2-4『深読み大名、またも沈む』
――愚愚流国・城内。
「布団、だと……?」
武田深限は、巻物を握りしめながら震えていた。
「“尾張藍国において、布団は戦術・経済・宗教・文化の中心にある”と……!」
参謀たちはそっと目を伏せた。
いつもの、深限の“深読みモード”が始まる気配がしたからである。
「殿、さすがに布団は……ただの布団かと……」
「馬鹿者ォォォォ!!」
机を叩いて立ち上がる深限。語尾に怒鳴るタイプ。
「敵は、我らが“眠る”瞬間を狙っているのだ!!」
「えっ……眠り……ですか?」
「そうだ!布団によって、民を眠らせ、兵を眠らせ……隙を突く戦術!!」
「殿、それただの快眠じゃないでしょうか……」
「よし、命ずる――“睡眠制限令”を発布する!!」
「ちょっ、早い!!」
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翌日、布告が全国に張り出された。
> 『睡眠は一日三時間までとする!』 『布団の柔らかさは敵の罠と心得よ!』 『見回りは二時間おき、寝落ち厳禁!』
結果――
兵たちの目の下には、たっぷりのクマができた。
訓練場では、すれ違う兵同士がぶつかる。
「前が……見えぬ……」
「もう寝かせてくれ……枕の夢が……」
「それ、禁句だ!!布団発言禁止だ!!」
参謀の一人が慌てて駆け寄る。
「殿、このままでは軍の士気が……!」
「黙れ!敵は今頃、布団に包まれて笑っているぞ!」
「……羨ましいだけでは?」
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それでも、深限の深読みは止まらない。
「そもそも、“布団刀法”とは――“戦わずして眠らせる戦術”……!」
「我らが敵の夢の中で敗北する……そういう可能性もある!!」
「夢で!?我々、夢で負けるの!?」
「よし……対抗せねば……!」
「ま、まさかまた――」
「“夢境対抗部隊”を創設する!」
「出たああああああ!!!」
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その日の夕刻。
武田深限の私室には、「絶対に眠らないセット」が持ち込まれていた。
・超硬質竹マット(眠気ゼロ)
・小石入り枕(悪夢保証)
・“起きろ”と叫ぶ目覚まし烏(夜中に三度飛来)
「これで我が精神も冴え渡る……!」
そのまま三日後――
> 武田深限、意識混濁で倒れる。
「……夢の中でも……尾張が……ふかふかだった……」
そうつぶやいて、深限は昏倒した。
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そして。
芝田がその報を聞いた時――
「……ふかふか、ですと?それは“殿の理”が、隣国に届いた証……!」
羽芝は目を閉じて言った。
「……芝田、頼むから、現実を見てくれ……それ、布団じゃなくて、過労……」
だが芝田はすでに“布団外交”の準備に取りかかっていた。
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こうして愚愚流国は、
**“眠らぬ戦略”という悪夢の道**を歩み、
尾張藍国は、“眠りながら勝つ国”として
またひとつ、確かな一歩を踏みしめたのであった。
やわらかい布団の上で。