表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
49/116

ハート伯爵領 主都ブライトゼム<1月2日>

 「ーーーーこれまでずっと、お嬢様が手紙を寄こしてただってーーーー⁈」


 ハート伯爵領、主都ブライトゼムに住む総差配人 エドワード・スコットは、ソファにちまっと座るちびっ子……もとい、ハート伯爵家息女セシリア・ハートと対峙し、愕然としていた。


 領地の管理を管理人に任せきりにし、領民の山のような嘆願を無視し続けていた不届き者のハート伯爵が、4,5カ月ほど前から急に連絡を寄こし始めたので、やっと改心したかとむせび泣いていたのに、その涙も驚愕で引っ込む。


 ーー年が明けた1月2日。

『カントリーハウスへ滞在するので、総差配人に挨拶に伺う』としたためた手紙が届いたので、ハート伯爵か奥様が来るものだと思って、普段飲めないお高い紅茶を用意していたのだが、スコット弁護士事務所の扉を押し開けてやって来たのは、長身のエドワードの半分くらいしかない、見下ろすと頭のつむじしか見えないーー人形が動いているのかと見まごうばかりの美少女ーーセシリア・ハート伯爵令嬢だったーー


「……君、スコット氏と言ったかな?折角の良い茶葉なのにお湯がぬるい。これじゃお茶への冒涜だ。淹れなおしてくれ。メイドはいないのか?ーーそれにしても、狭い事務所だな。これで仕事が来るのか?」


 ーーそして予想外の客も連れて来てくれたので、エドワードは動揺しながら、作り笑いを顔に張り付けていた。

 セシリア嬢と並んで安物のソファに堂々と座っているのは、国民の間で人気で肖像画も出回っている、国王の令息、アベル王子だ。

 平民がまず会う事のない雲の上の方で恐縮しているーーが、言う事がまるで小姑。余計なお世話である。

 不敬罪が怖くて反論できないでいると、セシリアの隣に座る大人びたベルトラン家の令嬢、ミラ・ベルトランが溜息を吐いて、アベル王子をたしなめた。


「殿下。ここへはティータイムを楽しみに来たわけではありません。ハート伯爵領の領民のために来ましたのよ。国民を救う大事の前の些事に、気を取られている場合じゃございませんわ」

「それもそうだな」


 素直に納得した王子にホッとしたものの、ミラ嬢の口から出て来る言葉が、まだ幼い外見からは想像のつかないしっかりした物である事にエドワードがよろめく。

 ただでさえ狭い事務所内は、セシリア、ミラ、王子と友人のマリウス、更には王子やミラの護衛が詰め込まれて過密気味だった。


 しかし、それはどうしようもないので今は良い。

 とにかく確認しなければならないのは、セシリアの話だ。


「驚かせてしまい、申し訳ありません。父はご存じの通り領地経営を放棄し、母は経営を学んだ事が無いため、スコット氏から上がって来る報告書に対応できず、放置したままだったのです。私が報告書を読ませていただいたのですが、このまま放置すれば領民に深刻な困窮が拡大していくと胸が痛みました。これまでのスコット氏の警告や非難を受け止め、将来の領主たる私が、僭越ながら一刻も早く改善しなければと考えた次第です」


 ーーーーこれが7歳だって?


 エドワードは、とんでもないお嬢さんがいたもんだと、耳を疑った。

 ミラ嬢もたいがいだと思ったがーー『ハート伯爵家令嬢は賢いと有名だ』とは聞いていたが、大袈裟だろうと高をくくっていたのが間違いだったと知る。

 下手な大人より立派な口上を聞かされて、冷や汗が止まらない。

 

「この半年、やり取りしていたのはご令嬢だったとーー?」


 信じ難くて聞き直すが、セシリアは淡々と頷いた。


「ええ。様々な質問にお応え頂き、ありがとうございました。因みに私の指示で動いていた事がご心配でしたら、法律上問題はありませんわ。ーー世襲貴族の継承については原則的に爵位は終身制ではありますが、前時代の戦時中の特例がまだ生きておりまして、"爵位保持者が機能不全となって1年が経過している場合、直系血族のみに限り爵位代理人となり、領地及び領民の保護に努めることが出来る"とされているのは、弁護士であるスコット氏ならご存じかと思います。今回の場合、父が領地経営をないがしろにしている事は既に有名で、かつ領民の困窮が著しく、救済が緊急に必要な事は明白。そのため領民の保護を目的とした合法の代理として私が動いたと言う訳です」


 ーー知っているが、そうじゃなくて……!

 ぐうの音も出ない正論だが、エドワードが困惑しているのはそこでは無い。

 何なのだ、この規格外のお嬢様は。

 儚げな見た目をしているが、異様に冷静な瞳に気圧される。

 しかも、王子まで連れて……ただ挨拶に来たわけではあるまい。

 妙な胸騒ぎがするのは、きっと気のせいじゃない。


「ーーこれから何をしようとしているんです……⁈」


 エドワードは動揺で冷や汗の止まらない額をハンカチで拭いながら、チラッと、居並ぶそうそうたる面々を窺い見た。

 その質問に、セシリアが真顔で答えを返す。


「話が早くて助かります。恐れ入りますが、私の計画に力を貸していただきたいのですがーー」

 

 


 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ