擬態
「……アカデミーにね、セシリアとそっくりな娘がいるの」
散々だった夜会からひと月後。
無事、セシリアはシモンと婚約する事になった。
シモンの父親のベルトラン伯爵は喜んでくれたし、セシリアの母親も、なかなか決まらない婚約者に業を煮やしていたためか、すんなり許可してくれた。
問題はセシリアの父親だったが、隣の領地同士で旧知の相手だったため断るのも気まずかったらしく、不承不承許可を出した。
これで晴れてセシリアとシモンは婚約者同士になった。
もともと幼馴染だったため、シモンと会うのもその延長線上にある感じで特別変わったことは無かったのだが、たった一つ変わったと言えば、以前は近寄りがたかったミラが、時々セシリアに会いに来てくれるようになった事だった。
そして、両家で簡単な婚約式を行ったのだが、ベルトラン家のタウンハウスに集まって晩餐会をした後、ミラの部屋に子供達だけで集まったのだが、ミラとシモンが深刻な顔でセシリアをソファに座らせ「落ち着いて聞いてね」と前置きして、告げて来た話がそれだった。
「えっ……似てるって事?」
瞬きし、困惑したセシリアは首を傾げた。
シモンは新入生だが、ミラは試験を受けて途中編入でアカデミーに通う事になった。
学校に入学して以来、しばらく忙しくて二人と会えていなかったのだが、久しぶりに会ったと思ったら、二人とも酷く焦れている様子だった。
「違うのよ。ほら、一か月前の夜会でセシリアが噴水に突き落とされたエウノミア嬢を助けたでしょ?あれ、今おかしな話になっているの」
ああ、とセシリアは思い出した。
婚約の話ですっかり忘れていた。
「エウノミア嬢はお元気かしら。あれから何事も無かった?」
「ーーエウノミア嬢は大丈夫。でもさ、何だかおかしいんだよ。彼女を助けたのはセシリアじゃなくなってるんだ。スタットン子爵家の娘にルイーゼって言う令嬢がいるよね?何故かその娘がエウノミア嬢を助けたことになってるんだ。……でね、それだけでも変なのに、さらにその子奇妙なんだよ。髪型や服装が君にそっくりなんだ……!」
*
ミラとシモンの話はこうだった。
アカデミーで、相変わらず田舎暮らしを馬鹿にされてウンザリしていた二人は、姉弟でランチの時間に食堂へ行ったのだが、テーブルに婚約者同士で座る人々がかなり多い事に気付いた。
友人同士もいるが、アカデミー卒業後すぐに結婚するケースも多いので、在学中に婚約者と絆を深めようと努めているらしい。
まだ入学して間もない、幼い子供たちが仲良くしている姿もあって、初々しく微笑ましかったのだが、その中に思い切り場違いなグループがいた。
迷惑そうな男子ひとりに対し、5人の女子がテーブルに着いていて酷く騒がしい。
何だと思って見てみると、男子はラザルス侯爵家の令息であるクリストファーで、女子の一人は彼の婚約者、エウノミア・ノクス嬢。それは良いが、何故かアンジェリカ・ブルック嬢とその取り巻きが同席し、最後の一人を見た時……一瞬、セシリアかと思い、目を疑った。
髪の長さや髪飾り、しぐさまでよく似た女の子がそこにいたーーーーそれが、ルイーゼ・スタットン子爵令嬢だった。




