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狩りの行方

 令嬢たちの間に、波紋の様に囁きが拡がる。


 その声が聞こえたのか、木の下で喋っていた、いつもはアベル王子と共にいるレオ・アンダーソンとエイドリアン・スタンレーが辺りを見回した。


「ーーセシリアが居ないって、本当?」

「ええ、そうなの。アベル王子も見当たらないのよ」


 レオ達の様子を見ていたクリストファーは、背後から声が聞こえて、ギクリとしながら振り向いた。


 馬の手綱を引きながら歩いて来たのは、セシリアの婚約者シモン・ベルトランだ。

 だが、彼の隣にいる者の姿をとらえて眉を寄せる。

 またルイーゼ嬢がそこにいるのだ。

 ーーしかも、シモンの手を握って、こちらに誘導してきている。

 彼女の不作法さは筋金入りの様だが、その手を振り払わないシモンのゆるさも問題である。


 同じクラスだから目に入るのだが、ルイーゼのスキンシップの過剰さは異様だった。

 可愛らしい彼女に触れられて悪い気がしない男子達は、鼻の下を伸ばしてスキンシップを歓迎していて、よく婚約者と揉めている。

 

 ルイーゼは男子生徒全般と親し気にしているが、特によく話しかけているのがクリストファーとシモンだった。

 節度を知らない彼女に呆れて距離を置いているクリストファーと違い、疑う事を知らないシモンは、腕を組まれたり、ランチを一緒に取ったりとかなり接近している。

 シモンに他意はなさそうだが、ルイーゼの擦り寄り方は、ただの友人の域を超えて見え、周囲に誤解を与えかねないものだった。


「クリストファー様、こんにちは」

「……ご機嫌よう、シモン」


 彼を見ていたのに気付いたシモンに一礼され、クリストファーも挨拶を返す。


「セシリアが居ないと聞きましたが、本当ですか?」

「そうらしいね……僕も先程来たばかりなのでよく分からないけど」


 シモンの事は嫌いではないが、クリストファーは複雑な思いで胸が痛み、表情が硬くなった。

 シモンがクリストファーの事をどう思っているか分からない。

 だが、シモンはいつもクリストファーの前でも自然体なので、こだわりも何も無く、こちらを気にしていないのかもしれなかった。


「あっ、レオ様達が移動し始めました。もしかしてアベル王子を捜すんでしょうか?」


 シモンと手をつないだまま、ルイーゼがレオ達の動きを目で追って言った。


「あら、じゃあ、私達もついて行きましょうよ。セシリア嬢を捜すのよ。ねえ、シモン様もセシリア嬢が心配でしょ?一緒に捜しましょう」

「え?ああ、うん。確かに心配だ」

「クリストファーも来てくれるかしら?レオ様達は森へ向かったみたい。来てくれると心強いのだけど」


 アンジェリカが意外な事を言い出して、シモンが頷き、クリストファーは怪訝な顔になった。

 ーーアンジェリカはセシリアを嫌っている。

 他の令嬢達は静観しているだけで動く気配はないのに、急にどうしたのだろう?


「エウノミア嬢も行きましょうよ。ずっと座っているのにも飽きて来たし、シモン様が捜すなら、お手伝いは多い方が良いでしょう?」

「そ、そうですね……捜すなら、お手伝いします!」


 エウノミアが賛同し、クリストファーもセシリアが心配だったので、奇妙に思いながらも、従者に馬を預けて先頭に立つシモンに続いた。


 *


「ーー今、レオ様達を追って森の中に入っているけど、セシリア嬢が森の中に入ったと皆は考えているのかい?」

「え?ええ。……迷うとしたら、誰だって、森の中に入って迷子になっていると考えますわよ」


 クリストファーが疑問を口にすると、隣を歩いていたルイーゼが自信なさそうに、もごもごと答えた。


「森の中だと、狩りに巻き込まれるから普通は入らないはずだけど……」


 今更気付いたのか、シモンがアンジェリカ達に促されるまま森へ入った事に疑問を感じ始める。

 ーー本当に今更だ。

 アベル王子なら、獲物を見付けてまた森へ入った事も考えられるが、セシリアが森へ向かうのは違和感しかない。

 何故レオ達の後をついて行っているのか?そこも疑問だ。


 この場の主導権を握っているのは、先頭を歩くシモンでは無く、うまく乗せてレオ達を追い掛けさせているアンジェリカだ。

 自分の前を歩くアンジェリカを何を考えているのかと睨むと、彼女は慌てた様子で前方を指差した。


「あら、あそこに山小屋が見えて来たわ。レオ様達も向かっているみたいですわよ。あそこにアベル王子がいるのかしら?」


「ーーアベル王子?僕達はセシリアを捜しているはずだけど……?」


 困惑するシモンの背を押し、アンジェリカがクスリと笑う。


「まあ、そうね。でも、念のため見てみたほうが良いのではなくて?万が一と言う事もあるでしょう?」


 含みのある言葉の毒に気付いて、クリストファーが顔色を変える。

 どういう事?とピンと来ていないシモンに変わり、クリストファーは鋭い口調でアンジェリカを咎めた。


「アンジェリカ嬢。滅多なことは口にしない方が身のためだと思うが。君の品格を落としたくなければ、口を慎んだ方が良い」


 常に紳士な態度を崩さないクリストファーが冷ややかな侮蔑を露わにし、その場にいた全員が驚いて静まり返った。

 凍てつく眼差しで射られたアンジェリカは、グッと唇を噛みしめた後、悔しそうにクリストファーを睨み返す。

 

「何よ。あの小屋にセシリア嬢が居たらどうするつもり?それもアベル王子と二人きりで」

「⁉」


 とんでもないセリフで、やっとアンジェリカの含みの意図を察したシモンが青褪めた。


「そんな訳ないよ……!だってセシリアは僕の婚約者だ」

「アベル王子の婚約者探しはまだ続いていますもの。セシリア嬢が見初められるかもしれないでしょう?」

「ーー止めないか、アンジェリカ嬢。勝手な憶測で混乱を生まないでくれ……!」


 不安げなシモンを煽る様にニヤリと笑うアンジェリカを、クリストファーが止める。


「……そう言えば、アベル王子がサビナ嬢と婚約解消した原因がセシリア嬢だと聞いたことがありますわ。あれって、本当なのかしら?シモン様がいるのに……まさかね」


 こんな最悪のタイミングで何という事を言い出すのか、ルイーゼが恐る恐る呟き、アンジェリカが得意げに顔を上げた。


「その話、私も聞いたわ。何でも、アベル王子がセシリア嬢を恋人にしたいと言っていたそうよ。サビナ嬢と二股して秘密の恋人にしたいとね。それでサビナ嬢が侮辱されたとショックで婚約解消したそうよ」


 シモンが顔を強張らせて絶句する。

 それはアベル王子が、勝手に妄想で自爆しただけだ。

 まるでセシリアにも責任があると言わんばかりの、あまりの言い草に、クリストファーの内側から止めどない怒りが湧いてくる。

 セシリアの名誉のために反論すべきなのはシモンなのだが、アベル王子がセシリアに気があるというほうに衝撃を受けたらしく、呆然として「ーーアベル王子が⁈」とよろめくだけである。

 思わず我を忘れて反論しようとした時。


「ーーーーアベル王子⁈」


 前方で山小屋の扉を開けたレオとエイドリアンの驚愕の声が聞こえてくる。


 その隙を突いたように、アンジェリカが身をひるがえして彼らの元に駆け出した。

 彼らの後をついて来ていたので、わずかな距離で、すぐに山小屋の戸口にたどり着く。


 アンジェリカが考えているのか分からないが、クリストファーが反射的に彼女を追うと、全員が続いて小屋の戸口へ駆けつけた。


 いち早く戸口から中を覗き込んだアンジェリカが、嬉々として声を張り上げる。


「……ほら!やっぱりね。一緒にセシリア嬢もいるじゃないの……‼」


 勝ち誇った声が、次の瞬間「え?」と引っくり返った。


 レオとエイドリアンの様子もおかしく、立ち尽くしたまま動かない。

 何があった⁈と彼らを押しのけて中へ入ろうとした瞬間ーー



「……まあ、偶然ね。皆さんお揃いでどうしたの?」




 中から出て来たのは4人ーーーーアベル王子とセシリア……本日は欠席していたはずの王子の友人、マリウス・ミュラー……そして、シモンの姉、ミラ・ベルトランが、にこやかな笑顔を浮かべて皆を出迎えたのだった。

 

 


 

 ご覧いただき有難うございます。

 事情により、次回からしばらく水曜日投稿となりますので、よろしくお願いいたします。

 今後、様々な思惑が絡んでセシリアが巻き込まれたりしていきます。次回はアベル王子が登場です!

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