クリストファー 2
クリストファーがジャケットを脱いで、セシリアの頭から被せて隠してくれる。
目立たない様に侯爵邸に入ったクリストファーは、すぐ近くにいた使用人に声を掛け、セシリアを応接室のひとつまで手を引いて案内してくれた。
そこは皆がお茶会をしている部屋とは少し離れた場所にあり、向こうの広い社交用ではなく、こちらは侯爵家の親類など近しい人達が使うプライベートエリアにある部屋だった。
良いのだろうかと思ったが、このままの姿でいるわけにもいかない。
クリストファーに言われるままソファに座ったセシリアは、間もなく現れた使用人に髪の毛を直してもらい、手の傷には包帯を巻いてもらった。
その間、クリストファーがどこかに行っていたが、戻って来た時には、この屋敷の主人である、アンジェリカの母、ブルック侯爵夫人を伴っていた。
「まあ、セシリア嬢……!何て姿なの、可哀想に!どこかの令嬢にいたずらされたのですって⁈私の屋敷内でそんな暴挙は許されませんわ。どこの誰にされたか教えて下さる?」
セシリアのボロボロのドレスを見るなり憤った侯爵夫人は、痛ましそうにセシリアの手を取った。
本気で心配してくれているのが伝わってくるが、セシリアは返答につまる。
夫人の後ろでクリストファーも怒った表情を隠さない。
「数人に囲まれていたよね。怒鳴ったらすぐ逃げたから誰かまでは分からなかったけど、何て卑怯なんだ。一体、何があったか教えてくれないか」
「クリストファーが助けてくれて良かったわ。待っていてね、今、ドレスの替えを用意させるわ」
セシリアの額に冷や汗が流れる。
二人に詰め寄られるが、事実を告げてはマズいのではないか。セシリアは何とか誤魔化そうと口を開こうとした。
その時、ドアがガチャリと開いた。
「クリストファー、呼んだ?何か私に用事があるって……」
はずんだ、嬉しそうな可愛らしい声を出して、勢いよく入って来たのはアンジェリカだった。
セシリアが強張るのと同時に、アンジェリカが室内にクリストファーだけでなく、使用人や侯爵夫人がいるのにポカンとする。
クリストファーに呼ばれて浮かれていた彼女は、何やら勘違いをして来た様だった。
重い空気が漂っているのにアンジェリカが戸惑う。
何があったのかと見回した瞳がセシリアに気付くと、アンジェリカの表情がぐにゃりと憎しみをこめて歪んだ。