第63章 アクシデント
熱い湯に浸かっていると、天明はうとうとしてきた。
今日は本当に疲れた。
彼は浴槽の縁にもたれかかり、目を閉じて、久しぶりのリラックスした時間を楽しんでいた。
その時——
ガラッ。
浴室のドアが開けられた。
「やっと私の番だ、ずっと待ってたんだから——」
軽やかな声と共に、白いバスタオルを巻いた姿が入ってきた。
すっきりとした黒い短髪はまだ少し濡れており、白い肌は入浴後の紅潮を帯び、細い鎖骨がちらりと見え隠れしていた……
神代咲だった。
二人の視線が、立ち込める湯気の中で交わった。
時間が止まったようだった。
一秒。
二秒。
三秒。
「…………」
「…………」
天明の頭は真っ白になった。
何を見た?
バスタオル。白いバスタオル。体に巻かれたバスタオル。濡れた短髪。紅潮した頬。細い首筋。鎖骨。肩。バスタオル。バスタオル。バスタオル。
違う。
今はそんなことを考えている場合じゃない。
「あ、あの……」
天明が説明しようとした瞬間、神代咲の顔が一気に真っ赤になった。
「きゃあああああああああ——!!!」
耳をつんざくような悲鳴。
「な、な、なんであんたがここにいるの!浴室は空いてるって言ってたじゃない!バカ!変態!ケダモノ!エロ!」
「ちょ、ちょっと待って!それは俺のセリフだろ!入ってきたのはそっちじゃないか!」
天明は慌てて両手で目を覆い、同時にできるだけ体を浴槽の中に沈めた。
「それに私、入る前にちゃんと確認したもん、誰もいなかったって!」
「ずっと中にいたんだよ!」
「嘘!ノックした時、返事なかったじゃない!」
天明はそこで思い出した。
さっき頭を湯に沈めてぼんやりしていた時、確かに何かノックの音が聞こえたような……
「そ、それは湯の中にいたから……」
「湯の中って何よ!とにかく目を閉じなさい!見ちゃダメ!」
「もう閉じてる!」
「嘘!さっき絶対見たでしょ!」
「何も見てない!」
これは嘘だった。
見てしまった。
一瞬だったが、白いバスタオルの下にちらりと見えた曲線が、すでに彼の脳裏に深く刻み込まれていた。
「うぅぅ……全部見られた……もうお嫁に行けない……」
「見てない!本当に何も見てないって!」
「じゃあなんで顔が赤いのよ!」
「それはお湯が熱かったから!」
「冷水浴でしょうが!」
「……え?」
天明はそこで気づいた。確かに浴槽の湯はすでに冷めていた。
一体どれだけ浸かっていたんだ?
「と、とにかく先に出て!」神代咲の声は震えていた。「着替えるんだから!」
「出るのは俺の方だろ!ここは浴室だぞ!」
「だったら早く出なさいよ!」
「そっちが出ないと俺が出られないだろ!今、何も着てないんだから!」
「…………!」
神代咲はようやくその問題に気づいたようで、さらに顔を赤くした。
「じ、じゃあ私が先に後ろを向くから!は、早く服を着て出て!」
「わ、わかった!」
天明は神代咲が振り向く音を聞いてから、ようやく目を開けた。
彼は最速で浴槽から立ち上がり、急いで体を拭いて、春子が用意してくれた浴衣を羽織った。
「で、出るぞ!」
「早く!」
天明はほとんど逃げるように浴室を出た。
☆
廊下で、天明は壁にもたれかかり、大きく息をついた。
心臓がまだ激しく鳴っていた。
さっきの光景が何度も脳裏によみがえる。
白いバスタオル。濡れた黒い短髪。紅潮した肌。
「…………」
彼は必死に頭を振って、その映像を振り払おうとした。
落ち着け、落ち着くんだ。
あれはただの事故だ。
事故に過ぎない。
「天明様?」
突然、背後から声がした。
「うわっ!」
天明は驚いて飛び上がった。
振り返ると、家政婦の春子だった。
彼女はいつの間にかそこに立っていて、意味深な笑みを浮かべていた。
「お顔が赤いですね」
「そ、それは長く湯に浸かっていたから……」
「そうですか?」春子の笑みが深まった。「てっきり、さっきのお嬢様の悲鳴のせいかと。家中に聞こえましたよ」
「…………」
天明は何も言い返せなかった。
「ご安心ください、旦那様には言いません」春子はそう言って、乾いたタオルを渡した。「ただ、お嬢様は気が短いですから、お気をつけて」
「……忠告、ありがとう」
天明はタオルを受け取り、まだ滴っている髪を拭いた。
その時、浴室のドアが開いた。
神代咲が出てきた。もう寝巻きに着替えていた。
二人の視線が再び交わった。
「…………」
「…………」
空気中に気まずい雰囲気が漂った。
神代咲の顔はまだ赤く、視線は落ち着かず、天明を見ようとしなかった。
「あ、あの……さっきは……」天明は謝ろうとした。
「何も起きてない」神代咲は彼の言葉を遮り、硬い口調で言った。「さっきは何も起きなかった。わかった?」
「……わかった」
「よろしい」
神代咲は足早に彼の横を通り過ぎたが、すれ違う瞬間、天明は彼女が小さくつぶやくのを聞いた。
「……バカ」
そして、彼女の足音は急速に遠ざかっていった。
天明はその場に立ち尽くし、苦笑しながら首を振った。
今夜は、なかなか眠れそうにないな。




