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誤算

「お父様、クリストファー様を私の婚約者にして欲しいの」


「ーー何だって?」


 期待を込めて言ったアンジェリカに、父親はけげんな表情を向けた。

 突然で驚いたのだろうと思ったアンジェリカが、再度主張する。


「私の婚約者は、いとこのクリストファー様がいいの。同じ年だし、同じ侯爵家で家柄も釣り合うわ。誰かに取られる前に婚約したいの。ねえ、パパ、いいでしょう?」


 おねだりする様に上目使いになったアンジェリカは、両手を組んで、お願いのポーズをしたまま賛成の言葉を待った。

 父親さえ良いと言えば、誰が何と言おうと、セシリアなんて押しのけてクリストファー様を手に入れられる。

 ーーそうだ、あんな下位の者など権力でどうとでもなる。

 父親の威光をもってすれば、アンジェリカに思い通りにならないものは無い。

 

「アンジェリカ、あなた、自分がクリストファーにふさわしいと思っているの?」


 あきれ返った母親の顔にムッとして、アンジェリカは反論した。


「ええ、同じ侯爵家ですもの。彼は私にふさわしいわ」


 母親が頭痛をこらえる様なしぐさで額に手をやる。

 オーバーに呆れた様子を表現する母親を、フン、とアンジェリカは鼻であしらった。

 母親が意地悪しようがかまわない。父親さえ味方なら良いのだから。


「ダメだ。クリストファーとアンジェリカは婚約できない」


 じっとアンジェリカの様子を観察していた父親がキッパリ言うと、賛成されるとばかり思っていたアンジェリカは、期待を裏切られて愕然とした。


「ど、どうして?パパ、私はクリストファー様が良いの。どうしてダメなの⁈」

「……アンジェリカ、婚約者より、勉強をさぼらないのよ。基本的なマナーも完全に身についてないのに、婚約者選びなんて早すぎるわ」


 口をはさんできた母親を、キッとアンジェリカが睨みつける。


「そんなの関係ないわ。今、お父様に尋ねているの。お母様は邪魔しないで!」

「アンジェリカ……!」


 言い合いになりそうな空気を遮って、父親が重々しく口を開く。


「私の考えでは却下だ。アンジェリカの婚約者は私がふさわしいと思った者を選ぶ。改めて言うが、ラザルス侯爵家にアンジェリカが嫁ぐことは無い。それは変わらない。この話は以上だ」

「でも、お父様……!」


 父親がそんな意地悪を言うなんて、とアンジェリカは震撼した。

 ーー嘘。パパはいったいどうしちゃったの?

 ーーお母様から何か吹き込まれているのかしら?

 ーー私が可愛いなら、認めてくれるはずよ。そうよね?

 ーー優秀で将来有望だと父親も褒めていたクリストファー様に、娘が嫁いだら安心でしょう?


 ソファから立ち上がって話を終わらそうとする父親に、アンジェリカが焦って食い下がる。


「どうして?お母様が反対してるから⁈酷いわお父様、お母様なんか、弟のエイドリアンばかり可愛がってるんだから!分かってるのよ、私が可愛くないんだわ!」

「……そういう事ではない。パメラはアンジェリカも平等に愛している。誤解するんじゃない」


 ーー信じられない、パパがお母様の味方をするの……⁈


 父親が淡々と訂正すると、アンジェリカは神経を逆なでられた様子でカッと目をむいた。


「パパまで何よ!私の味方なんて、この家にはいないんだわ!酷い……何て酷い人達なの!私、こんな家に生まれて不幸だわ……うわあああん……‼」


 ソファを立ち上がってこみ上げる感情のまま癇癪をおこし、地団太を踏んだアンジェリカは、ボロボロと涙をあふれさせ叫んだかと思うと、勢いよく書斎を飛び出し、階段を駆け上る。


 ソファに肩にかけていたショールが落ちていて、それを拾った夫人が慌てて後を追おうとするが、侯爵が止め、執事にお茶を入れて来るよう申し付けた。


「……あなた……」

「ああ、分かってる。アンジェリカには頭を冷やさせたほうが良い」


 書斎に沈鬱な空気が漂い、侯爵は重い溜息をついた。



 


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