儚い恋
「……正直言って、クリストファー様に、私が好かれる要素が分からないの。皆に好かれている彼が、何故、私を好きになるというのかしら?ほとんどお話したことも無いのに。何か勘違いしているのではないかな、と思うのよ」
人気のある男性に好かれて浮かれるでもなく、むしろ寂しげに微笑むセシリアに、ミラは真顔になった。
「理由が必要って事?人を好きになるのに?」
ミラが首を傾げる。
ーー好きって感情を説明できる人がいるんだろうか?
それこそ、どこが好きか説明出来たら、そこしか好きじゃないのか不安になるし、ここが得だから好きと言われたら打算的に感じて興醒めだけど。
おまけに、セシリアは自分の容姿に無頓着なのだろうか?
輝く銀髪に澄んだ空色の瞳、お人形の様に整った美しい外見。
頭も良く礼儀作法も完璧で、だからこそ周囲の女の子達からの嫉妬も凄いみたいだが、もしミラがセシリアみたいだったら、超絶優良物件のクリストファーを捕まえて離さないのだけれど。
自分のサラサラの黒髪と黒い瞳は気に入っているが、セシリアと一緒だとコンプレックスを刺激される。外見も能力も平凡な自分が霞むのが分かるからだ。
小さい頃はセシリアと並ぶと周囲の大人が比べるから、セシリアに罪は無いが、彼女を嫌っていた。
だが、家が落ちぶれていくにつれ、友達だと思っていた令嬢達は離れて行き、ついには無視したり、陰で指をさして流行遅れのドレスやアクセサリーを笑う様になった。
友達は一人残らずいなくなったのに、セシリアだけは何も変わらずシモンとミラへ話しかけ普通に接していたのだ。
ーー多分、クリストファーもそういう所を気に入ってるんじゃないのかしら?
損得を考えずに、誰にも平等にいられる人間は珍しい。
辛い時期に、ミラやシモンはそのセシリアの変わらなさに救われた。
ミラは5歳も年下だし、クリストファーに特別な感情を抱いてはいない。
それだけでなく、クリストファーの年齢に見合わない、聡明な胡散臭さがどうも受け付けないのだ。
賢いと言えば聞こえはいいが、彼の冷ややかな冷静さが、どうにも苦手だ。
あの、自分の才能や価値まで見透かされる様な鋭い眼差しに会うと、萎縮してしまう。
クリストファーを射止めようと、大勢の令嬢たちが押し寄せるけど、彼に付け焼刃な知識や嘘や誤魔化しは通用しないんじゃないかなと思う。
ただ、クリストファーの本心を自分が代弁するのは違うし、勝手な意見を喋るのもどうかと思うので、ミラは、うーんと悩んだ。
「クリストファーの気持ちは彼に聞かないと分からないけど、セシリアは素敵な女の子だと思うわ。じゃあ、セシリアの気持ちだけど、シモンを好きなのは何故?」
狼狽えて、もじもじしながらセシリアが意味も無くティーカップを弄ぶ。
突っぱねてもいいのに、答える所が、抜けていると言うか、素直というか。
「……ええとね、一緒にいると安らかな気持ちになるの。温かいものに包まれている気がするのよ。私にとって、それはとても貴重で、大切な事なの」
ーーーーどうして孤独に聞こえるのかしら?
幸せそうに微笑んでいるはずなのに、一瞬、セシリアが儚く消え入りそうに見える。
愉快な恋の話のはずが、虚を突かれてミラは目を見張った。
見間違いかも、とゴシゴシ目を擦っていると、背後から声を掛けられて飛び上がりそうなほど驚いた。




