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第41章 混乱の剣道部


放課後、静かな武道館の奥。俺の姿がこの滅多に人が来ない場所に現れた。


廊下を歩く足音が、やけに大きく響く。それだけこの建物に人気がないってことだ。窓から差し込む西日が、埃の舞う空気を照らしている。


「剣道部の道場……ここだよな」


俺は憂鬱に扉を見つめた。木製の古びた引き戸。表札には「剣道部」と書かれた文字が、時間の経過で少し色褪せている。


正直言って全くやる気がない。でも神代部長に医療費を払ってもらった恩があるし、人数が足りないって聞いて断れなかった。少数派の苦労は俺も分かる。前世でも、弱小道場の苦労を嫌というほど見てきたからな。


深呼吸して、決心してドアノブを回した。


ガラッと扉を開けた瞬間——


「面!!」


「うわっ!」


突然、竹刀が俺の頭上に迫ってきた!


俺は反射的に横に跳んで回避した。身体が勝手に動く。前世の武術本能だ。


竹刀が空を切る音が耳元で響く。風圧が頬を撫でた。マジで当たるところだった。


「あぶねえ! 何すんだ!」


「甘いわね」


神代咲が竹刀を肩に担いで、不敵に笑っていた。剣道着姿の彼女は、教室で見る時とはまた違った凛々しさがある。


「この程度の奇襲も防げないなんて、武道家失格よ」


「おいおいおい」


俺は額の汗を拭いた。心臓がまだドキドキしている。


「正面から勝てないからって、奇襲とか卑怯だろ」


「……は?」


神代の目が細くなった。空気が一瞬で冷え込む。


「今、何て言った?」


やばい。口が滑った。まずい、これは確実にまずいパターンだ。


「いや、その——」


「周先輩!」


明るい声が響いて、ポニーテールの女の子が駆け寄ってきた。助かった。ナイスタイミングだ、名前も知らない後輩。


「初めまして! 一年生の鈴木美咲です!」


彼女が俺の前でピタッと止まって、キラキラした目で見上げてきた。身長は150センチくらいだろうか。小柄で元気そうな子だ。


「あ、ああ……よろしく……」


「部長から聞きました! 屋上で部長と互角に戦ったって!」


「え? 互角?」


俺は神代を見た。


神代が視線を逸らした。


……おい、部長。あれ、確か俺が勝ったよな? なんで互角になってんだよ。プライドか? これが部長のプライドってやつか?


「だから! 私もぜひ、周先輩と手合わせしたいです!」


美咲の目がさらにキラキラしている。まるで少年漫画の主人公みたいなテンションだ。


「いや、その……俺まだ初心者で……」


「初心者が部長と互角に戦えるわけないじゃないですか!」


美咲がニッコリ笑った。


この子、笑顔が眩しすぎて直視できない。太陽を見てるみたいだ。こういうタイプ、前世ではあまり関わったことがないな。


「えっと、美咲……?」


「はい!」即答だ。


「落ち着いて……」


「落ち着いてます! すごく落ち着いてます!」


全然落ち着いてない。むしろ興奮度が上がってる気がする。


「佐藤!」


神代が道場の隅に向かって声をかけた。


「は、はい!」


小さな返事とともに、メガネをかけた男子が姿を現した。防具置き場の陰から出てきたところを見ると、ずっとそこで様子を伺っていたらしい。


佐藤健太。一年生だ。背は俺と同じくらいだけど、なんというか……頼りない雰囲気が漂っている。


「周の道着、用意して」


「は、はい……で、でも……どのサイズが……」


佐藤がおどおどしながら、俺を見た。目が合うと、ビクッと肩を震わせた。


「えっと……周先輩は……Mサイズ……ですか……?」


「多分そうだと思うけど……」


「わ、分かりました! す、すぐに持ってきます!」


佐藤が慌てて倉庫に駆け込んだ。途中で自分の足に引っかかりそうになっている。


……大丈夫か、あの子。剣道、できるのか?


「さあ、周。早く着替えて」


神代が俺の肩を叩いた。その手に容赦がない。


「ちょ、ちょっと待て。俺、まだ心の準備が——」


「準備は後!」


神代が俺を更衣室に押し込んだ。


バタン!


扉が閉まった。


……この剣道部、絶対おかしい。


* * *


数分後。


道着に着替えて道場に戻ると、神代と美咲が竹刀を持って待っていた。まるで獲物を待つ肉食獣みたいだ。特に美咲の目が怖い。


「遅いわよ、周」


「いや、五分も経ってないんだけど……」


実際、時計を見たら三分半しか経ってない。どんだけせっかちなんだよ。


「さあ! 早速、練習開始よ!」


神代が嬉しそうに笑った。その笑顔、なんか悪い予感しかしない。


「あの、練習って……」


「美咲と佐藤、二人で周と手合わせしなさい」


「……は?」


「二人同時に?」


美咲が驚いた顔をした。流石にこれには彼女も予想外だったらしい。


「そうよ。周は強いから、二人がかりでちょうどいいわ」


ちょうどよくねえよ! 俺まだ剣道のルールもろくに知らないんだぞ!


「ちょ、ちょっと待て!」


俺が抗議しようとした瞬間、佐藤が防具をつけて現れた。


「ぼ、僕も……や、やるんですか……?」


「当たり前でしょ」


神代がニッコリ笑った。その笑顔の裏に悪魔を見た気がする。


「で、でも……ぼ、僕……まだ……」


「大丈夫よ、佐藤君!」美咲が佐藤の肩を叩いた。「二人なら勝てるよ!」


「そ、そうでしょうか……」


佐藤が不安そうに竹刀を握った。その手が既に震えている。


いや、無理だろ。この子、完全にビビってるじゃないか。


「じゃあ、始め!」


神代の合図とともに、美咲が突進してきた!


「面!」


「うお!」


俺は竹刀を構えて受け止めた。


パン!


軽い衝撃が手に伝わる。美咲の打ち込みは、見た目以上に力強い。


「やっぱり! 周先輩、受け止められるんですね!」


美咲が嬉しそうに笑った。なんでお前が嬉しそうなんだよ。


「じゃあ、次! 小手!」


「ちょっと待て!」


「待ちません!」


美咲の攻撃が次々と繰り出される。


速い!


でも、まだ対応できる。動きに無駄が多い。力任せだ。


パン! パン! パン!


竹刀がぶつかり合う音が連続して響く。道場に木霊する音が、妙に心地良い。


「す、すごい……」


佐藤が呆然と見ている。完全に戦闘に参加する気を失っている。


「佐藤! ぼーっとしてないで!」


神代が叫んだ。


「あ、は、はい!」


佐藤が慌てて俺に近づいてきた。


でも、その動きは遅い。竹刀の構えも甘い。剣道を始めたばかりなのがよく分かる。


「め、面!」


佐藤の竹刀がゆっくりと振り下ろされる。予備動作が大きすぎる。これじゃ誰でも避けられる。


俺は美咲の攻撃を受け流しながら、佐藤の竹刀も軽く避けた。


「ああ……」


佐藤が情けない声を出した。既に諦めモードだ。


「佐藤君! もっと積極的に!」


美咲が励ましながら、さらに攻撃を加速させた。


「胴!」


「小手!」


「面!」


美咲の攻撃が嵐のように襲ってくる。


でも、前世の武術経験があるから、動きが読める。彼女の体重移動、視線の動き、筋肉の緊張——全てが次の攻撃を教えてくれる。


俺は最小限の動きで、美咲の攻撃を全て受け流した。


「すごい……」


美咲が竹刀を下ろした。息が少し上がっている。


「周先輩、全然息が上がってない……」


「まあ、二人とも動きが分かりやすいから……」


「分かりやすい……ですか……」


美咲が少しショックを受けた顔をした。申し訳ない。でも事実だ。


「やっぱりね」


神代が満足そうに頷いた。腕を組んで、まるで自分の作品を鑑賞するような目で俺を見ている。


「周、あんた本当に強いわ」


「いや、別に——」


「謙遜しなくていいわよ」神代が俺の肩を叩いた。「あんた、才能あるわ」


「才能って……」


「ええ。だからこれから、もっともっと鍛えるわよ!」


神代の目が輝いている。


……やばい予感しかしない。この人、完全にスパルタコーチの目をしている。


「部長、俺まだ——」


コンコン。


ノックの音が響いた。


「失礼します。生徒会の白鳥です」


扉が開いた。


入ってきた人物を見て、俺は思わず姿勢を正した。


黒髪のストレートロング、きちんと整えられた制服、ピンと伸びた背筋。厚いバインダーを抱え、眼鏡の奥の眼差しは鋭く、まるで教師のような威圧感がある。


これが……生徒会か。


いわゆる「優等生タイプ」だ。でも、ただの優等生じゃない。この圧倒的な存在感は何だ? まるで教室に教育委員会が視察に来たみたいな緊張感が走る。


白鳥と名乗った女子生徒が道場を見回し、冷たい視線で俺たち一人一人を観察した。その視線が俺に触れた瞬間、思わず背筋が伸びた。


「剣道部の皆さん、お時間をいただきありがとうございます」


その声は冷静で、感情が全く読み取れない。機械的ですらある。


「私は生徒会書記の白鳥真白と申します。本日は剣道部の活動状況について確認に参りました」


活動状況確認……


聞くからに不吉だな。


俺は神代部長を見た。彼女の表情が少し硬い。握りしめた拳が、微かに震えている。


どうやら彼女もこれがいいことじゃないと分かっているようだ。


白鳥が手元のバインダーを開き、淡々と読み上げ始めた。


「まず、現在の部員構成を確認させていただきます」


彼女の指が、リストをなぞる。


「部長、神代咲。二年生」


「副部長、不在」


「部員、周天明。二年生、転校生」


俺みたいな入ったばかりの転校生の名前まで完璧に覚えてる……というか、調べ上げてる。この人、仕事が異常に早いな。


「部員、鈴木美咲。一年生」


「部員、佐藤健太。一年生」


「以上、合計四名。相違ございませんか?」


白鳥が顔を上げ、その冷たい瞳で俺たちを見た。


「はい……」


神代が小さく答えた。声に力がない。


白鳥が頷き、バインダーに何かを記録している。ペンが紙を走る音だけが、静かな道場に響く。


そして、彼女はあの言葉を口にした——


「学校の規定では、運動部として正式に認められるには、最低五名の部員が必要です」


来た。


俺は心の中でため息をついた。


やっぱり逃げられないのか、この展開。


スポーツ漫画のお決まりパターン——廃部の危機!


人数不足で生徒会が通告に来て、主人公たちは期限内に新部員を見つけなければならない。


これって『スラムダンク』、『ハイキュー!!』、『ベイビーステップ』……全てのスポーツ漫画が使ってきた定番じゃないか!


現実でこんなことに遭遇しないと思ってたのに。


それなのに本当に来やがった。


しかも俺、入部したばっかりなんだけど!


この世界に来てまだ二週間も経ってないんだけど!


なんでこんな面倒事に巻き込まれなきゃいけないんだよ!


「現在、剣道部は一名不足の状態です」


白鳥が続けた。その声に一切の感情がない。


「ついては、今月末——つまり二週間後までに、五名以上の部員を確保していただく必要があります」


「二週間!?」


美咲が思わず声を上げた。


「はい。二週間です」


白鳥は表情一つ変えずに答えた。まるでただの事務連絡をしているかのようだ。


「もし期限までに五名に満たない場合……」


彼女が一瞬間を置いた。


その沈黙が、やけに長く感じる。


そして、より冷たい口調で言った。


「来月より、剣道部は廃部となります」


廃部。


この言葉が道場に響き渡った。


雰囲気が一気に重くなった。まるで空気そのものが凍りついたようだ。


「そ、そんな……」


美咲の声が震えている。


佐藤はすでに顔面蒼白で、竹刀を握る手が震えている。今にも泣き出しそうだ。


神代部長は唇を噛み、頭を下げた。肩が小刻みに震えている。


そして俺は……


俺は心の中で狂ったようにツッコんでいた。


廃部だ!


本当に廃部ネタが来たよ!


これ超定番じゃん!


いや、むしろ超ベタじゃん!


今、何年だと思ってんだよ、まだこんな展開使うのか?


しかも二週間だけ?


無茶振りにも程があるだろ!


そんな簡単に剣道部に入りたい人が見つかるわけないだろ!


ましてやこの剣道部、たった四人で廃部寸前に見えるのに、誰が入りたいと思うんだよ!


沈みかけた船に乗り込む馬鹿がどこにいるんだ!


「あの……」


神代が顔を上げ、何か言おうとした。


しかし白鳥が手を上げて遮った。


「説明や弁解は不要です」


「私はただ、規定に基づいた事実を告知しに来ただけですので」


冷酷すぎる……


この人、ロボットなんじゃないか?


完全に感情がない様子だ。


いや、もしかして心の中ではこういう「宣告」を楽しんでるのかも?


生徒会の権力ゲームか?


「それと」


白鳥の視線が俺に向いた。


あ、こっち見た。


なんで俺を見るんだよ?


俺はただの無実の転校生だぞ。何も悪いことしてないぞ。


「周天明さん」


「は、はい……」


俺は反射的に答えた。白鳥の視線には、有無を言わせない力がある。


「あなたは先週転校してきたばかりですね」


「はい……」


「転校早々、このような状況の部活に入部するとは」


白鳥が眼鏡を押し上げた。レンズの奥の目が、冷たく光る。


「学業に支障が出る可能性がありますので、十分注意してください」


「このような状況」って……


それって廃部寸前ってことか?


言い方が直接的すぎるだろ!


しかも「学業に支障」って何だよ?


俺、入ったばっかりなんだけど!


まだ本格的な練習すら始まってないんだけど!


というか、それを言うなら神代部長に医療費払ってもらった時点で、もう逃げられない状況なんだよ!


「あの、白鳥さん」


神代がついに我慢できなくなったようだ。


「私たちは真面目に活動しています。来月には地区予選もありますし——」


「地区予選?」


白鳥が神代を見た。


その目が、さらに冷たくなった気がする。絶対零度まで下がったんじゃないか?


「団体戦の出場には五名の選手が必要です。現在四名では、出場資格すらありません」


「……」


神代が言葉に詰まった。


「つまり」


白鳥がバインダーを閉じた。


「今月末までに五名揃わなければ、地区予選にも出られず、そして廃部」


パタン。


「これが現実です」


バインダーを閉じる音が、まるで剣道部に死刑宣告をしたかのように響いた。


道場に死んだような静寂が訪れた。


美咲は頭を下げ、肩が微かに震えている。


佐藤はもう泣きそうだ。目が真っ赤になっている。


神代は唇を噛み、拳を固く握りしめている。爪が手のひらに食い込んでいるんじゃないか?


そして俺は……


俺はこの光景を見て、複雑な気持ちになった。


これって……


これって完全にスポーツ漫画の展開じゃないか?


冷酷な生徒会代表。


無情な通告。


絶望する部員たち。


次は誰かが立ち上がって「絶対に五人目を見つける!」みたいな熱血台詞を言う番だろ?


そしてみんなで「頑張ろう!」って叫ぶんだろ?


頼むよ、今、何年だと思ってるんだ、まだこんなベタな展開やるのか……


でも……


彼らのあの様子を見ていると……


俺は突然、言葉にできない感情が湧いてきた。


くそ。


なんで俺、助けたい衝動に駆られてるんだよ?


俺には関係ないはずなのに。


俺にはまだ190万の借金があるのに。


俺にはまだ108万の通話料金を現金化しなきゃいけないのに。


それに修行だってしなきゃいけない。


なんでこんなことを気にしなきゃいけないんだよ……


前世では、こういう「正義感」とか「仲間意識」とかに振り回されて、結局損をするのは自分だって学んだはずなのに。


なのに、なんで……


「では、失礼します」


白鳥が踵を返し、去ろうとした。


「あ、あの!」


俺は、なぜか突然声を出してしまった。


自分でも驚いた。なんで俺、声を出したんだ?


白鳥が足を止め、振り返って俺を見た。


その冷たい瞳が眼鏡越しに、真っ直ぐ俺を見つめている。


「……なんですか?」


「その……」


やばい。


なんで呼び止めちゃったんだ?


俺、何を言おうとしてたんだ?


頭の中が真っ白になる。でも、ここで黙るわけにはいかない。


「もし、二週間で五名集まったら……廃部は取り消されるんですよね?」


「はい。規定通りです」


白鳥が頷いた。


「ただし」


彼女が一言付け加えた。


「過去三年間、そのような例はありません」


「つまり、期待しない方がいいということです」


そう言って、白鳥は本当に出て行った。


パタン。


扉が閉まった。


道場に再び沈黙が訪れた。


今度の沈黙は、さっきより更に重かった。


誰も何も言えない。ただ、床を見つめるだけ。


「……みんな、ごめん」


神代がついに口を開いた。その声は、今まで聞いたことがないほど弱々しかった。


「私が部長として……ちゃんと部員を集められなくて……」


「部長のせいじゃないです!」


美咲が顔を上げた。目が既に赤くなっている。涙を必死に堪えている。


「剣道部が人気ないのは……部長のせいじゃ……」


言葉が続かない。美咲も泣きそうだ。


「でも……」


神代の声が震えている。


「私が、もっと早く動いていれば……」


俺はこの光景を見ていた。


三人とも、本気で剣道部を大切に思っている。


この場所が、彼らにとって大事な居場所なんだ。


そして……


そして俺は思わずため息をついた。


「……ああ、もう」


いいや。


もう巻き込まれちゃったんだし……


それに、あの白鳥の態度が気に食わない。


「期待しない方がいい」だの。


「過去三年間そんな例はない」だの。


まるで俺たちが失敗するって決めつけてるみたいじゃないか。


確かに難しいとは思うけど……


でも……


俺も負けず嫌いなんだよな、結局。


「おい、部長」


俺が口を開いた。


三人の視線が一斉に俺に集まる。


「二週間なら、まだチャンスあるだろ?」


「……周?」


神代が顔を上げた。目に涙が浮かんでいる。


「俺が言いたいのは、二週間あれば、一人くらい剣道部に入ってくれる人を見つけられるんじゃないかってこと」


俺は肩をすくめた。


「簡単じゃないけど、完全に不可能ってわけじゃないだろ?」


「でも……どうやって……」


「それに」


俺は神代を見た。


心の中ではこのベタな展開にツッコミまくってるけど……


これが多分無理なミッションだって分かってるけど……


でも……


「部長、俺に才能があるって言ったよな? だったら、俺を看板にすればいい」


「……どういうこと?」


「デモンストレーションだよ。他の生徒に俺の実力を見せる。部長や美咲と手合わせして、それを見た人が『面白そう』って思ったら、勧誘のチャンスが生まれる」


俺は自分でも半信半疑な計画を口にした。


「強い人がいる部活なら、入りたいって思う人もいるかもしれない。特に、初心者でも歓迎してるってアピールすれば……」


「でも……」


神代がまだ迷っている。


「それに」


俺は続けた。


「白鳥さんに『過去三年間そんな例はない』って言われて、黙って諦めるのは癪じゃないか?」


美咲が目を見開いた。


佐藤も震えるのを止めた。


神代が俺を見つめ、目の涙がゆっくりと消えていった。


代わりに、微かな光が灯った。


「周……あなた……」


「勘違いするなよ」


俺は慌てて付け加えた。ここで変な誤解をされたら面倒だ。


「医療費も借りてるんだし、せめて試すくらいは手伝おうかなって思っただけだ」


「それに、俺も暇じゃないから。本気でやるなら、ちゃんと計画立てないとダメだぞ」


……嘘だけど。


実は俺も自分がなんでこんなことをしようとしてるのか分からない。


多分……


多分、あの白鳥の冷たい態度が気に食わなかったんだろうな。


それと、神代部長の涙を見たくなかった。


この人、普段あんなに強気なのに、さっきは本当に泣きそうだった。


それが、なんというか……


放っておけなかった。


「……ありがとう、周」


神代が笑顔を見せた。


まだ涙の跡が残ってるけど、確かに笑顔だ。強い意志を感じる笑顔だ。


「じゃあ……頑張ってみようか」


「はい!」


美咲が力強く頷いた。さっきまでの沈んだ雰囲気が嘘みたいだ。


「ぼ、僕も……できることは……します……」


佐藤が小さな声で言った。それでも、さっきよりは顔色が良くなっている。


俺は三人を見た。


そして心の中でため息をついた。


……俺、何やってんだろうな。


自分だって処理しなきゃいけない問題が山積みなのに。


190万の借金。


108万の通話料金。


それに修行のこと。


今度は五人目の部員探しまで手伝うことに……


完全にキャパオーバーだ。


でも……まあいいか。


「周」


神代が近づいてきて、俺の手を握った。


「一緒に、剣道部を守ろう」


彼女の手は、温かかった。


眼差しは、真剣だった。


そして、その瞳には——確かな希望の光が宿っていた。


「……ああ」


俺は頷いた。


これがスポーツ漫画のベタな展開だって分かってる。


成功率が低いって分かってる。


でも……


まあいいか。


二週間、付き合ってやるよ。


* * *


その日の夜。


俺は自分の部屋で、天井を見上げながら考えていた。


剣道部の部員探し。


どうやって一人を見つける?


デモンストレーションって言ったけど、具体的にどうすればいいんだ?


そもそも、剣道に興味がある人間なんて、この学校にいるのか?


「……とりあえず、明日から動くしかないな」


俺は携帯を手に取り、スケジュールを確認した。


二週間後が期限。


時間がない。


でも、やるしかない。


なぜなら——


俺は一度言ったことを、簡単には撤回しない性格なんだ。


前世でも、そのせいで色々と苦労したけど。


「……ま、なんとかなるだろ」


俺は携帯を置き、目を閉じた。


明日から、また忙しくなりそうだ。


でも、不思議と嫌な気分じゃなかった。


むしろ、少しだけ——


ほんの少しだけ、楽しみだった。


この世界に来てから、初めて自分から何かに関わろうとしている。


それが、なんだか新鮮だった。


「……よし」


俺は決意を固めた。


二週間で、絶対に五人目を見つける。


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