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欠けてゆく月の宴

 あんなに疲労を覚えるアリアとのやり取りは何だったのか……


 本人は後ろめたい事などしていないつもりなのだろう。いつも通りのシモンの様子に肩透かしを食らいつつ、セシリアは隣国の公爵家の夫婦と歓談していた。夜会は和やかに始まり、ホールではあちこちで挨拶が交わされ、大小の人の輪が出来ている。


 ――今日もまたシモンはアンジェリカとルイーゼと共にお喋りに興じ、領地経営の話には関心が無い。

 もうすぐアカデミーを卒業してセシリアと結婚するはずだが、経営に携わる気の無さそうなシモンにセシリアは徐々に不安を覚えていた。


 シモンが何を考えているのか分からない。


 待ち望んでいたシモンとの結婚がむしろ憂鬱になっている。


 ……このまま結婚しても良いのだろうか?と言う疑念が暗く心に染み出て唇を噛んだ。


 結婚すればシモンはセシリアと共に暮らすのだが、アリアとも一つ屋根の下で暮らす事になる。

 アリアのあの様子からも、シモンを慕っているのだろうし、さらにはシモンが初対面の時にアリアを見つめていた、熱を帯びた瞳。……あの時の胸を掻き毟られる焦燥は忘れられない。


 シモンの曖昧な態度で本心が測りかねているが、もしかしてシモンはアリアに惹かれているの事を無自覚なのではないだろうか?

 誰も傷つけないようにと無意識に振る舞っている様な気がする。

 だが、いつか隠せない本心が露わになるだろう。

 ……その時、自分が選ばれることは無いのだ……とセシリアは確信していた。


 不安を誤魔化す為にセシリアは仕事中毒になっており、それでも消せない不安に、成す術なく足搔き続けているのだった。


 ――そして、これだけでも手一杯なのに、もう一つ懸念材料が出てきた。

 

 今朝、ネロが勤めていると言っていた大衆紙の新聞を買ってみたのだが、驚く事に昨日の轢き逃げの事件と共にセシリアを賞賛する記事が一面トップの大見出しで掲載されていた。

 誇張された美辞麗句と共に、まるで天使のような羽根を生やしたセシリアが民衆を腕の中に囲って護っている様なイラストが添えられていて困惑する。


 対照的にセシリアが毎日読んでいる貴族向け新聞には、一切、事件の記事は載っておらず、ラインホルトへ忖度したのだろう事が察せられた。


 両方の紙面を見て、セシリアはネロが好意でセシリアを持ち上げてくれただけでなく、大衆紙が”平民の味方をする貴族”としてセシリアを祭り上げたいのだという意図を感じ取り、それに巻き込まれたのだと知って溜息を吐いた。


 現在の貴族と平民の対立の中で、有利に事を運びたい双方が駆け引きを繰り返す。

 恐らく新聞を読んだ平民達は、正妃様に続きセシリアが平民の味方なのだと盛り上がり、一致団結して高揚するのだろう。


 今の所は貴族達から話題にされていないが、今後この件がどう転ぶか分からない。

 市民には評判が良くなるだろうが、ラインホルトの様な貴族からは反発を招く事が予想され、今後の混乱を考えると気が重くなりそうだった。



 ホールを回って次々と外国の要人と言葉を交わし、疲れを覚えたセシリアは、そろそろ休憩しようと雑踏から離れ、ワイングラス片手に壁際の椅子へ移動した。


 相変わらずアベル王子とマリウスは人に囲まれていて、気軽に声を掛けられない程の人気だ。


 ――そういえばシモンはどこにいるのだろう?とホール内を見回した時だ。



 ――スッとセシリアの目の前を人影がよぎった。

     何気なく顔を上げた瞬間――――


  セシリアの身体から力が抜け、視界が暗転し、意識が途切れる。

  ぐらりと傾いだ拍子に手からワイングラスが滑り落ち、ことん、とワインを散らして床に転がった。

  

 ……その様子を観察していた人物はワイングラスを拾い上げて椅子の上に置くと、人目につかない様に……まるで酔ったセシリアを介抱している様な素振りで彼女を人目につかない方へ運び出した――――――


 



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