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幕引き

 危険だからと外へ飛び出そうとしたセシリアは、医師や護衛達に止められ、診療所で大人しく外の気配を窺っていた。


 本当は皆と王宮へ行き、何が起こっているのか見定めたかったが危険だと諭され、仕方無く診療所の留守番に甘んじている。

 耳を澄ませると遠くで地鳴りの様な群衆の声が響くが、何を言っているかまでは聞こえてこない。


 だが、明らかに王はやり過ぎたのだ――と額に手を置いてセシリアは溜息を吐いた。


 何故、あそこまで正妃様とジリアン王子を疎むのか理解できない。

 愛する女性との間に生まれたアベル王子がいくら可愛くても、国王と言う立場をもっと弁えていると思っていたのに…………


  ――好きと言う感情は、そこまで人を愚かにするのだろうか?

  大勢の国民の困窮がどうでも良くなるほど盲目的に?


 自分の中に燻る想いに蓋をしながら、背筋が寒くなる。

 セシリアはクリストファーの婚約者であるエウノミアを押しのけてまで、彼と結ばれたいとは思っていない。

 ただ、クリストファーには幸せになって欲しいと思う。

  誰かが自分の為に不幸になって欲しくない――


クリストファーとエウノミアの現状を知らないセシリアは、醜聞まみれの自分がクリストファーに近付いてはいけないと、輝かしい場所に立つ資格が無いと思っていた。


 *


 ――――どのくらい時間が経ったのだろう。


 考え込んでいると、ドタドタいう足音と共にロイ医師が汗だくで駆け戻って来た。

 外はまだ人気が無く、王宮へ向かった近所の人達は戻って来ていない。


 蹴破る勢いのまま大急ぎで扉を開けたロイ医師は、部屋に飛び込むと同時に近くにあった木製の椅子に足を引っかけて盛大に転び、慌てて駆け寄って来たセシリアに向かって大声で叫んだ。


「……ついに!王政が終わりました……!この国の約900年の歴史が……今日で終わりを告げました……‼」


 ロイ医師は、王宮へ着いたら門に立つ門番自らが王宮への門を開いた事、近衛兵も王へ反旗を翻し、押し寄せる民衆を止める事無く王宮の中庭が怒り狂った民衆で埋め尽くされた事をまくし立てた。

 集まった人々は数千人に上り、門の外をも取り囲んで王を非難し罵った事を伝える。

 セシリアは複雑な表情をして耳を傾けた。


「それから、王宮内で議会が動いたんだそうです……!このままでは反乱やデモが起きてせっかく持ち直してきていた経済が危うくなる。危機感を覚えた上院の貴族達も、しぶしぶ民主制への移行に賛成した様です」


 そこで一旦言葉を切ったロイ医師は、すうっと息を吸い込んでから、改めて姿勢を正して言った。


「――――それから、貴族制も廃止となる、と宣言がありました。領主貴族の統治権が廃止され、貴族達は免除されていた税金を納める様になります。土地は領民達に分け与えられ、屋敷は手元に残されることになりましたが、高額な課税によって貴族達はあっという間に屋敷を失うでしょう」


 それは領主貴族であるセシリアが覚悟していた事であった。

 ついに――と言う眩暈を伴う感慨と共に、肩に圧し掛かっていた責任が消え去り、寂寥感と足元が崩れてぽかんと穴が開いたような感覚に襲われる。


「――――では、私は今からただのセシリアになるのね」


 護るべき領民はもう居ない。

 貴族の義務から解放されて、平民になる。


 まだ実感はなく、何となく生まれた時から在ったものが剝ぎ取られて放り出された気がする。

 だが、今日から生活は一変するだろう。


 戸惑った様子のセシリアに、ロイ医師が優しく声を掛ける。


「……ああ、君は自由になったんだよ。もう今まで君を縛っていたものは無くなった。そう考えると、平民も悪くないよね?」


 

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