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道化師たち

 「ねぇ……こんなとこに呼び出すなんて、何なのよ。寒いんだから、用があるなら早くしてよね‼」


 アンジェリカ・ブルック侯爵令嬢が白い息を吐きながら、コートの前をしっかり合わせて身震いする。

 その後ろで不貞腐れた様な顔をしたルイーゼ・スタットン子爵令嬢が頬を膨らませて不満を露わにしていた。



 ――――今日は遂に、国王の統治権返還の日だ。

  同時に貴族達の爵位返還の日でもあり、国内に残った貴族達が返還式を前に続々と王宮に集まっていた。


 ここ数日で、外国に親戚を持つ幾つかの家門が国外へ逃れた。

 だがその数は思いの外少なかった様で、爵位を失くしても国内に留まりたいと願う貴族が意外にも多数派だった。


 例え爵位を失おうとも、生まれ育った地への愛着は消えない。

 この先の不安を抱えながらも、現実を受け止めて生き続けるのを選んだ。


 集まった貴族の面々は一様に複雑な表情を浮かべていたが、時代の流れには逆らえないとどこか悟った様な諦念の空気を纏って、お互いに最低限の挨拶を済ませると静かに壁際に寄って儀式の開始を待っていた。


 国民達の心情は、晴れやかなものと領主を慕っていたために悲しむ者との間で落差があって悲喜こもごもであり、期待と不安がないまぜになった心を映し出す様に空は灰色に曇り、空気は凍てついてしんと冷え込んでいる。


 朝早くから王宮に集まった貴族達は、もう足を踏み入れる機会が失われるであろう王宮を感慨深く眺め、重ねてきた歴史を噛みしめるように思い返していた。


 そんな感慨にふける人々の間を抜け人気の無い裏庭に呼び出されたアンジェリカとルイーゼは、憮然として呼び出したエウノミア・ノクス侯爵令嬢と向き合っていた。


 権限の無くなる王族や貴族の為に割く余裕はないと、警備費用の削減をされたため門番以外の警備兵がいない。

 閑散とした裏庭は秘密の会話にうってつけで、誰も来ないと分かっているエウノミアは声を潜める事も無くふてぶてしい態度で口を開いた。


「用なんて一つしかないわよ。セシリア・ハートがジリアン殿下と結婚して王妃になるのですって。そんなの許せないわ。どうしてセシリアだけがいつも良い目を見るのよ……!おかしいじゃないの‼」


 奥歯を噛みしめて眼を据わらせるエウノミアの顔が、醜く歪む。

 悪態を吐くエウノミアの眼はギラつき、羨望混じりの嫉妬を吐く姿は滲み出る醜悪さで思わず目を背けたくなるほどだった。


 眉間に皺を寄せて一歩引いたアンジェリカが、嫌そうに言う。


「許せない?あなたが許そうが許すまいが関係ないわ。世論がそう望んでいるんですもの、いい加減にしたら?」


 社交会では友人同士で通っていた二人だが、それは建前の話だ。

 双方の家が平民となればもう上下関係は無くなる。遠慮なくアンジェリカはまくし立てた。


「これまではあなたに従って来たけど、もう終わりよ。これまでクリストファーに好かれているセシリアが気に入らなくて嫌がらせをしてきたけど、エウノミアは陰に隠れて指示するだけだったわね。クリストファーの前で良い子でいたかったんだろうけれど、内心、セシリアよりあなたの方が卑怯で腹が立ってたわ。いつも自分で動く事も無く、手も汚さずに文句ばかり。ついにクリストファーに本性を出して嫌われたんですってね。ご愁傷様、いい気味よ!もうセシリアへの嫌がらせなんて飽き飽きだわ。クリストファーが変わらないのは嫌って程分かったし。したいなら貴方が勝手にすればいいじゃないの……!」


「……そうよ、セシリア嬢のフリで彼女の評判を落とすって指示に従うのも、もう無理!かえってセシリア嬢と比べられて辛かったんだから。安っぽいとか軽薄そうとか、セシリア嬢の出来損ないみたいとか言われて散々だったのよ!アカデミーは強制的に卒業になって援助は終了でしょ?だったらもう私はセシリア嬢の嫌がらせから降りる!……私は彼女が王妃になっても良いと思うもの。ジリアン殿下とこの国を良くしてくれるのを期待してる!」


 身分差でいつもオドオドとエウノミアの顔色を窺っていたルイーゼが吹っ切れた様に鼻息荒く宣言し、二人に反論された事でエウノミアはみるみる顔を怒りで紅潮させ、分かり易く不機嫌になった。

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