第45章 職員室での波紋
しまった、と天明は心の中で叫んだ。
自分はあまりにも山本健太の面子を潰したくて、カッコつけることに夢中になりすぎて、先生まで巻き込んでしまった。
でももう遅い。先生を怒らせたとしても、どうにかなるだろう。どうせ英語はもう勉強する必要がないくらい得意なんだし、まあいいか。
しまった、と天明は心の中で叫んだ。
自分はあまりにも山本健太の面子を潰したくて、カッコつけることに夢中になりすぎて、先生まで巻き込んでしまった。
でももう遅い。先生を怒らせたとしても、どうにかなるだろう。どうせ英語はもう勉強する必要がないくらい得意なんだし、まあいいか。
言葉が落ちた瞬間、教室全体が静まり返った。
三秒間の沈黙。
そして——
「ぷっ」
誰かが笑いを噛み殺す音。
次の瞬間、教室全体が爆笑の渦に包まれた。
「やべえ!」
「先生の顔!」
「周くん、すげえ!」
先生の顔が真っ赤になった。
恥ずかしさなのか、怒りなのか、それとも両方なのか。
山本健太の顔も赤くなったが、それは明らかに怒りと屈辱のためだった。
そして次の瞬間、英語教師は教室を飛び出した。
「じゃ、じゃあ、時間になったら班長が答案を回収して、職員室に持ってきてください!」
班長が慌てて声をかけた。「え? あの、先生、まだ授業終わってませんけど、このまま出て行ったら、教頭先生に見つかったらまずいんじゃ……」
しかし教師は既に振り返ることなく走り去っていた。
次の瞬間、教室全体がさらに騒然となった。
「すげえ!」誰かが拍手しながら天明に声をかけた。
「マジで先生追い出したぞ!」
「周くん、かっこいい!」
天明は騒ぐ同級生たちの中にいる山本健太をちらりと見た。案の定、不機嫌そうな顔をしている。
うん、あいつの顔が不機嫌になると、天明は楽しくなる。
最もシンプルで直接的な喜びは、こうやって他人の不快の上に成り立つものだ。
天明は親指を立てた。「いやいや、英語で分からないことがあったら、いつでも聞いてくれ」
言葉が落ちた瞬間、班長が獅子吼を発した。「静かに静かに静かに!」
さすが吹奏楽部で大きな楽器を吹いてるだけあって、声量がすごい。
静かになった後、班長は真剣な顔で言った。「こんなに騒いだら、教頭先生や校長先生を呼び寄せたらどうするんですか! 早く答案を書き上げてください。あと五分で回収します。カンニング禁止!」
みんながようやく頭を下げて、再び一心不乱に書き始めた。
そして班長は教壇に上がり、両手を教卓に置いて、下を鋭い目で見つめている。
どうやら班長ももう答案を書き終わっているらしい。
まあ、三つ編みに太いフレームの眼鏡をかけてるんだから、勉強ができそうな見た目だ。
天明の答案ももう終わっている。やることがない。残りの時間は寝るには短すぎる。仕方ないので、天明は窓の外の景色を見ることにした。
校庭では体育の授業をやっているようだ。
生徒たちがサッカーをしている。
平和な日常。
でも、天明の周りはまだまだ嵐のただ中だ。
明日、通話料金を換金する人に会う。
108万円を現金にする。
剣道部の五人目を探す。
借金を返す。
やることが本当に多い。
でも——
天明は教室を見回した。
騒然とした雰囲気は落ち着いて、みんな必死に答案を書いている。
でも、何人かの生徒が時々こっちをちらちら見ている。
女子生徒たちがひそひそ話している声が聞こえる。
「周くん、英語すごく上手なんだ……」
「しかも英詩まで暗唱できるなんて……」
「教養があるわね……」
「山本よりずっとすごい……」
山本健太の顔がさらに赤くなっている。完全に不機嫌だ。
天明は心の中で思った。
終わった、これで完全に有名になってしまった。
しかも山本の恨みを買った。
でも……
もしこれで新メンバーを剣道部に引き寄せられるなら……
悪くないかも?
神代部長が言っていた「実力を見せる」って、こういうことなのかな。
まあ、英語の実力だけど。
チャイムが鳴った。
班長が答案を回収し始める。
「はい、みなさん、答案を前に回してください!」
天明は自分の答案を前の席に渡した。
そして荷物をまとめて立ち上がった。
何人かの同級生が近づいてきた。
「周くん、英語本当にすごいね!」
「アメリカにどれくらいいたの?」
「教えてくれない?」
天明が答えようとした時、山本健太が横を通り過ぎた。
冷たく鼻を鳴らしながら。
「アメリカに何年かいただけじゃないか。何がすごいんだ。本当の秀才は、全科目で優秀でなければならない。英語ができたからって何だ? 国語、数学、理科、お前はできるのか?」
そう言って、山本健太は憤然と教室を出て行った。
第xx章 職員室での波紋
* * *
佐藤先生が職員室に戻ってきた時、彼の顔は青ざめていた。
机の前に座り込むと、深いため息をついた。
最後の時限に授業がなかった田中先生が彼の様子を見て、興味深そうに尋ねた。「どうしたんだ? 君、最後の時限は二年B組の英語だったよね? こんなに早く職員室に戻ってきて、教頭に見つかったら怒られるぞ。あの人、全員の時間割を頭に叩き込んでるからな。時々自分がどの授業だったか忘れた時、あの人に聞けば確実に教えてくれるくらいだ」
佐藤先生はため息をついた。「二年B組に周天明っていう生徒がいるの、知ってる?」
「ああ、今日の話題人物だな。立花先生が今日すごく機嫌悪かったぞ」
田中先生の口にした立花先生は、二年B組の担任だ。
「あの人、何度も何度も真剣に考えて進路希望調査票を書けって言ったのに、それでも頑固な生徒が一人いて、三つの欄全部に『東京大学』って書いたって怒ってた。それがこの周天明だよ」
「それは立花先生も怒るわな」佐藤先生が相槌を打った。「周天明は確か成績がB組で最下位だったはずだ。アメリカからの転校生で、特に目立った取り柄もないって聞いてる」
「そうそう。立花先生、前はすごく真面目に周天明が専門学校に推薦入学するための書類を準備してたんだよ」
日本では、普通に大学を受験する以外に、推薦入学もよくある入学方法だ。
特に公立学校の推薦は、公立学校の教師は全員文部科学省の給料をもらっていて、学校の経営状況とは完全に無関係なので、信頼性が保証されている。
もちろん前提として、その公立学校の平均偏差値が高くなければならない。
そして日本社会のこのシステムでは、名門校への推薦入学は基本的に生徒を「上級国民」の輪に送り込むのと同じだ。
将来、これらの人々は恩師に感謝しに戻ってくるので、日本の良い高校には強力な同窓会があり、誰を引っ張り出しても社会的に有力な人物ばかりだ。
以前、立花先生はとても真面目に周を専門学校に推薦する準備をしていた。これらの学校では、実技系の生徒を受け入れている。
アメリカからの帰国生なら、語学を活かした道もあるかもしれない。
周のような転校生で成績が振るわない生徒の進路は、せいぜい二つくらいしかない。一つは何か特技を活かして専門職に進むこと。でもこれは実際にはかなり難しい。
比較的現実的な進路は専門学校に行って、技術を身につけて就職することだ。
立花先生は当然これらのことを熟知していて、早くから周天明の推薦書類を準備していた。
それなのに今、周は東京大学を受験すると言い出した。これまでの準備が全部無駄になったわけだ。
田中先生は首を振った。「周天明、いったい何を考えてるんだか」
佐藤先生は深刻な顔をした。「もしかしたら、本気かもしれない」
「え? なんでそう思うんだ?」田中先生が不思議そうに尋ねた。
そこで佐藤先生は、さっきの英語テストの最後に起きたことを簡単に説明した。
田中先生の口がOの字に開いた。
「何だって? 本当か? 君、確かに彼が……」
「確かだ」佐藤先生は突然ため息をついて、愚痴をこぼし始めた。「彼、俺の発音まで馬鹿にしやがった。確かに、認める。俺は英語のRとLが完全に区別できないし、『right』と『light』の発音が全く同じだ。でも日本人なんてみんなそうじゃないか? 完璧なアメリカ英語が話せるのってそんなに偉いのか?
「そんなに偉いのか?」
佐藤先生は田中先生を見つめて、問い詰めた。
田中先生が答えようとした時、佐藤先生は自問自答した。「ああ、偉いよ! 英語に関しては、俺はもう彼に教えることは何もない!」
田中先生は佐藤先生を見て、複雑な表情を浮かべた。「そこまで卑下することないだろ。発音が完璧でも、文法が良いとは限らないじゃないか。もしかしたらアメリカ人のガールフレンドでもできて、そのアメリカ訛りを覚えただけかもしれないぞ」
「さっきのテスト、見たんだ。彼、満点だった」佐藤先生が言った。「満点だぞ。高得点を取る生徒はよくいる。でも満点はそうそう出ない。あの成績優秀な生徒たちでも、時々ちょっとしたミスで点を落とすのに! 彼はいきなり満点だ」
田中先生は口をすぼめた。「もしかしたらすごく良い塾に通ってるとか?」
「どんな塾なら、常に英語が赤点だった生徒を、たった数週間で満点取れるようにして、しかも流暢なアメリカ英語を話せるようにできるんだ?」
田中先生は黙り込んだ。
職員室が静寂に包まれた。
そして下校のチャイムが鳴った。
チャイムの音が過ぎ去った後、田中先生が恐る恐る言った。「じゃあ、周天明は本当に東大に合格する可能性があるってこと?」
「少なくとも英語に関しては、ある。というか、俺はこの英語力なら、上智大学に行くべきだと思う」
上智大学は外国語学部の強さで有名で、多くの外交官や翻訳家を輩出している。
上智大学の英語専攻に入れば、最低でも大企業の海外部門に入れる。
田中先生は頭を掻いた。「そんなにすごいのか。他の科目がどうなのか分からないけど、明日……ああ、俺、B組の授業があるな。俺も小テストやってみるか」
そう言って、田中先生は数学の教科書を取り出して、問題を作り始めた。
佐藤先生はそれを見ながら思った。
もしかしたら、本当に何かが変わったのかもしれない。
あの周天明という生徒に。
* * *
その日の放課後、職員室にはまだ何人かの教師が残っていた。
佐藤先生の話は既に広まっていて、二年B組の担任・立花先生も耳にしていた。
「本当か、佐藤?」
立花先生が険しい顔で尋ねてきた。
「本当です」佐藤先生が頷いた。「僕も最初は信じられませんでしたが、確かに満点でした。それに、発音も完璧でした」
「……」
立花先生は黙り込んだ。
彼の手には、周天明の推薦書類の下書きがあった。
もう使わない書類。
「周は……いったい何があったんだ」
立花先生が呟いた。
「分かりません」佐藤先生が答えた。「でも、確実に何かが変わりました」
「英語だけなのか?」
「それは分かりません。でも……」
佐藤先生は言葉を濁した。
でも、あの自信に満ちた態度。
あの堂々とした英詩の朗読。
あれは、ただの偶然じゃない。
何か、確かな自信を持っている。
「明日、他の教科も見てみないと」立花先生が言った。「もし本当に全科目で成績が上がっているなら……」
「なら?」
「なら、東大も……夢じゃないかもしれない」
その言葉を聞いて、職員室にいた他の教師たちもざわめいた。
「まさか」
「いや、でも佐藤先生が言うなら……」
「周天明が東大? 信じられない」
「でも、もし本当なら……」
教師たちのささやきが職員室に満ちた。
立花先生は窓の外を見た。
校庭では、部活動に励む生徒たちの姿が見える。
その中に、剣道部の道場に向かう周天明の姿もあった。
「周……お前、何を考えているんだ」
立花先生は小さく呟いた。
もし本当に東大に行けるなら。
もし本当に成績が上がっているなら。
それは、奇跡だ。
でも——
教師として、生徒の可能性を信じるのも仕事だ。
「……見守るしかないか」
立花先生は推薦書類の下書きを引き出しにしまった。
まだ捨てない。
でも、新しい道を探す準備も始める。
それが、教師としての責任だから。




