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嘲笑

 招待されるお茶会で次々に良家の子女の婚約発表がされるのに、セシリアの母親は苛立っていた。


「どうして……どうして、セシリアに良い縁談が来ないの⁈あれだけ誉めそやされていたのに、おかしいわよ‼」


 参加した子爵家の令嬢の婚約発表のお茶会の席で、耐えきれない様に母親がテーブルの下でギリッと手を握りしめる。

 下位貴族も順調に縁組が決まっていっており、残っているのはかなり家格が低い者、家が傾きかけている者や評判の良くない者、何かしらの問題を抱えている家ばかりになっていた。


 先日、クリストファーから借りたジャケットを返しにラザルス侯爵家を訪問して歓待を受け、母親はラザルス侯爵家と縁が出来たと喜んでいた。

 だが、クリストファーの婚約者には同じ侯爵家でセシリアの一歳年上の、エウノミア・ノクス侯爵令嬢が選ばれ、期待外れと分かってからはずっとイライラし通しであった。


「……お母様、お茶が冷めてしまいますわ。このお菓子、美味しいので召し上がってみて」


 お祝いムードの中、淑やかな伯爵夫人の仮面が外れそうな母親へ、セシリアは母の好きなタルトを皿にとりわけた。

 ハッとした母親が背筋を伸ばして扇を口元にあて、笑顔を張り付ける。


 セシリアに縁談が来ていない訳では無い。

 ただ、由緒あるハート伯爵家に来るにしては、相手がお粗末なのだ。

 子爵家次男の宰相の息子、商人から男爵位となった富豪の三男、男爵を賜った騎士団長の次男。

 母親は、それが何故か分かっていないようだったが、セシリアは知っていた。


 子供たちは、大人の様にうまく本音をオブラートに包めない分、正直であり、すぐに口を滑らせる。

 先程、子供達だけで自由時間を与えられた時、またも数人の女子に囲まれたセシリアは、見下した様子の女子たちに"売れ残り"とからかわれたのだった。


「いい気味。ちょっと賢いからって調子に乗ってるからよ。あなた、お父様から見捨てられてるんですって?」

「愛人の子に負けちゃって、平民以下なのねえ」

「可哀想、うふふ」

「愛人の子が家に来たら、追い出されるかもしれないんでしょ?離婚されたらあなたは不良債権になるかもしれないってお父様が言ってたわ」

 

 容赦のない悪意にさらされながら、セシリアは楽しそうな令嬢たちをただ見返していた。

 ーーこの子達は、他人の不幸が面白くて仕方ないんだわ。

 こらえきれない愉悦をたたえ、おかしそうにあざ笑う令嬢たちはとても醜かった。

 こうやって徒党を組んでいるが、仲間が不幸におちいっても、彼女たちは助けるどころか、逆に醜聞を撒き散らして窮地に追い込み笑うのだ。


 子供だからと無邪気なわけではない。むしろ残酷だ。

 お茶会は表面的には和やかだったが、裏ではイジメや家格差別が横行していた。

 だから、この人達が喜ぶような事はしないとセシリアは決めていた。

 泣いたり、おどおどしたり、感情的になってはイジメが酷くなる。

 だから、ただじっと皆を見返した。

 姿勢を正し、誰よりも高貴な優雅さをまとって。


 

 


 


 

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