2-3『布団で回る尾張経済』
――数日後、城下町。
「“殿の夢告にて見えた峡谷”専用の枕、入りましたー!」
「“布団刀法専用・高速飛び起き式布団”も本日入荷ー!」
「“空を裂く構造”!“谷を支えるクッション力”!今なら先人の知恵つき!!」
羽芝は立ち尽くした。
(……布団、売れすぎてない?)
通りには新しい店が立ち並び、看板には「神の理の店」「夢の寝具屋」「先人の御布団」といった謎ワードが踊っている。
芝田が誇らしげに説明する。
「この“布団経済圏”こそ、尾張の未来です!」
「もう布団って言えば何でも許されると思ってない!?」
「ちなみに現在、布団関連の商業税収が前月比600%でございます」
「経済指標で黙らせてくるなあああああ!!」
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城内・会議室。
「殿、こちらが布団経済報告でございます」
「布団関連産業、取引量が農産物を超えました」
「“神の理ブランド”が他国でも人気となり、“夢枕”が貢物として献上される事例も……」
羽芝が机に突っ伏した。
「殿……もう、我が国は布団に征服されてます……」
智長は静かに茶を啜り、ぽつりと呟く。
「眠りの質が、国家の質に直結する。これは……道理だ」
「道理じゃない!それ寝具会社の宣伝文句だから!!」
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市場の奥。
「夢の中で商品が出てきた」
「寝てたら“枕が喋った”」
「“先人の知恵の箱”の幻を見た」
……という客の証言をもとに、枕職人たちが新製品を開発していた。
> 『幻視枕』『夢境導入寝具』『知恵の気配を感じる綿入り』などなど。
芝田が張り切って広報する。
「“布団とは神の理を敷き詰めたものである”――これが尾張の理念です!」
「聞いたことないわそんな理念!!!」
「殿の寝姿からインスピレーションを得て、我が弟子たちが“神寝式デザイン”を生み出しました!」
「弟子!?芝田にそんなのいたの!?」
「先日、勝手に任命しました。認定制度も作成済みです!」
「なんでも作るなあああ!!」
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そして夕方。
智長がひとこと呟いた。
「人はよく眠れば、よく生きる。それだけだ」
この言葉が、翌日には城下のあちこちで垂れ幕になり、
翌週には隣国の城下に“輸出”されていた。
羽芝は震える手で、ふとん屋の看板を見つめた。
> 『布団で回る尾張経済――すべては眠りの中に。』
(……おかしい。なぜこんなに布団が力を持っているんだ……)
その夜。
羽芝は、眠る智長の部屋の前でつぶやいた。
「殿……本当に、寝てるだけで国が回ってますよ……」
でも、その寝顔は――とても、幸せそうだった。