表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/99

敵対者

 アンジェリカの険しい表情や、周囲のにやにや笑う令嬢の顔からも、呼び止められたのが良い話でないのは明らかだった。

 どうしよう、と思うが、人気のない方へ歩いて来たせいもあり、周りに他の人達がいない。

 足がすくんでいると、どん!とアンジェリカがセシリアの胸を突いた。


「……あなた、ちょっと評判がいいからって、いい気にならないでよ。たかが伯爵家のくせに」


 よろめいて呆然とアンジェリカを見返すと、名前も知らない令嬢たちが同調する。


「そうよ、生意気だわ」

「あなたなんか、家柄でもアンジェリカ様にかなわないんだから」

「クリストファー様の婚約者には、アンジェリカ様がふさわしいわ」


 クリストファー?

 訳が分からず無言でいると、アンジェリカが蔑む様な目つきで肩を竦めた。


「ねえ、何なのこの子?さっきから喋らないじゃない。口がきけないのかしら?お茶を飲んでいる時も、あなたの母親ばかりうるさく喋っていて、あなたはボーッとしてたわね。噂では賢いとか言われていたけど、逆なのではなくて?」

「そういえば、この方、他のお茶会でもほとんど喋らないんですのよ」

「私も他のお茶会で見ました。皆がお話する中、置物みたいに黙ってますのよ。変なひとと思ってましたわ」


 ……だって、何を話せばいいのかわからないのだ。

 セシリアはうな垂れた。

 皆が好きな事を話すけれど、セシリアは勉強以外の話ができない。

 刺繡や詩歌は母親に言われてこなしているが、母が許可しないものはできないから、楽しくないし、楽しいものを知らない。

 セシリアは空っぽだ。


「聞いてますの?何とか言ったらどう?」


 一人の令嬢に強く肩を押されて、セシリアはすぐ脇に生えていたコニファーの生垣にぶつかった。

 上げた手の甲を刈り込まれた枝の切っ先がえぐり、うっ、と呻いてセシリアは傷を押さえた。


「あら、やっと口をきいたわ」


 アンジェリカが馬鹿にした口調で言う。


「……何のご用ですか?」


 セシリアが重い口を開くと、アンジェリカはギリッと眉を吊り上げた。


「そうやって澄ました顔が気に入らないの。褒められて思いあがってるんでしょう?大人たちにちやほやされて、私達とは喋りたくないわけ?ずいぶんと偉そうね」

「そうよ、お母様にあなたと比べられてウンザリしてるんだから。ろくに喋れないお馬鹿さんなら、お馬鹿さんらしくしてなさいよ」


 どん!とまた別の令嬢に押されて、セシリアは生垣に倒れ込んだ。

 メキメキと音がして細枝が折れ、ドレスに突き刺さり、セシリアは青ざめた。

 引き抜こうとすると、枝が引っ掛かって布地がさらに破れてしまう。

 膨らんだスカートにはたくさんの繊細なレースがついていて、絡んだ枝ともつれてビリビリに破け、糸がほつれ、見るも無残にぶら下がった。

 こんな格好ではみんなの前に戻れない。

 慌てるセシリアを令嬢たちはあざ笑った。


「やだ、ドレスがボロになっちゃったわ。恥ずかしくてパーティーに戻れないんじゃなくて?」

「うふふ、みっともない。さっさとお帰りになったらどう?」

「あらあら、セシリア様がそそっかしいので、ドレスをダメにしてしまいましたわね。ボーッとしていちゃダメじゃありませんか」

「賢いどころか、ぼんやり令嬢じゃない。今度からぼんやり令嬢って呼ぼうかしら。ぼんやり令嬢にはボロがお似合いですわよ。そのまま歩いて帰ったら?」


 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ