日は大変だったな。ニュースで見たぞ」


「……まあな」


天明は曖昧に答えた。


昨日の倉庫での事件は、すでにニュースになっていた。


ただし「高校生が極道を撃退」という部分は報道されておらず、単に「警察が極道のアジトを摘発」という内容だった。


神代武臣の配慮だろう。


「み、みんな、静かに……」


教壇の近くから、か細い声が聞こえた。


クラス委員長の東小路望月だった。


長い黒髪を二つに結んだ、小柄な女子生徒。


真面目で責任感が強いが、極度の恥ずかしがり屋だ。


「せ、先生が来るまで、席について……」


しかし彼女の声は小さすぎて、誰も聞いていなかった。


教室は相変わらず騒がしい。


「あの……み、みんな……」


東小路の顔がどんどん赤くなっていく。


目には涙が浮かびそうだった。


「おい、静かにしろよ」


早川が立ち上がって言った。


「東小路さんが困ってるだろ」


その一言で、教室が静かになった。


「あ、ありがとう、早川くん……」


東小路が俯きながら言った。


顔は真っ赤だ。


やっぱり早川はいい奴だな、と天明は思った。


クラスの空気を読める。


人望があるのも納得だ。


「なあ周」


秋川が小声で聞いてきた。


「お前の気血値、どれくらい?」


「え?」


天明は答えに詰まった。


気血値。


この世界では、人間の潜在能力を数値化したものらしい。


高ければ高いほど、修行者としての素質がある。


問題は――


天明は自分の気血値を知らない。


梵天塔のステータスには「精神:13,200」と表示されているが、これが気血値とどう関係するのか、全く分からなかった。


「周は検査してないんだろ」


隣のクラスメートが口を挟んだ。


「この細い体格を見ろよ。絶対低いって」


「確かに」


秋川も納得したように頷いた。


天明は内心ほっとした。


細い体格で助かった。


「うちのクラスで一番高いのは誰だ?」


天明は話題を逸らすために聞いた。


「俺だな」


早川が振り返って言った。


「前回の測定で、123ポイントだった」


「123!?」


クラスメートたちがどよめいた。


「すげえ!」


「全校でもトップレベルじゃないか?」


早川は謙虚に笑った。


「いや、他の学校には125以上の奴もいるらしい。俺なんてまだまだだよ」


「それでも東京武道学校は余裕だろ」


「どうかな。毎年基準が上がってるからな」


山本が眼鏡を押し上げて言った。


「去年は112ポイントで合格できたが、今年は115以上必要だろう。それに気血値だけじゃ決まらない。他の受験者次第だ」


相変わらず嫌味な言い方だが、内容は正しかった。


天明は黙って聞いていた。


123ポイントが高校生の最高レベル。


もし自分の気血値がそれを大幅に超えていたら……


間違いなく目立つ。


下手をすれば、政府の特殊機関に目をつけられるかもしれない。


厄介なことになりそうだ。



午前中の国語の試験が終わった時、担任が突然発表した。


「午後の試験は延期だ。代わりに全校健康診断を行う」


教室がざわついた。


「健康診断?」


「急すぎないか?」


「しかも無料らしいぞ」


天明の表情が固まった。


健康診断。


まさか――


「気血値の測定も含まれる」


担任が付け加えた。


やっぱりか。


天明は内心で舌打ちした。


これは偶然じゃない。


数日前、生徒が異能に目覚めて担任を殴った事件があった。


政府が動き出したのだ。


異能者を見つけ出すために。


天明はちらりと窓の外を見た。


隣のクラスの廊下に、南条の姿が見えた。


彼女も困った表情をしている。


そりゃそうだ。


南条も修行者だから、同じ悩みを抱えているはずだ。


少し安心した。


いや、安心してる場合じゃない。



午後、全校生徒が校庭に集められた。


白衣の集団が待ち構えていた。


しかし様子がおかしい。


普通の医療スタッフじゃない。


ほぼ全員が男性で、体格がいい。


目つきも鋭い。


どう見ても――


政府の特殊部隊だ。


天明は確信した。


異能者を見つけ出すための、組織的な行動。


名簿に従って、一人ずつ呼ばれていく。


逃げ場はない。


天明は周りを見回した。


トイレに行くふりをして逃げるか?


いや、それは怪しまれる。


何か別の方法を――


「周天明」


名前を呼ばれた。


「は、はい」


「こっちに来て。気血値を測定する」


天明は仕方なく前に出た。


測定器の前に立つ。


手のひらサイズの金属板があった。


「手を置いて」


白衣の男が言った。


天明は深呼吸した。


もうどうにでもなれ。


手を金属板に置いた。


数秒後――


ピッ。


測定器が音を立てた。


白衣の男が画面を見た。


そして――


固まった。


「…………」


「あの、どうかしましたか?」


天明が聞いた。


白衣の男は答えず、別の男を呼んだ。


二人で画面を覗き込む。


そして顔を見合わせた。


「おい、これ……」


「ああ、間違いない」


「だが、こんな数値は……」


二人の表情が険しくなった。


天明の心臓が跳ねた。


やばい。


絶対にやばい数値が出た。


「あの、俺の気血値は……」


「君、ちょっと来てくれ」


白衣の男が天明の腕を掴んだ。


「別の場所で、もう一度測定する」


「え、ちょっと待って――」


「いいから来い」


天明は引っ張られるように、校舎の奥へ連れて行かれた。


周りのクラスメートたちが、不思議そうに見ている。


「周、どうしたんだ?」


秋川の声が聞こえた。


天明は答える余裕がなかった。


連れて行かれた先は、保健室だった。


しかし普段の保健室とは様子が違う。


中には大型の測定器が設置されており、数人の白衣の男たちが待ち構えていた。


「彼だ」


天明を連れてきた男が言った。


「校庭の測定器で、異常値が出た」


「異常値?」


「ああ。おそらく……機器の故障だと思うが」


「とにかく、もう一度測定しよう」


天明は大型測定器の前に立たされた。


今度は手だけでなく、全身を測定するようだ。


「動くな」


白衣の男が言った。


測定器が起動した。


青い光が天明の全身を走査する。


数秒後――


ピピピピピ!


激しい警告音が鳴り響いた。


白衣の男たちが一斉に画面を見た。


そして――


全員が固まった。


「…………」


「…………」


「…………」


誰も口を開かない。


天明は嫌な予感がした。


「あの、俺の気血値は……」


「…………測定不能だ」


「は?」


「この測定器の上限は200ポイントだ」


白衣の男が信じられないという表情で言った。


「君の気血値は……それを超えている」


教室が静まり返った。


いや、保健室か。


とにかく、全員が天明を見ていた。


まるで化け物を見るような目で。


「200ポイント以上……?」


「そんな数値、聞いたことがない……」


「人間の限界を超えてるぞ……」


天明は頭を抱えたくなった。


ああ、やっぱりこうなったか。


梵天塔の「精神:13,200」が、そのまま気血値に反映されたわけじゃないだろうが……


それでも、常人を遥かに超える数値が出たのは間違いない。


これは非常にまずい。


政府の特殊機関に目をつけられる。


下手をすれば、研究対象にされるかもしれない。


天明が冷や汗をかいていると――


保健室のドアが開いた。


「失礼します」


入ってきたのは、一人の女性だった。


黒いスーツに、長い黒髪。


整った顔立ちだが、表情は冷たい。


そして何より――


目つきが鋭い。


明らかに、ただ者ではない。


「内閣府異能対策室の者です」


女性が名乗った。


「周天明くんですね。少しお話を聞かせてもらえますか?」


天明は逃げ場がないことを悟った。


《現在の状態:功徳750 / 精神13,200 / 財産730,000円(現金) / 借金1,900,000円+医療費300,000円》


【梵天塔】

【現在の階層:1階】

【新たな危機:政府の介入】

【獲得した注目:内閣府異能対策室】


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