お茶会
………………息苦しいわ…………
母親と茶会に参加したセシリアは、笑顔を張り付けて、内心あがいていた。
「何て美しいご令嬢なの……!あと十年もすれば求婚者が列を作るんじゃない⁈」
「私の娘にも見習わせたいわ。三十分も椅子にじっと座っていられないのよ。ほんとにお転婆で」
「お作法も完璧じゃありませんか。ハート夫人のご教育がゆき届いているのね」
セシリアが誉めそやされると、母は機嫌が良くなる。
「いいえ、まだまだですのよ。ただ、物覚えが良くてそこが取柄なんですわ。侯爵夫人の娘さんのほうが美しい所作をしていらっしゃいます。やはりアンジェリカ様の上品さには及びませんわね」
気持ちよく喋っていた母だったが、注目を浴び過ぎて一部の婦人方から睨まれているのに気付き、今日の茶会の主催者である、侯爵家の娘に話題を変えた。
セシリアは、人々の視線から逃れられてホッとする。
沢山の視線に、セシリアが立派なご令嬢の仮面をかぶっただけの、ただの娘だと暴かれそうで怖いのだ。
今日は他家のご令嬢がたくさん出席しているが、ほとんどの子が長い婦人たちの会話に飽きて、足をぶらぶらさせたり、テーブルに並ぶお菓子をお皿に山盛りに取ったり、大きく口を開けてあくびをして退屈そうにしたり、マナーなどどこへ行ったのかと言うほど自由に振る舞っていた。
ただ、セシリアと侯爵家のアンジェリカだけは別で、二人だけは周囲の子供達とは別格だった。
子供達が限界なのを見て取った侯爵夫人が、庭を開放する。
そこで遊んでいいと言われて、子供たちはわっと表へ走り出た。
セシリアは戸惑ったが、席にいても母たちのお喋りの邪魔になるだけだと分かっていたので、そっと椅子から滑り降りて庭へ出た。
最近、子供たちを連れた集まりが続いていた。
母親の口ぶりで、婚約者探しがすでに始まっているのだと知る。
同年代位の子供達と混じっても、セシリアは何となく自分が浮いている様な気がしていた。
「先日、お父様に買ってもらったの!」
「まあ、どこのお店で買ったの?」
楽し気に両親との買い物の話を楽しむ女の子達に混じれず、その場を離れる。
男の子達の飼い犬や、最近習った剣の話にも加われないので、庭の花を見て回る事にする。
自分の好きな事ができて羨ましいな
両親とお出かけできて羨ましいな
生き生きしている皆を見ると、自分が人形みたいだなと思う。
正直、自分の好きな物が分からない。
けど、好きなものが在っても諦めなければならないのなら、初めから好きにならなければいいので、自分の気持ちが分からないのは好都合でもあった。
「セシリア嬢。ちょっと、お待ちくださる?」
背後から声を掛けられて振り向く。
そこにいたのは、侯爵令嬢のアンジェリカと、三人の令嬢だった。