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アベル王子

 グラスの果実水を飲み干し、セシリアは吐息をついた。

 平気なふりをしていたが、アンジェリカ達の襲撃はセシリアを打ちのめすのに十分だった。


 ーーーー父親の姿は、以前、花屋で見かけたきり。

 家庭教師のジョアン・マクレインが、セシリアをアカデミーに入学させたらと言う進言は、当たり前の様に却下され、セシリアはタウンハウスで引き続き勉強漬けの日々を送る事が決まった。

 探してくれるわけでもないのに、セシリアの婚約には父親がダメ出ししてくるらしく、母が苛立っている。

 

 意外とアンジェリカ達の話が当たっていて、伯爵家の後継者に妹を指名する気かもしれない。

 そのうち、屋敷に愛人たちを連れ込む可能性だってある。

 セシリアが屋敷を追い出されて、お役御免になる未来を覚悟していた方が良いのかもしれなかった。


 ……それにしても、母親が戻ってこないな、とセシリアはホール内を見回した。

 今日は余りにも会場が広いのと、人が多過ぎて、すぐには母親の姿を探せなくなっていた。

 アンジェリカ達の後に声を掛けて来る人間もおらず、ぼんやりしていたが、さすがに手持無沙汰で帰りたくなってきた。


 仕方なく椅子から立ち上がり、会場内を人にぶつからない様、気を付けながら母を探す。

 参加はしたのだから、母に断って帰ってもいいだろう。

 王室主催のパーティーだと、普段会えない貴族たちも出席するので、母親も浮かれて会話が弾んでいるのかもしれない。

 

 会場を半周したあたりでセシリアは、再びアンジェリカ達のグループに出くわしそうになり、急いで近くの扉を開け、廊下へ避難した。

 彼女たちはソファのある一画で、固まって何事かを話していた。

 楽し気ではあるが、近付かないに越したことは無い。


 後ろ手で扉を閉めると、喧騒が遠ざかり、しん、と静けさに包まれる。

 会場内には護衛騎士が数名立っていたが、廊下にはまばらな様だ。

 セシリアは息抜きのために、少し廊下を歩こうと思い立つ。

 ーー窓から見下ろす中庭は割と人がいるので、廊下にかかっている絵画でも見て時間を潰そう。

 

 セシリアはそのまま人の少ない廊下を、ゆっくり進んで行った。


 *


 ……話し声がする?


 巡回警備の騎士たちを避けながら、人のいない廊下を歩いていたセシリアは、迷ってしまったため中庭に降りる階段を下ろうとした。

 しかし、逆に階上で数人が笑いあう声がしてピタリと足を止める。

 普通は気に留めないのだが、自分の名前が呼ばれた気がして、黒く染まる階段を足音を潜めてそっと上に昇ってみた。


 恐らく上の階は、王族のみが入れるプライベートゾーンだと思う。

 立ち入り禁止区域だろうが、自分の名前が呼ばれていてはどうしても気になる。

 見つからない様、ドキドキして階段を昇り切ったセシリアは、壁に身を隠しながら暗がりの廊下を覗き込み、そこに数人の少年たちがいて、壁に寄りかかりながらおしゃべりしているのを見つけた。


「ーーだよな。親に決められるから、全然好みじゃないのに婚約者にさせられるんだぜ。勘弁して欲しいよなー」

「お前なんかまだいいじゃないか。俺なんかフローラ嬢だぜ。本当に最悪……!」


 ドッと笑いが起き、大げさに嘆く少年の肩を皆で叩く。


「いや、お前より気の毒な奴がいるぞ。ネイサン・ウォルシュだ。お相手はアンジェリカ嬢だぜ。わがままに振り回されて大変らしい。身分はAだけど顔はBだし、性格はC。結婚するのにあれは無いよな」


 ーーAやBって何だろう?と不思議に思ったセシリアだったが、すぐに思い至った。

 身分がAなら、格付けだ。

 つまり、身分は良いが、顔が普通で性格が悪い、と言う意味だろう。

 アンジェリカは男子にも性格がバレているらしい。

 セシリアは何とも言えずに額を押さえた。

 アンジェリカはクリストファーでなくとも身分の高い令息と婚約すると思っていたが、伯爵家と縁を結ぶと聞いて以外に思っていたのだがーーそう言う事かと合点がいく。


「そのアンジェリカ嬢が、身の程知らずにも俺に擦り寄って来てさ。もう愛想笑いも限界。会場に戻りたくないなあ。誰か変わってくれよ、俺の代わりに女の子達とダンスしてくれよ」


 ーーーー‼

 一人の少年の声にセシリアが凍り付く。

 ーーーーーーマズい。この声は側妃のアベル王子の声だ。

 どうも疲れたアベル王子が、友人の子息たちを連れて休憩している場面に遭遇したようだ。


 見つからない内にここから逃げないとーーーー

 ごくりと息を飲んで、セシリアは冷や汗を浮かべた。




 

 


 

 

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