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総差配人エドワード

 「こんにちは!スコットさん、郵便ですよ!」


「んー、誰だ?……はあ?ハート伯爵からだと⁈ずっとだんまりだった癖に、今更かよ……!」


 金曜の昼下がりの午後。帳簿と書類に埋もれて机に向かっていた、ハート伯爵領総差配人 エドワード・スコットは、郵便配達員が持ってきた手紙をひっつかんで、誰もいない事務所で盛大に文句を垂れた。


 ここはハート伯爵領の主都、ブライトゼムにあるエドワードの弁護士事務所である。

 所長:エドワード、従業員:エドワード という、従業員のいない個人事務所で、一応、大通りに面しているが、街の端っこのビルの一室でささやかに活動する弱小弁護士事務所だ。


 エドワードは地方の男爵領の次男で、兄が領地を継ぎ、自分は独立して弁護士になった。

 しかし現実は厳しく、弁護士の仕事は大手に取られてしまうため、父や兄の補佐をしていた経験から、貴族の領地管理に詳しい利点を生かして複数の領主の総差配人を請け負っている。

 ハート伯爵はそのなかの雇用主の一人で、領地経営を放棄し、総差配人に丸投げして連絡すらよこさないという、とても厄介かつ、不届きな人物であった。


 総差配人とは、領主の代わりに地方の土地などの管理をする、土地管理人たちをまとめる役職である。

 多忙な領主の代わりに、各管理人達から情報収集し、監督する重要な役で、領主とも通常は緊密に連携を取っている。


 噂ではカントリーハウスに戻らず、王都のタウンハウス近くに愛人を囲って、妻子をないがしろにしているとんでもない不届き者らしく、ハート伯爵領で大変に評判が悪い。

 奥さんは美人、ご令嬢は可憐な美少女で、ハート伯爵領では領民に密かに人気があるのだ。

 伯爵が視察巡回しないため、それを良いことに地方の管理人が不正に走っていて困っているのだが、数年前から何回嘆願書を出しても返答が無く、いい加減、腹が立っていた。


 エドワードの給与は銀行経由で支払われているから良しとするが、不正にさらされて困窮している領民を見棄てるなんざ、領主失格である。

 領民から、土地管理人から過剰に税を取られると訴えが相当数来ているが、エドワードが調査に行っても証拠がつかめないで空振りが続いている。

 不正をする奴らというのは、悪知恵が働くようで、しっぽをつかめず悪戦苦闘しているのだ。


 だが、証拠に関係なく、土地管理人をクビにしたり強制捜査ができる、超法規的権利が領主にはある。

 領民の訴えの多さからも管理人の不正は事実だろうと思う。

 だから何度もハート伯爵に訴えているのだが、どれだけ冷血なのか、領民の悲鳴が届かない様で、もう総差配人を辞めてやろうかと憤慨していたところだった。


 今更手紙をよこしやがって……!と、プンプンしつつも、急いで封蝋を切って中を見たエドワードは、丁寧な謝罪が書かれていたことで、幾分溜飲を下げた。


 何だ?やっと自分の愚かさを反省したのか?と怪訝に思ったが、現状確認がしたいとの領民を心配する真摯な文面に心打たれる。

 ずいぶんと心を入れ替えた様で薄気味悪いなと、手紙をひっくり返してみるが、確かにハート伯爵家専用の便箋と封筒、封蝋だし、それに領主印もきちんと押されている。

 ーー旦那じゃなく、ついに奥様が代理でよこしたのかもしれない。

 正式な代理なら、領主の裁判権も代行できるから、こっちには願ったり叶ったりだ。

 間違いなさそうだし、きちんと対応してくれるなら大歓迎だなと思いつつ、とバサバサ資料を集めてエドワードは分厚い報告書をしたため始めたのだった。


 


 

*総差配人とは

 広大な領地を持つ領主は、村や町の土地改良工事や借地管理、税徴収などを自分の代わりに行う土地管理人を町村ごとに配置している。その土地管理人たちから各地の情報をまとめて領主へ報告したり、管理人達を監視、監督するまとめ役を総差配人という。

 

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