表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
31/99

第31章 少林寺の過去

周天明は佐藤修二の襟を掴んだまま、虚空に吊るしていた。風が吹き抜け、初秋の涼しさと安神香の余韻を運んでいく。深呼吸をして、不可解な怒りを強く抑え込んだ。彼にとってこの怒りは実に不可解だった。彼の性格からすれば他人のことにこんなに気を取られるはずがない。しかしなぜか、佐藤修二の絶望的な様子を見ると、心の怒りが抑えられなかった。


「俺は昔、中国の少林寺にいたことがある」静かに言った。声は風の中で格別に明瞭だった。「寺には演武台があって、僧侶たちが武芸を競う場所だった。当時、俗家弟子がいた。張って姓で、金持ちの家で、寺に大金を寄進してた。それをいいことに、毎日演武台で新しく来た小坊主をいじめてた」


声が少し震えた。「あいつらは言ってた。小坊主たちはみんな孤児で、寺が可哀想に思って引き取ったんだって!親なし子の野郎どもだって!」


佐藤修二は呆然とし、どうしていいか分からなくなった。まずい、こんなプライベートな過去なんて知るべきじゃない。自殺しようとしている人間が、屋上の縁で吊るされて、この転校生の昔話を聞かされる。どう考えても異様な光景だ。


「いじめの首謀者は少林拳を数年習ってた」周天明が言った。声には抑えた怒りが滲んでいた。「俺が寺に来たばかりの頃、俺はそいつに勝てなかった。俺も孤児で、寺に引き取られたからな」


「き、君も……」佐藤修二の声に驚きが混じった。


「ああ、俺も孤児だ」周天明は平静に言った。「両親は俺が小さい頃に死んだ。交通事故でな。親戚もいなくて、孤児院に送られて、それから少林寺に送られた。方丈が引き取ってくれたのは、俺に何か借りがあったからじゃない。慈悲心からだ」


「このことは方丈には言わなかった。俺自身のことだからな」周天明は低く言った。「ただ方丈に毎日もっと修行させてくれと頼んだ。一年かけて、少林の基本功を全部完璧にした。それまで誰も、十代の孤児にできるとは信じてなかった。でも俺は一年以内にやらなきゃいけなかった。一年過ぎたらあいつが寺を出るかもしれない。そしたらぶん殴れなくなる」


「おお!」佐藤修二が小さく感嘆した。


「あいつが寺を出る前日に喧嘩を仕掛けた。あいつが拳を繰り出すたびに、俺は木剣で手首を叩いた。一年間、毎回の練習で空中に向かってこの打撃を練習した。あいつの拳がどう来るか、俺がどう打つか想像しながらな。あいつは起き上がるたびに信じられないって顔で『なんでいつも当てられるんだ?』って言った」周天明の声がかすれた。「答えなかった。当然当てられるさ!一万回練習したんだからな!」


佐藤修二を掴む手に力が入った。「誰でも自分の命を自分の手に握れる。自分にできると信じさえすればな!」


佐藤修二は呆然と彼を見つめた。周天明の目の中で鍛冶の火花のように何かが跳ねていた。


「周……周くんすごいね……」しばらくして、佐藤修二がぼそりと呟いた。


「俺が言いたいことを分かってほしい」周天明が言った。「お前が飛び降りようが俺の知ったことじゃない。でも生きることだけは、諦めないでほしい!」


「周くん、あんなにボコボコにして、その後寺とどう話をつけたの?」佐藤修二が突然聞いた。


「あいつの両親が寺に来て、俺は方丈のところに行くしかなかった」周天明は額を掻いた。「方丈ってのは……実は身内に甘いんだ……殴った理由を聞いた後、ただ淡々と『善哉』って言っただけだった」


「善哉?」


「とにかく……すごく落ち着いた感じでな。それから一番いい袈裟を着て、寺の武僧を何人か連れて、あいつの両親に会いに行った。両親は陣容を見て、気勢が削がれた」周天明は首を振った。「でも結局俺が殴ったわけだし、両親はわめいてた。言葉の端々に、俺みたいな孤児の野郎が恩知らずだって。たぶんあいつが家で両親から聞いた言葉を、寺でオウム返ししてただけなんだろうな」


「方丈は怒った?」


「いや、方丈はすごく冷静だった。方丈は言った。『この件はな、お宅の息子が先に私の弟子を侮辱したことから始まってる。これは事実だ。家柄を論じるなら、お宅がいくら金持ちでも俗世の金だ。仏門では同じことだ。しかし私の弟子は実力でお宅の息子に勝った。これは根骨が良く、悟性が良いということだ。これらは全て天賦の才だぞ!お宅の息子は何年も修行したのに、私の弟子に一年で追い越された。これは資質が足りないってことじゃないのか?そうだ、お宅の息子はそもそも武術に向いてないんじゃないか?じゃなきゃなんでこんなに弱いんだ?何年も修行したんだろ?私の弟子は一年で勝ったぞ。息子さんを連れて、修行の方法が間違ってないか診てもらったらどうだ?』」周天明は苦笑した。「方丈は治療費を置いて俺を帰らせた。方丈ってのは、口も達者なんだ」


「方丈すごい!」佐藤修二が親指を立てた。


しかし彼は突然笑うのをやめ、涙が再び流れ落ちた。「でも……でも周くんは違うんだよ……」


「何が違う?」


「君は孤児だけど、少なくとも……少なくとも才能があるじゃないか!」佐藤修二の声が泣き声になった。「君は武術ができる、根骨がある、一年で人に勝てる!でも俺は?俺には何もない!」


涙が止まらなかった。「俺も山口たちと喧嘩したことがある。理由は君とほぼ同じだ。山口たちは俺をゴミだって言った。生きてるだけで空気の無駄だって。その後学校が保護者を呼べって言って、俺は母さんに話した……」唇を舐め、声が震え始めた。「母さんは俺を頭ごなしに怒鳴りつけて、俺を引っ張って山口たちに謝らせた。掃除当番を手伝わせた。そうすれば賠償金が少し減るからって……家に帰ったら、母さんが父さんに言ってるのが聞こえた。『この子はなんでこんなに役立たずなんだろう、人に勝てないだけじゃなくて賠償金まで払わなきゃいけない、本当にゴミね……こんなに大きく育てるのにどれだけ金の無駄だったか……』って」


周天明の手が微かに震えたが、それでも佐藤修二の襟をしっかりと掴んでいた。


「その後まる一ヶ月、山口たちの掃除当番を手伝って、夜家に帰ったら家事を全部やって、母さんに『また問題起こしたら出て行け、ゴミは養わない』って言われて、父さんは横でタバコ吸って、俺を見もしなかった……」佐藤修二はまた泣いた。絶望的に泣いて、涙と鼻水が一緒に流れた。「だから周くん、君は孤児だけど少なくとも才能があるじゃないか!少なくとも武術ができる!少なくとも復讐できる!」


「でも俺は?」


「俺には才能すらない!」


「体は弱い、走れない、喧嘩に勝てない!」


「武術を習いたいって言ったら、母さんは『何の武術?ちゃんと勉強しろ!問題起こすな!』って」


「反抗しようとしたら、怒られて殴られて罰される!」


佐藤修二の声は絶望に満ちていた。「分かる?この世界には、孤児でも才能と努力で這い上がれる人がいる。でも親がいても、自分を嫌う人間が二人増えただけの人もいるんだ……」声が混濁し、体全体が空中で震えていた。「君には少なくとも選択肢がある。武術を選べる、復讐を選べる、運命を変えることを選べる……でも俺は?俺には選ぶ権利すらない。ただ耐えて、受け入れて、いじめられるのを待つだけ……」


周天明を見つめた。目は絶望で一杯だった。「周くん、君は才能のある人間で、俺は才能のないゴミだ。こんな風に人を分けるのは大嫌いだよ……だって、俺のことを正確に分類してるから」


「君は一年で悪党に勝てたけど、俺は十年やっても山口に勝てない」


「君は孤児だけど、少なくとも方丈が守ってくれて、武術を習う機会がある」


「俺は親がいても、ゴミだって罵られるだけ」


「ゴミに勇気と希望の話はするな」目を閉じた。涙はまだ流れていた。「だってゴミには強くなる資格すらないから……」


屋上が静まり返った。


風が吹き抜け、佐藤修二の言葉を運び去り、熱気も少し運び去った。


周天明の手はまだ佐藤修二の襟を掴んでいたが、突然何を言うべきか分からなくなった。


佐藤修二の言うことには……一理あった。


誰もが武術の才能を持っているわけじゃない。


誰もが努力で運命を変えられるわけじゃない。


本当に才能もなく、機会もなく、希望もない人もいる。


そういう人に、どうやって勇気を持てと言う?


どうやって反撃しろと言う?


どうやって明日はもっと良くなると信じろと言う?


周天明は虚空に吊るされた佐藤修二を見つめた。追い詰められたこの少年を、その目に宿る完全な絶望を。


その瞬間、前世の少林寺時代、ある時山の麓の村で小さな乞食が殴られているのを見たことを思い出した。その子は地面に倒され、周りの人々は見物するだけで、誰も助けなかった。子は起き上がって逃げようとしたが、また蹴り倒された。泣いて許しを乞うたが、あいつらは笑うだけだった。


当時若かった周天明は飛び出して、殴っていた屑どもを全員叩きのめした。


良いことをしたと思った。


しかし翌日、また村を通りかかった時、その子がまた殴られているのを見た。


しかも前日よりひどく。


屑どもは言った。「昨日助けを呼んだだろ?今日はあの坊主はいないぞ。誰がお前を救えるんだ!」


その瞬間、周天明は悟った。


一度の救援で解決できることもある。


一度の勝利で運命を変えられる人もいる。


でも強大な保護者が去った後、弱者は弱者のままだ。


そして悪人は、さらにひどくなる。


可哀想な佐藤修二は、あの小さな乞食のように、本当に才能もなく、機会もなく、希望もない人間なんだ。


時に現実はこんなに残酷なんだ。


しかしその時――


周天明が突然笑った。


奇妙な笑みだった。


嘲笑でもなく、同情でもなく、諦めでもない。


それは……決意だった。


「お前の言う通りだ」突然口を開いた。声はとても平静だった。「俺には確かに才能がある。お前には確かにない」


「だから――」


目つきが鋭くなった。


「俺が手伝う」


「え?」佐藤修二が呆然とした。


「俺が手伝うって言ってるんだ」周天明が繰り返した。「才能がないって言ったよな?構わない、俺にある。武術ができないって?構わない、俺が教える。山口に勝てない?構わない、俺が一緒に戦う」


「き、君……」


「お前を強者にする」周天明の声は誓いのようだった。「俺が武術を教える。時間をかける。復讐を手伝う。一日じゃない、一ヶ月じゃない。一年でも、二年でも、三年でも、お前が自分の手で山口を倒せるまで」


「ただし条件がある――」


佐藤修二を勢いよく屋上に引き戻し、地面に叩きつけた。


「生きろ!」


佐藤修二は地面に這いつくばり、荒く息をついた。命拾いした感覚で体全体が震え、涙と鼻水が地面に流れた。顔を上げ、屋上の縁に立つ周天明を見つめ、唇を動かして何か言おうとした――


その時――


突然強風が吹き荒れた!


普通の風ではなかった。秋特有の突然の強風。巨大な力を伴い、何の前触れもなく屋上全体を横切った。木の葉が巻き上げられ、小石が吹き飛ばされ、屋上の全員がよろめいた。


「危ない!」石川先生が叫んだ。


しかし遅かった。


周天明は屋上の縁に立っていた。さっき佐藤修二を引き戻したため、重心が完全に外側に傾いていた。そしてこの強風が、横から不可抗力で吹きつけた。


足が縁で滑った――


体全体が後ろに傾き始めた!


「周くん!」神代咲が悲痛な叫び声を上げた!


その千載一遇の瞬間――


地面に這いつくばっていた佐藤修二が、無意識に手を伸ばし、周天明の足首を掴んだ!


しかし周天明の体は巨大な慣性で落下し、その力で佐藤修二も引きずられた!


「ああ――!」


二人一緒に屋上の縁を越えた!


一緒に七階下の地面へと、落ちていった!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ