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第49章 深夜の追跡



夜の街に灯りが煌々と輝き、蒸し暑い空気が立ち込めていた。天明は南条の後ろをのんびりと歩きながら、それぞれの家路につこうとしていた。


何本かの通りを曲がり、天明が南条と別れようとした矢先、前方に見覚えのある人影が目に入った。


「あれって……神代じゃないか?」


南条も気づいたようだ。


神代が一人で前方の道を歩いている。剣道の防具袋を背負っているところを見ると、どこかの稽古から帰ってきたところらしい。


「こんな遅い時間まで外にいたんだ……」


天明が声をかけようとした、その瞬間だった――


黒いワゴン車が横道から飛び出してきて、あっという間に神代の脇に停車した。車内からマスク姿の屈強な男たちが三、四人飛び降り、一斉に襲いかかった。一人が口を塞ぎ、一人が腕を掴み、もう一人が足を抱え上げる。


神代は悲鳴を上げる間もなく、車内に引きずり込まれた。


一瞬の出来事だった。五秒とかからなかった。


「誘拐だと!?」天明は即座に状況を理解した。


「神代の父親は刑事だ。きっと多くの恨みを買っているに違いない。その復讐として神代が狙われたんだ。いずれにせよ、神代は危険な状況にある」天明の脳裏を一つの考えが駆け巡った。「こんな場面に遭遇して、見て見ぬふりはできない。これまで武術を鍛えてきたのは、こういう時のためだ。ただ、相手が武器を持っていたら厄介だな」


一瞬の判断の後、天明は南条に言った。「南条!警察に通報してくれ!俺は追う!」


「周君!危ないわよ!」


南条の声が背後で響いたが、天明はすでに鞄を彼女に押し付け、身を翻して街角の影へと消えていた。その反応速度は、確かにこれまでの鍛錬の成果を物語っていた。


ワゴン車は別の路地へと走り去っていく。天明は車種と特徴、そしてナンバープレートをしっかりと記憶に刻んだ。車が視界から消えかけた瞬間、全力で駆け出し、別の通りから追跡を開始した。


天明の脚力は前世の少林寺の達人たちには及ばないものの、長年の訓練と混元真気による強化で、その爆発力は目を見張るものがあった。特に持久力は、内家拳の修練と混元丹の服用により、一般のアスリートを遥かに凌いでいた。


両足を交互に踏み出し、腕を大きく振り、足裏で地を蹴る。腰と脚の連動により、一歩で一メートル以上も進む。これこそ少林の基本歩法だ。


その足取りは風のように速く、着地は羽毛のように軽い。


間もなく、天明は一つの通りを駆け抜け、ワゴン車が幹線道路に出るのを捉えた。


市街地ということもあり、車の速度は抑えられていた。車内の誘拐犯たちも注目を集めたくないのか、信号無視などの危険な運転は避けているようだ。この速度なら、天明でも追跡可能だった。


やがて車が市街地を抜けると、徐々にスピードを上げ始めた。しかし既に日が暮れて暗くなっていたため、天明も隠れる必要性は薄れた。道端の雑木林に飛び込み、発見を避けながら追跡を続ける。


闇に包まれた中、天明は再び混元真気を発動させた。重心を落とし、全身の毛穴が開き、下腹に力を込める。鉄のような筋肉が隆起し、まるで獲物を追う野生の狼のように、ワゴン車を視界から逃さぬよう必死に追い続けた。


この激しい運動により、体内では大量の熱が生まれる。それが毛穴を破って汗として流れ出ようとするのを、天明は必死に抑え込んだ。


天明の毛穴の開閉をコントロールする力は日増しに強まっていた。つまり、内勁が着実に深まってきている証拠だ。


しかし車を追うのは容易なことではない。十キロ以上追った頃には、車との距離が徐々に開き始めていた。テールランプが何度も視界から消えかけたが、幸い道は一本道で分岐がなかったため、完全に見失うことはなかった。


「くそ、まだ止まらないのか。気を抜いたら終わりだ!」


激しく走り続ける中、天明は限界を感じ始めていた。毛穴で閉じ込めている気が限界に達し、全身が膨れ上がるような感覚に襲われた。今にも爆発しそうだ。


これは精を気に変える功夫が限界に達した状態だった。通常の拳法なら、この段階でゆっくりと止まり、型を通して気を丹田に沈め、それから全身に巡らせて養生とするのだが。


限界を超えて続けると、毛穴が気を閉じ込められなくなり、滝のような汗が噴き出して脱力し、最悪の場合はショック状態に陥る危険性がある。


だが今、天明に止まる選択肢はなかった。ただひたすら耐え、歯を食いしばって走り続けるしかない。


天明も自分が危険な賭けをしていることは理解していた。普通の人が運動で汗をかくのとは違う。内家拳を修める者が限界を超えると、溜め込んだ気が一気に噴き出す。まるで決壊したダムのように、極めて危険なのだ。


最も危機的な瞬間、前方のワゴン車のライトが急に曲がり、工業地帯の脇道へと入っていった。そして廃倉庫の前で停車した。


天明も立ち止まったが、精神を緩めることはなかった。少林の基本の立ち姿勢を取り、軽く体の各部を動かして気を整える。十数分かけてようやく気を鎮め、下腹の緊張を解いた。両足の力も抜け、全身の毛穴も弛緩したが、汗は出なかった。


回復すると、すぐに足音を忍ばせて廃墟を抜け、倉庫へと近づいていった。


ワゴン車は倉庫の前に停まっており、既に人の気配はない。倉庫に塀はなく、ただの廃墟だ。大きな扉が半開きになっており、中から男たちの声と、神代の呻き声がかすかに聞こえてくる。


周囲を観察すると、倉庫の側面に壊れた窓があることに気づいた。あそこから登れそうだ。


天明は静かに壁の凹凸を伝って登り、あっという間に二階の窓際まで到達した。


割れたガラス越しに中を覗くと、状況が見えた。


神代は椅子に縛り付けられ、口にはガムテープが貼られ、手足もきつく縛られている。


四人の覆面姿の男たちが彼女を囲んでいて、そのうちの一人が電話中だった。


「黒龍さん、ターゲットは確保しました」


「ええ、神代家の娘です。剣道部の部長をやってる子ですよ」


「身代金?いくらでも構いません。向こうが払う気があればですが」


「了解しました。ご連絡をお待ちしております」


---


プラットフォームには誰もおらず、二階へ続く壊れた窓があるだけだった。天明は夜行性の猫のように息を殺し、目を四方に走らせ、耳を澄ませてしばらく様子を伺った後、壁を伝って降り、素早く真っ暗な死角に身を隠して、明かりの灯った部屋を監視した。


「意外と潜入の才能があるかもしれないな」天明は自分の一連の動作に満足していた。


廃倉庫の内部は簡素な造りで、しかもあまり使われていない様子だった。隅には埃と雑物が積もり、至る所が薄暗い。だがそれが天明にとっては好都合で、スムーズに潜入できた。


「兄貴、どうしますかね?この女を捕まえたのはいいけど。黒龍さんに連絡しますか?」部屋の中には四、五人の若い男たちがいるのが見えた。


リーダー格らしい金髪の男は黒い特攻服に身を包み、首に太い金のチェーンをかけ、バタフライナイフを弄んでいる。他の連中は神代の周りで煙草を吸ったり、ビールを飲んだりしていた。


神代は椅子に縛られ、口にはテープが貼られ、全身汗だくだ。両目には恐怖の色が浮かんでいるが、必死に冷静さを保とうとしているのが分かる。


「もう黒龍さんには連絡済みだ。まずこの女の家族がいくら出すか確認しろって言われてる。神代家の娘で、剣道部の部長だぞ。家は金持ちに決まってる。今回は大金が転がり込むチャンスだ。もし金を出さなかったら、こいつを風俗店に売り飛ばしてやるさ!」


金髪の男はバタフライナイフを弄びながら、凶悪な表情でテーブルに突き刺した。刃が木材に深々と食い込む。


「兄貴、その金、本当に手に入るんですかね?」赤毛で顔に傷のある男が聞いた。


「当たり前だろ。神代家はこの辺じゃ有名な武道一家で、道場もいくつか経営してる。黒龍さんが俺たちに任せたのは、そこに目をつけたからだ。この女はただの高校生だが、家は相当な資産家だぞ!」


「兄貴、なんで黒龍さんはもっと仲間を呼ばせなかったんです?この女、剣道できるって聞いたんですけど。抵抗されたらマズいんじゃ?」


「馬鹿言うな。剣道がどんなに上手くても、こうやって縛られてたら何もできやしないだろ。それに女一人にどれだけの力があるってんだ?お前ら本当に頭が悪いな!後で黒龍さんから連絡が来たら、五百万円を要求するぞ。家族が払わなければ始末する。払ったら、俺たち一人につき最低でも百万円は手に入る!」


「さすが兄貴!」痩せた男が媚びるように笑った。


「五百万円だと!?」天明は聞いて目を見開き、全身の血が沸騰するのを感じた。「チンピラ風情が誘拐だと?死にたいのか!」


天明が飛び出そうとした瞬間、ポケットの中で携帯が震えた。


急いで確認すると、南条からのメッセージだった。


【警察は最低でも三十分かかるって!絶対に無理しないで!】


「三十分か……長すぎる」


天明は歯を食いしばった。


神代は今、あのチンピラたちの手の中にいる。三十分も待っていたら何をされるか分からない。


今すぐ動かなければ。



「黒龍さん、いつ来るんだよ?」一人が不満げに言った。


「焦るな。黒龍さんはもうすぐ来るって言ってた。それまで待ってろってさ」金髪の男が答えた。


「じゃあ俺たち、今は何すりゃいいんだ?」


「酒でも飲んで待ってろ。どうせこの女は逃げられないんだから」


「兄貴、ちょっと遊んでもいいんじゃないですか?どうせ後で始末するんでしょ?」赤毛の男が欲望を隠さずに神代を見た。


「馬鹿野郎!黒龍さんが手を出すなって言ったんだよ。傷でも残したら交渉に響くだろうが」


「ちっ、つまんねえな」


「金が入ったら、お前らを高級な店に連れてってやるよ」


「マジっすか!最高っす!」


数人が興奮してハイタッチした。


「今だ!」


天明の心が動いた。


チンピラたちは完全に気を抜いて、酒を飲みながらだらけている。


そして黒龍という男が来る前に、動かなければ。


今が最高のタイミングだ。


数人が興奮してハイタッチした。


「今だ!」


天明の心が動いた。


チンピラたちは完全に気を抜いて、酒を飲みながらだらけている。


今が最高のタイミングだ。


天明は深呼吸し、混元真気を体内で巡らせ始めた。


気血が流れ、毛穴がわずかに開く。


これが実戦で初めて全力で混元真気を使う瞬間だ。


前世で少林寺で学んだ武術と、この世で修めた内功。


今日、その全てを発揮する。


天明は影の中を静かに移動し、入口付近まで近づいた。


痩せた男が入口に背を向けて、隅で用を足している。


天明は息を殺し、一歩部屋に踏み込んだ。


混元真気が全身を駆け巡り、速度が爆発的に上がる。


三歩で距離を詰める。地を這うような速さだ。


痩せた男は振り向く暇さえなかった――


バン!



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