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夜会

 煌びやかなシャンデリアの明かりがホールを眩く照らす。

 ワルツを奏でるオーケストラの華やかな音に合わせ、男女が手を取り合って、軽やかなステップを踏んで色とりどりのドレスの裾をひるがえし、舞い踊っている。


 セシリアは笑いさざめく人々の喧噪から外れた壁際の椅子に腰かけ、果実水の入ったグラスを口にしていた。


 ーーーー今夜は、王室主催の夜会に母と参加している。

 入場して間もなく、母はよくお茶会に招かれる婦人たちに挨拶に行ったため、セシリアはひとり退屈しながら夜会を眺めていた。


 セシリアと同じ年頃の少女達もたくさん参加していたが、その子達と特に親しくはないため、早々に椅子に座って傍観者となった。

 夢中でおしゃべりする婦人たちや、挨拶回りする紳士たち、仲良し同士で固まる少女達の姿を見守る。

 こちらを見てクスクス笑う少女達もいたが、気にしていない。


 今日は、側妃の王子が婚約解消したというので、その後釜狙いのためか令息たちはあまり参加しておらず、婚約者がいるいないに関わらず、令嬢たちばかりが大勢集まっていた。

 噂は本当だったらしく、王からの開会の挨拶で、側妃の王子の婚約者を再度選定し直すことが公表された。


 王妃の王子であるジリアンは婚約者である隣国の姫と夜会に参加していたが、側妃の王子のアベルは一人で参加しており、現在、開会直後から何人もの令嬢達をダンスに誘って踊り続けている。

 令嬢たちの親たちも浮足立ち、ここぞとばかりにアベルに擦り寄り、一部で熾烈な争いが繰り広げられていた。


 セシリアの母は、セシリアが王子の婚約者になる事までは望まなかったらしく、今回参戦していない。

 他の公爵や侯爵家の目の敵にされても得は無いと判断したのだろう。

 

「あら、セシリア嬢じゃないの。お久しぶりですわ」


 気取った声がして振り向くと、すぐそばにブルック侯爵家の令嬢アンジェリカが、いつもの様に取り巻きの少女たちに囲まれて、こちらを見下すように立っていた。


「まだ婚約者がお決まりになっていないんですって?お気の毒ねぇ。クリストファー様とも、残念ながらご縁が無かった様で。うふふ。そりゃあね、今後は格下という自覚を持って、大人しくなさったらよろしいのよ」


 機嫌良く笑うアンジェリカの周囲にいる少女達も、追従して意地悪く笑う。

 彼女たちは親から、セシリアの賢さやマナーを見習いなさい、と比較されてきた。

 それが逆転して、自分の方が優位に立てた事で、胸がすく気持ちになっていた。


「アンジェリカ嬢はウオルシュ伯爵家のネイサン様と婚約されたそうですね。おめでとうございます」


 何の感慨も無く、セシリアはそう返した。

 悪意しかない相手を、まともに相手するのは時間の無駄だ。

 彼女たちは会話をしたいのではなく、叩ける相手を叩きのめしたいだけなのだ。

 平然とお祝いの言葉を告げると、アンジェリカはセシリアが悔しがるでもなく、全く気にしていない様子なのに鼻白んだ。


「ふん。あなたに祝われたって嬉しくないわ」


 ぴくりとアンジェリカの眉が不快気に動く。

 望んでいたクリストファーと婚約できず、しかも婚約者が格下の伯爵家であることは彼女の矜持を傷つけていた。だが、不本意とはいえど、セシリアの様にいないより余程マシだ。

 面白くなさそうに眉をひそめるアンジェリカの隣の令嬢が、にやりと唇を歪めて口を開いた。


「セシリア嬢のお宅では妹さんがいらっしゃるわね。もしかして、セシリア嬢じゃなく、妹さんにはお父様がきちんと婚約者を探して下さるんじゃない?」


 ーーーーぐっ、とセシリアは痛みをこらえて動揺を隠す。

 慣れたつもりでいたのに、心無い言葉が胸に刺さった。


「今は伯爵令嬢だけど、数年後には違っていたりして。妹さんが伯爵令嬢で、あなたが平民になっているかもしれないわよ?」


 可哀想に、と言いながら、令嬢たちがクスクス笑いを漏らす。

 的確に弱味を嗅ぎつけ、いたぶる彼女たちの顔には優越感が浮かんでいた。


 ーーーー返す言葉が喉につかえて、声が出ない。

 だが、無表情を貫くセシリアに、令嬢たちは反応が無さ過ぎて呆れた様だった。


「……相変わらず、何を考えているのかさっぱり分からなくて不気味だわ」

 

 興ざめした様に捨て台詞を残して、アンジェリカ達が関心を失って引いていく。

 人目があるからか、思いの外アッサリと居なくなってくれた事にセシリアは安堵した。

 アンジェリカが執着するクリストファーの婚約者がセシリアではなかったから、しつこく絡む必要が無くなったのだろう。

 嫉妬の対象でなくなった事で、これからは徐々に関心が薄れるかもしれない。

 面倒ごとが減るならありがたいと、ほっと胸を撫で下ろした。


 しかし、アンジェリカの逞しい事と言ったら、先頭を切ってアベル王子に挨拶に行ったことと言い、感心するしかない。

 ブルック侯爵がアンジェリカの行動に顔をわずかに引き攣らせており、侯爵の思惑と別にアンジェリカが暴走しているのが丸分かりだった。


 アベル王子と、元々の婚約者だったリベラ公爵の令嬢である、サビナ嬢との婚約解消の理由が明かされていないのがセシリアとしては気になるのだが、王子に群がる人々は知っているのだろうか?

 

 母親も驚いていたが、王族の婚約解消はかなり珍しいらしい。

 当然の様に、この場にリベラ公爵家は来ていない。

 王国でも王家の次に権威のある家門との破談は、よほどの事ではと思う。

 セシリアはアベル王子の婚約者になるより、何故、破談になったのか理由の方に大いに関心があった。

 


 

 


 

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